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2004年8月のコラム

憲法論議と地方自治

 日本国憲法の改正論議が、これまでにない高まりを見せている。論議はもっぱら第9条の規定に集中しているが、それを最初に読んだとき、主語が「日本国民」であることに痛く感動したことを思い出す。戦争を放棄したのは、国でも政府でもなく、私たち国民だったのだ、ということにあらためて感動を覚えたのである。そして、前文の主語も「日本国民」であることを確認して、「主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」と大見得を切ったのも私たち国民だったのだ、憲法というのは私たち日本国民の政治的な決意表明としてデザインされているのだ、これが国民主権ということなのだ、と私なりに納得をしたのだった。

 第9条の規定に限らず、他の条文についてもそのような観点から読まれるべきであり、改正論議をする場合も、もっともっと広範な国民的論議が繰り広げられてしかるべきである。日本国民であることを自覚するかぎり、憲法論議を一部の政治家や憲法学者にゆだねて、「われ関せず」を決め込むことは許されないこととわきまえなければならない。憲法第8章に定められた地方自治に関する4ヵ条もそうである。

 多くの地方自治研究者は、憲法に第8章が規定されたことの画期的意義を強調する。私もその一人である。今年は日本国憲法の施行から数えて 57年であり、大日本帝国憲法の施行(明治23年11月29日)から日本国憲法施行までも同じ57年である。そのこと自体にそれほど大きな意味はないかもしれないが、国民主権の論理を徹底させて地方自治のあり方を考えようという観点からすると、まだまだ私たちが、大日本帝国憲法時代の感覚で地方自治をとらえ論じてきていることに驚かされる。現行憲法に切り替わって半世紀以上たつのに、地方自治に関する思考枠組みがいまだ古色蒼然としているのである。

 その一例は、〈地方自治=地方行政〉、〈地方自治=団体自治+住民自治〉という等式的理解がいぜんとしてまかり通っていることにも見られる。戦後の地方自治が単なる地方行政にとどまるものではないことの確認から再出発したことの意義を繰り返し想起すべきであるし、同様にして、いわゆる団体自治と住民自治とを分けるにせよ、言うところの「地方公共団体」の枠組み整備を論理的に先行させ、いわばその中身を埋めるかたちで後から住民自治を論ずることのおろかしさにもっと鋭敏であるべきである。

 英文憲法第8章の表記における「セルフ・ガバメント」の観念は、何も地方公共団体が国とは別個の統治団体として存立することの制度的保障を意味するだけでなく、地方公共団体の範域やその構成の決定において肝心の「地方公共団体の住民」の政治的意思を何よりも重視すべきことを含意している。その意味において、住民自治あっての団体自治であって、その逆ではない。現行の都道府県を廃止して新たに道や州を地方公共団体として設置するという場合においても、徹底してそのことを考えないと、出来上がった地方公共団体は「セルフ・ガバメント」の形骸になってしまいかねない。地方自治体が自治体たりうるかどうかは、地域住民の政治的な決意表明にかかっているのであり、そのことを具現化する営みが住民自治なのである。

いまむら つなお ・中央大学教授)


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