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2006年7月のコラム

行政サービスの制限

辻山 幸宣

 

 行政に関する集中改革プラン( 05年度から21年度までの行政改革計画)の策定が進んでいる。いわゆる「効率的で小さな政府」路線を、自治体においても追求していく方針のもと、数値目標を設定した行財政改革大綱を策定してこれをホームページ等に公表するというものである。各自治体は、総務省の策定した「地方公共団体における行政改革の新たな指針(新指針)」(05年3月29日)に沿って改革プランの作成・公表を急いでいる。とりわけ定員管理については国の公務員削減計画と歩調を合わせて「過去5年間の地方公共団体の総定員純減(平成11年度から平成16年度までに4.6%純減)を上回る純減を図る」(新指針)こととされるなど、行政のスリム化が目標とされている。

 このような行政改革の動きに関連して、各地で共通する一つの試みがみられる。それは、市税等の滞納者に対して行政サービスの制限を行うというものである。これまでにもいくつかの市町村で条例化されていたものだが、ここにきて一気にその数を増やすとともに、制限事項の拡大が検討されている。「滞納者には行政サービスを制限する」という、きわめて分かりやすい論理であるにもかかわらず、この制度の導入にはなにか引っかかるものがある。

 その引っかかるものの正体を明らかにする前に、滞納が問われる税等の種類、制限されるサービスの内容、その手続きおよび根拠規定の置き方などについて見ておこう。滞納が問われるのは一般に住民税・固定資産税など市町村税である。これに、保育料、公営住宅家賃、下水道使用料・負担金、介護保険料などを加えるところが多い。これらの税または料金等の滞納が行政サービス制限の対象となる。ただし、滞納者に対する制裁が目的ではなく、「税等の納付に対する公平性の確保」が標榜される。より具体的に「滞納を放置しておくことが納税義務の履行における町民の公平感を阻害することを考慮し、町税を滞納し、かつ、納税について著しく誠実性を欠く者に対し、滞納を防止するための制限措置を講ずることにより、町税の徴収に対する町民の信頼を確保すること」と表現するものがみられる。制限されるサービスは、業の許可(一般廃棄物処理業、浄化槽清掃業など)、その他の許可(公共物使用許可・道路占有許可・市営駐車場利用の許可など)、補助・融資等(小企業小口融資・私道等の整備補助金・家族介護慰労金など)、各種福祉等のサービス(誕生祝金・生きがいデイサービス・市営住宅新規申し込み・奨学資金貸付・保育料の減免・幼稚園奨励費など)など多彩である。手続きは、各種サービスの申し込み窓口で、対象となる税等の納税状況を確認し、納税の勧奨を行った後に当該サービスの受給を決定する。税等の納付により滞納状態が解消されたら、サービス制限を解除する、というものである。

さて、このような制度を創設する方法にはいくつかのタイプがみられる。ひとつは、「市(町村)税等の滞納に対する(行政サービスの)制限措置に関する条例」などのように、条例に制限の根拠を置くものである。条例の根拠に換えて要綱で実施する例もある。このほかには、各種サービスの給付規程に、申請書への税等の完納証明を求めるなどの方法がある。この場合には、どのようなサービスが制限されるかをあらかじめ一覧で知ることは難しい。

 「税等の滞納者にも同じように行政サービスがなされることはそんなにおかしなことだろうか」、と改めて考える。確かに、市場ではお金を払わない人には商品もサービスも提供しない。だが、政府は市場での取引とは違った論理でつくられているはずだ。滞納状態に陥っている人ほど行政のサービスを必要としている可能性が高いとも考えることができる。財政が厳しいおり、なんとしても徴収率を上げたいところだろうが、行政サービス制限という手法でどれほどの徴収率改善が図られるものか、実証的データの交換が必要であろう。固定資産税滞納者の多くは当該自治体外の居住者であるから、サービス制限の効果は疑わしいとの指摘もある。どう結論付けようかと思い悩んでいたら、7月4日の朝日の朝刊に次のような記事が載った。すなわち、国民健康保険法の改正で 00年度から国保料の滞納者には保険証に代えて資格証明書が交付されることになり、資格証明書で受診したときは医療費の全額をいったん支払わなくてはならなくなった。そのため、受診を我慢するケースが増え、ときに死に至ることがあるという。朝日新聞の調査では05年度、資格証明書保有世帯は約33万世帯にのぼり、00年以降に少なくとも21人が受診抑制の末、死亡していたと報じている。このような措置について厚生労働省の談話は「まじめに払っている人に不公平感を生じさせず、滞納抑止の効果がある」というものであった。同じ論理で、自治体の行政サービスが制限されていく。この動きをどう理解したらいいのだろうか。

(つじやま たかのぶ・地方自治総合研究所主任研究員・研究理事 )


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