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2008年6月のコラム

「公務員制度改革基本法」

 迷走を重ね成立が危ぶまれていた「国家公務員制度改革基本法」案は、自民、公明、民主三党の共同修正案が国会に共同提出され、5月29日衆議院本会議において可決されたことから、参議院の審議を経て今国会で成立する見通しとなった。

 自民党内部における異論や官僚の抵抗により基本法の成立に消極的であった与党が、急転直下民主党の修正案を丸呑みにして、基本法制定の方針に転じたのはなぜであろうか。号令を掛けたのは福田総理と言われるが、官僚寄りと言われてきた福田総理が官僚の抵抗を排して基本法制定に踏み切ったのは、ここにきてようやく福田政権の不人気の元凶は、結局公務員制度にあり、と自覚したからであろう。年金問題、薬害エイズ問題、道路特定財源をめぐるガソリン価格の乱高下、無駄遣いと天下り、そして究めつけは「後期高齢者医療制度」である。その根源は、政策の企画立案を官僚に任せてきた結果、官僚の国民不在の発想がまかり通っているからであり、縦割り行政と天下りの弊害も国民感情に照らせば最早放置できなくなったからであろう。民主党にとっても、お家の事情はそう変わるまい。国民的視野に立った政党の基盤作りを考えれば、公務員制度改革は避けては通れない。その意味では、公務員制度改革が、与野党の政治の具に貶められた感は否めない。しかし、基本法制定は、政治家達が、公務員制度改革を国民的政治課題として公約したことになるのであるから、今後5年間の改革で、国民の納得行くいかなる公務員制度改革を成し遂げるかが、政治家の責任だ。基本法案は、今後5年間に進める公務員制度改革の基本方針と改革の包括的なメニューを示しており、改革の基本方針がどこまで具体化され実現されるかは、法案成立後の具体的制度設計や関係法令の改正等がカギを握ることになるからである。

 基本法案は、公務員制度を社会情勢の変化への対応、国民の立場に立ち責任と誇りを持って職務を遂行できるような制度とするために(第一章1条)、その改革の基本方針を掲げている。@政・官関係のあり方、A縦割り行政の弊害除去、B国際化など時代的課題に対応でき、国民の目線に立った行政運営を行いうる人材の採用・育成、C公務員が使命感、責任感あるいは倫理観を持って職務遂行のできるような人事管理の確立、D労働基本権の扱い(以上第二章5条〜12条)、などである。

 修正前の基本法案は、@関連では、内閣中核体制の確立(閣僚を補佐する「政務専門官」、総理の下で国家的重要施策を企画する「国家戦略スタッフ」の設置、政治家と官僚との接触制限とそのルール)A関連では、内閣人事庁を設置し閣僚を長として採用・配属、幹部候補育成課程の運用管理、指定職適格性審査を行う、ABC関連では、「キャリア・システム」を廃止し、「総合職」、「一般職」、「専門職」ごとの採用を行い、能力に応じて昇任・昇給などの在職管理を行う、Dの労働基本権のあり方については、協約締結権付与職員の範囲の拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示してその理解を得ることが必要不可欠であることを勘案して検討する、としていたのである。

 ただ、内閣人事庁を中心とした人事の一括管理は可能なのか、その具体的な管理システムと管理手法をどうするか、運用上行われてきた「キャリア・システム」を廃止するとしても、それに代わる「総合職」「一般職」「専門職」制度は、単に看板を架け替えたに過ぎないものとなってしまうのではないか、など問題点は多い。

 しかし、この基本法案は、行政運営を官僚主導から政治主導へ方向付けること、縦割り行政の弊害を除去し省益を超え国民的利益に目を向けた行政運営を目指す契機となり得ること、「キャリア・システム」中心の人事管理に風穴をあけ適正な能力評価によって昇任・昇格の機会を与え職員の士気を高める人事管理などを目指すための一つの考え方として、その実効性ある具体的制度設計如何という留保を付けた上で、評価できる側面はある。それ故にこそ、現行公務員制度の下で利益や便益を受けていた官僚や与党政治家の一部は、基本法案の内容に強く反対し、基本法の成立に消極的であったのである。

 しかし、三党協議による修正は、基本理念に「男女共同参画社会の形成に資すること」が加わり、労働基本権の扱いについて「自律的労使関係制度を措置」するとの一歩踏み込んだ表現が盛り込まれた点は評価できるが、以下の点は問題を曖昧にする修正であると評せざるを得ない。@縦割り行政の弊害を排除するために政治主導で省庁横断的な人事管理ができるように構想された内閣人事庁は内閣人事局に格下げされ、幹部職員の任用は、官房長官が適格性を審査して候補者名簿を作成し、各閣僚が首相や官房長官と協議した上で任免されることとされ、現行の運用がどれだけ改革されることになるのか、A内閣人事庁が行うこととしていた省庁横断的な総合職試験合格者からの採用・配置に関する規定が削除されたことにより、省益を超えた国民的観点からの行政運営のあり方を検討する契機が失われるなど、の点である。今後の具体的制度設計に期待したい。

 ただ、最後に指摘しておきたいことは、制度改正と同時に公務員の意識改革をいかに行うかである。ともすると国民をないがしろにしがちな思考に陥りやすい公務員の思考法を84年も前の大正12年に「役人の頭」として痛烈に描いた末広巌太郎の随想(「嘘の効用」所収<大正13年17版113頁以下。初版大正12年>)が、今日でもなお新鮮な感覚で読めるのは、「官僚」という職業を持つ人間の思考は時代を超えても変わらないからであろうか。

さとう ひでたけ・早稲田大学法学学術院教授)

 

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