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2008年10月のコラム

クロウスとハンプ

 イギリスの道路にはすべて名前がつけられている。道路の名称と番地で住所を表示することから、道路に名前が不可欠なのである。道路に名前がついていると、愛着がわき、自分たちの道路だという感覚が生まれる場合がある。たとえば、○○ガーデンズ(Gardens)とか、○○パーク(Park)とか、○○グロウヴ(Grove, 小さな森という意味)とか、○○クレセント(Crescent, 三日月形)とか、いかにも愛らしい名前がつけられている。1989年に住んでいたのは、プライオリー・ガーデンズ(Priory Gardens)であり、2006年に住んだのは、ブレンドン・グロウブ(Brendon Grove)とニールド・クレセント(Neeld Crescent)であった。日本の道路には名前がないことが多いので、気に入った道路でも、覚えておくのが難しい。

 こうした道路の名称のなかでも、日本にはほとんど見られない仕組みとして、○○クロウス(Close)という道路があちこちにある。「袋小路」という意味で、「クロウス」と発音する。クロウスの入り口には、かならず「T字型」のマークがあり、T字の横棒は太い赤で書かれている。すなわち、行き止まりになっていることを示す標識であり、通過交通は入っても抜けられません、という意味である。日本でも、袋小路はいくらでもあるが、それは私道であるから通過交通お断りという場合が多い。ところが、イギリスの場合には、公道であっても、袋小路になっているところが実に多いのである。

 不動産エージェンシーに紹介されて、ブレンドン・グロウブの家を見たとき、気に入った理由は袋小路の奥まったところにあり、通過交通が入ってこない静かな住宅地域だったことも一因であった。その地域は、1,000坪くらいの小さなオープン・スペースを中心に、20世帯くらいの4階建て集合住宅が4棟とセミデタッチトの住宅50棟程度の比較的小さな区域で、低・中所得者向けの住宅地だった。子どもの通う学校にも近く、最近開発されたため外観もきれいで(庭・車庫つき)、契約することにした。しかしながら、住んでみて、イギリスの大工さんの技量があまり良くないことに気づいたのは、ちょっと残念だった。

 とはいえ、こうした住宅地に通過交通が入り込まない工夫がイギリス社会の中に道路文化として浸透していることが実にうらやましいと感じた。日本の道路は、自動車優先であり、通過交通が住宅地に入り込むのは当然とされ、そこに住む人々のことは後回しという文化は、イギリスの住む人々を優先する文化と比べ、道路行政の貧困さを物語るものであろう。

 イギリスの道路には、まだまだ工夫がある。住宅地域から通過交通を100%閉め出すことは不可能であるが、通過交通のスピードを抑制する工夫がいろいろとなされている。スピード・ハンプといわれる自動車のスピードを抑える道路上の突起が住宅地域の道路のあちこちにある。その形状が異なることによって、呼び名も異なり、機能も異なってくる。スピード・ハンプ(speed hump)が一般的で、時速30キロ程度にスピードを抑えることを目的とする。駐車スペースなどでは毎時15キロ程度まで抑制するスピード・バンプ(speed bump)がある。テーブル状の突起を道路に設けたスピード・テーブル(speed table)、緊急車両はスピードを落とさずに走ることができるスピード・クッション(speed cushion)もある。また、歩道を広げて道路を狭くしたり、ボラード(自動車の進入を防ぐ保護柱)を設置して通行しづらくしたり、横断歩道全体を歩道と同じ高さにしたり、道路の中央に島状の安全地帯を設けたりする方法がある。歩行者を優先しようとするこうした方法は、日本でもないわけではないが、一般的な方法になっているとはとても言い難い。そろそろ成熟社会にふさわしい歩行者を優先する思想を道路行政当局がもつ必要があるように感じる。

むとう ひろみ・法政大大学院政策創造研究科教授)

 

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