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2009年10月のコラム

おぞましい「地域主権」の用語

 政権交代が実現して、いろんな政策課題がどうなるのか、そのことが否応なく気になる。そのうちのひとつが、もたついてきた地方分権のこれからである。しかし、その前に問いただしたいのが、新政権における「地域主権」の用語である。
 4年ぶりの総選挙で民主党が取りまとめたマニフェストでは、「地域主権の確立」が打ち出されていた。マニフェストに掲げたことをすべてそのとおりに実現しなければならないのかどうかについても議論があってしかるべきだが、わたし自身は、よもやそんないいかげんなスローガンを政権獲得後にそのまま使って、新政権の政策展開があるとは思っていなかった。ところが、鳩山内閣の初閣議で示された「基本方針」では、「本当の国民主権の実現」と並んで「内容のともなった地域主権」が、新たな国づくりに向けた政策の二つの大きな柱として提示されることになった。
 「地域主権の確立」をいいかげんなスローガンといったが、それは、その言葉が自民党政権下で設置された道州制ビジョン懇談会でキーワードとされ、麻生前総理も1年前の所信表明演説で「最終的には地域主権型道州制をめざす」ことを明言したように、政権交代以前からすでに与野党を超えた政治スローガンとなっており、とりわけ道州制の導入がらみの用語として流通していたからにほかならない。地方自治体の首長らの中にも、その表現を好んで用いる方々がいるが、そのことを含めて考えると、「地域主権」なる言葉が流通しはじめたのには、もはや「地方分権」が政治的なアピール力を失ってしまったので、それに代わる新しい言葉として「地域主権」に飛びついたという事情があるのかもしれない。
 ところで、鳩山内閣の「基本方針」では、「地域主権」に「地域の住民一人ひとりが自ら考え、主体的に行動し、その行動と選択に責任も負う」といった含意を込めようとしているようである。しかし、ちょっと待ってほしいと言わざるをえない。単一主権国家の国のかたちを前提にして、法制面で「国民主権」と並べることができるのは、せいぜいのところ「住民主権」でしかない。双方を包括し、さらに国境を超えた国際社会の一員でもあることを念頭においたうえで「市民主権」という概念を使ってもよいであろう。わが国には、それぞれに対応した「住民自治」「市民自治」の概念が定着している。それなのになぜ「地域主権」などというおぞましい用語を使わなければならないのか。それを「国民主権」と並記する憲法感覚はどんなものなのか。
 いまさら指摘するまでもなく、所与の「国家主権」の存在を前提に、それを国内の行政区画で仕切られた各地域に分与することによって、そこに「地域主権」が成り立つかのように考えているのであれば、それは言語道断の認識と言わなければならない。たとえ、道州制に踏み切ったところで、新しく広域の地方自治体として設置される個別の道や州に「地域主権」が認められるはずのものでは断じてないからである。
 たかが言葉の問題ではないかとする反論があるかもしれない。しかし、ことは「この国のかたち」にかかわる重大問題である。組閣にあたって「地方分権推進」担当大臣を「地域主権推進」担当大臣にしたことを皮切りに、「地域主権」がつぎつぎと公式の用語として使われはじめている。いったい、含意の定かならぬ概念の独り歩きをどこまで進めるつもりであるのか。ほかならぬ国民・住民のひとりとして、あえて問いただしたいところである。

いまむら つなお・中央大学教授)

 

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