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2014年1月コラム

博士論文の原則インターネット公開について

武藤 博己

 昨年2月13日の大学院関係の会議で、大学の「学位規則の一部改正」の提案があった。内容は、博士学位論文について原則としてインターネットで公表することに変更するというものであった。
旧規則では、「論文審査要旨の公表」という条文の説明がある第28条において、「博士の学位を授与したとき大学は、授与した日から3ヵ月以内に、学位授与報告書を文部科学大臣に提出するとともに、授与された者の論文内容の要旨及び審査結果の要旨を公表するものとする」という規定であった。これを、「論文要旨等の公表」という説明に変更し、「公表するものとする」の前に「インターネットにより」を追加するという改正案であった。すなわち、これまで文書による「論文審査要旨」の公表だったが、「インターネットにより」「論文要旨等」を公表するというものである。公表の主体は大学であり、ここは特に問題はない。
問題なのは、「論文の公表」に関する第29条で、「博士の学位を授与された者は、授与された日から1年以内に、その論文を印刷公表(デジタルデータでの公表を含む。)をしなければならない」という規定を、「インターネットにより公表しなければならない」と変更した。公表の主体は学位を授与された者であり、同条第3項には、「やむを得ない事由」がある場合には、「当該論文の全文に代えてその内容を要約したものを公表することができる」としているが、原則としてインターネットでの公開を義務づける改正である。果たして、学位論文は原則として全文をインターネットで公開することが望ましいのであろうか。
文部科学省の資料には、「教育研究成果の電子化及びオープンアクセスの推進の視点から……インターネットの利用により公表する必要がある」と述べられている。雑誌論文ならそれでよいと考えられるが、数年間をかけて完成させた知的財産をインターネットで公表してしまうことは著者にとって本当に望ましいのであろうか。学位論文の公開は原則として必要であるが、インターネットによる公表はひとつの方法にすぎないのではないか。
こうした私立大学の学則変更は、文科省の要請から行われていることや文言も文科省の学位規則をほぼ踏襲していることは周知であるとしても、驚いたことは、文部科学大臣が中教審に諮問したのは、会議のわずか1ヵ月前の2013年1月18日であり、中教審の答申を待たずに、大学が自主的に規則を改正していることである。そこで、会議の席で、まだ中教審からの答申前なのに確定したかのように大学が規則を変更するのは、勇み足ではないかという趣旨の質問をしたところ、後に事務職員から文科省に問い合わせて確認したが問題ないとの回答を受けたと知らされた。何をか言わんや。その後、諮問通りの答申を受け、3月11日に文科省令学位規則が改正された。私は反対したが、わが大学の学位規則も変更された。
昨年9月に学位授与したケースから適用された。論文自体は12月に出版されたため、インターネットに公開する必要はなかったが、もしインターネットに公開していたとしたら、出版社が引き受けてくれたのだろうか。
論文とは別に、大学からは論文審査報告書の提出を求められた。これは教授会での最終審査・承認のための文書で、インターネットで公開することを目的に書いたものではない。規定では「審査結果の要旨」と書いてあるので、論文審査報告書の要旨を提出した。その際、論文の評価すべき点や課題については、多くを省略し、要約に変更した。
今回のインターネット公開の要請を受けて考えてみたが、審査報告書の中身は論文の評価や課題について記述されており、ある意味で論文の成績である。とするならば、公開してはならない個人情報に相当すると考えられる。そこには、論文への批判も書かれているが、本人の反論の機会は与えられていない。本人と審査委員の同意がなければ、非公開とすべき情報であると考えられる。今回の件で、これまでは、大学院紀要に掲載されていたことを知った。大学院紀要はインターネットと比較すると、入手は困難であるとはいえ、掲載は公開であり、大きなミスを犯していたかもしれない。

(むとう ひろみ 法政大学公共政策研究科教授)

 

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