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2016年1月コラム

市民社会への憎悪

菅原 敏夫

 政治学はその対象である「政治」をどう定義づけているのだろう。1954年刊の平凡社『政治學事典』では、「政治」の項目を丸山真男が、「政治学」の項目を蠟山政道が書いていた。丸山真男をしても「一般的な‘政治的なるもの’」は定義できず、状況に依存である。少し下って2000年、弘文堂『政治学事典』は、「政治学」の項目を猪口孝が執筆するも「政治」という項目は採用されていない。
 そんな難しいことを考えようとしていたわけではない。私の友人の困りごとだ。
 私の親しい友人の何人かが(特定非営利活動法人)さいたまNPOセンターの理事を務めている。この法人はさいたま市の公の施設である「さいたま市市民活動サポートセンター」の指定管理者。ところが昨年10月、センター設置条例が改正された。改正は附則に条文を付加する形で、「第18条の規定は、センターの管理を指定管理者に行わせるための管理の基準その他の必要な事項を定めるまでの間、適用しない」というもので、第18条とは管理業務を指定管理者に行わせることができる、というごく一般的な規定である。条例の唯一の効果は最終段階にまで来ていた次期指定管理者の選定手続きを中止させたことである。事実、応募団体のプレゼンテーションまで済んでいた選定手続きは中止された。しかし、これまでの指定管理者でもあり、プレゼンテーションにおいても高得点が期待でき、比較優位が確実なさいたまNPOセンターにとっては降ってわいた災難である。それに改正条例提案の趣旨がセンターの登録団体の政治活動が問題だ、となっているので引くに引けない。
 世間はNPOと政治の問題として反応した。その理解は正しい。おそらく全国的に組織的に、NPO法人を含む市民活動団体が政治活動をしていることを批判するキャンペーンが行われている。その場合にNPO法の政治活動の規制が推認されている。
 日本NPOセンターは全国に呼びかけて12月1日「NPO法と政治活動についてあらためて考える」というシンポジウムを開催した。12月1日は1998年のNPO法施行日である。その会合に参加していて、NPO法制定前後の記憶がよみがえってきた。封印してきたはずの議論が当時の生身のままよみがえる。
 NPO法は「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと」と規定している。もちろんこの規定は国会審議でも問題になった。衆議院を通過した後参議院で修正された条文でもある。簡単に紹介すると、「政治上の主義」とは何かについて衆議院内閣委員会(1997年5月29日)で法案の提案者(辻元清美)が答えている(議員立法だったので)。「政治上の主義とは、(中略)自由主義、民主主義、資本主義、社会主義、共産主義、議会主義というようなものがこれに当たる。この政治上の主義と政治上の施策とは区別されております。(中略)政治上の主義の推進等であっても、これを従たる目的として行うことは禁止されておりません」(同会議録7号26ページ)。
 これが立法者の意思である。これが有権解釈だというように理解されて広まっている。しかし、条文のみから出発する解釈と論理的に整合するのだろうか。民主主義や議会主義を含んで、推進や支持を行うことを禁止できるのだろうか。どこにも定めがない「従たる目的」を規制せず「主たる目的」を規制する意味や効果はどこにあるのだろうか。主義と区別された施策が存在しうるのだろうか。
 NPO法の規定はまったく意味がないか、極端に危険な憲法違反かのどちらかである。かなりの妥協と相当に無理のある解釈でNPO法は成立した。議論を封印し、本気になって適用しないという雰囲気で施行された。しかし会議録を読み返してみて、当時の雰囲気を思い出すに、それは、市民社会、市民社会団体への敵意に満ちていた。政治とその決定を市民社会から遠ざけることに腐心していた。政治は権力側にだけ必要なものであると。
 市民社会は欲望の体系としての経済社会である。同時に人間の本性に基づいた政治社会でもある。政治は市民社会の本質そのものなので、市民社会の内部からそれを定義することができない。政治学に見捨てられた政治は通行人に牙をむく野良犬のごとくになってしまった。

 

すがわら としお 公益財団法人地方自治総合研究所非常任研究員)

 

 

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