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2017年2月コラム

政治の見方、職域民主主義 ― 丸山眞男『政治の世界 他十篇』から

 最近、丸山眞男の著作が相次いで岩波文庫に収められた(『政治の世界 他十篇』『超国家主義の論理と心理 他八篇』)。学部2年生向けの演習クラスで、2年前からそれを輪読している。1960年の安保反対闘争当時、論壇の旗手であった丸山の指摘したことが半世紀以上のちの政治状況にどれほど当てはまるか、というよりもなぜこれほどまで価値を失わないか、そうであるなら丸山の慧眼を讃えるべきか、それともこの国とわたしたちの停滞を嘆くべきかを学生といっしょに考えてみたいと思ったからである。ここではとくに『政治の世界 他十篇』に収録された論文から印象に残った2つの点について述べる。
 1つは、政治に対する見方である。丸山は破防法を例にしてこういう。悪法に盛んに反対したけれども通ってしまった。通ったら終わりだという考え方がある。だが「これは終りじゃないんです。通ったらその悪法が少しでも悪く運用されないように、(中略)終局的には撤廃されるように努力するということです」。いくら反対しても通ってしまうから意味がないのか。結果の勝ち負けだけでものごとを判断するなら競馬と同じだ。「ある法が望ましくないという場合に、(中略)その法が成立する過程において抵抗が強ければ強いほど、できた法の運用をする当局者は慎重にならざるをえない」。破防法は確かに成立したけれども、現実にはあまり適用されていない。それは「あれだけ反対があったからうっかり適用できないんです」。投票の結果、法律が通るか通らないかは政治過程のファクターの1つだが、すべてではない(「政治的判断」390〜391頁)。
 さらに丸山はこうした見方を安保反対闘争にも適用して所感を述べ、闘争の担い手たちがしばしば結果を「敗北」だったと評価していることを指して、高揚した運動のあとのそうした「宿酔現象のひどさには少なからず失望した」と厳しい言葉を向ける(「現代における態度決定」419〜420頁)。
 もう1つは、民主主義に占める職域の役割、もっと端的にいえば労働組合の役割の重視である。丸山はH.J.ラスキの言葉も引きながらこういう。民主主義の動脈硬化を防ぐには社会のいたるところに横のグループをつくることが重要だ。だが、一般国民が自主的組織をつくったり、それに参加して活動するのは現実問題としてはなかなか難しい。「そこで何といっても重要な意味を帯びるのが、職場における組合です」。「民主主義の根をしっかりと培うことを真実に欲する人々はなにより、大衆の政治的関心を日常化する場として、組合の強化発展につとめ」なくてはならない(「政治の世界」152〜153頁)。
 演習テキストを見る限り、丸山のこうした職域民主主義重視の考え方にその後なんらかの変化があった様子は窺えない。一方、丸山に続く戦後論壇の旗手のなかには、60年安保反対闘争をきっかけとして民主主義に占める地域の役割の大きさに刮目し、政治目標として地域民主主義の実現を高く掲げた者がいた。その代表例がいわゆる杉並調査をした松下圭一らの研究者グループだと長らく見ていたのだが、それだけでは理解が不十分であることに最近になって気がついた。高畠通敏や、高畠が先達として仰いだ久野収らの市民運動派もまた、松下圭一らと同時期に地域民主主義を語り始めているからである。
 高畠は『声なき声のたより』第2号(1960年8月1日)に寄せた「居住地組織の提案」と題する一文で、安保反対闘争を振り返りながらこう述べる。「確かに私たちは街頭では強かった。しかし居住地ではまだそうではない」。5月19日に自民党政治家が私たちの抗議を無視できたのは「日常生活の問題についての利益供与を通じて、強固な地盤を組織していることへの自信があるからだ」。デモの体験を思い出話やアリバイづくりにとどまらせないためには、居住地で運動を拡げる責任を一人一人が負う以外にない(『復刻版 声なき声のたより 第一巻 1960−1970』思想の科学社、14頁)。
 では、松下と高畠・久野がほぼ同じ議論をしていたかというとそうはいえず、両者の間のズレはその後、年を経るにつれて大きくなっていったようにも思える。高畠や久野が語った地域民主主義については、つぎの機会にもう少し詳しく論じたい。

 

こはら たかはる 早稲田大学政治経済学術院教授)

 

 

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