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2017年3月コラム

ひとり戸籍の幼児

武藤 博己

 幼児がひとりで戸籍に残されてしまう、という状況を想定するのはなかなか困難である。そもそもどのようにしてそのような事態が生じるのであろうか。私のもとで研究している大学院生が、幼児がひとりで取り残されるという制度自体を批判し、戸籍制度による個人の人権が守られない状況を研究している。
 「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する」(戸籍法6条)とされており、親子の二世代を戸籍に記載することが原則となっている。戸籍が新たに作られる原因のひとつは婚姻である。「婚姻の届出があつたときは、夫婦について新戸籍を編製する」(同16条)ことになっている。
 夫婦が離婚すると、夫が筆頭者の場合には妻がその戸籍から除籍され、その逆の場合には夫が除籍される(同23条)。戸籍に残されるのは、夫が筆頭者の場合の夫と親権を有する子である。
 この段階で筆頭者である夫が婚姻した場合、その戸籍に新しい妻が入ってくる場合が多いが、逆に妻の氏を称する場合には、妻の戸籍に入ることになる。あるいは新たに妻の氏を称する戸籍を調製し、そこに入ることになり、夫が元の戸籍から除籍される。この段階で、元の戸籍には子だけが残され、幼児のひとり戸籍が生じることになる。これは一例であり多様なケースが考えられる。
 問題は、子の親権者あるいは養育義務者は誰になるのかである。戸籍からは父母がいなくなり、戸籍上からは親権者が特定できなくなる。争いがある場合には、裁判所が決めることになるが、実質的に親権あるいは扶養義務が遂行されない場合は、どうなるのであろうか。今日では児童相談所がその子の面倒をみることになるのであろうが、その制度が充分に機能しなかった時代では、想像を絶する困難に遭遇したことであろう。
 戦後の戸籍制度は、戦前の家を基本単位とする戸籍から、夫婦を基本単位とする戸籍に変更された。「戸主」を廃止して「筆頭者」に変え、また「華族」や「平民」などの身分も廃止された。しかしながら、「氏」の制度は維持され、氏を同じくする家族を基本単位としていることは、家に通じるところがある。また、戸籍筆頭者という呼称は、「戸主」に通じるものであり、「戸主」の権限は廃止されたとしても、機能的な意味では「家」を守る「戸主」に近い機能を維持する可能性は高い。そこで、GHQや川島武宣などの先進的な学者は個人単位の戸籍登録制度を主張したとのことであるが、司法省は紙不足や労働力不足を言い訳にし、経済力が回復したら個人戸籍にするという約束をしたという。
 戸籍制度は個人の人権を守るものとして形成されなければならないはずであるが、本稿で述べたような家族を中心とする制度として作られた戸籍制度のなかでは、「ひとり戸籍の幼児」が生じてしまうことや、最近、マスコミで問題点を指摘されはじめた「無戸籍児」の存在とその悲惨な状況、憲法裁判で話題を呼んだ「夫婦別姓」問題、それを強要することによって多くは女性の社会的地位を脅かす場合があること、LGBTの権利が現在の戸籍制度では充分に守られないこと等々、戸籍制度の非現代性を指摘している。
 こうしたことから、戸籍制度を根本から見直す時期が来ていると感じられる。

 

(むとう ひろみ 法政大学公共政策研究科教授)

 

 

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