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2017年7月コラム

大田昌秀氏(元沖縄県知事)の訃報に接して

 6月12日に元沖縄県知事の大田昌秀さんが亡くなった。92歳だった。辺野古新基地問題で、沖縄県が国を相手取って岩礁破砕の許可なき工事は違法だと工事差し止め訴訟を起こす準備をしている最中のことであり、沖縄戦の犠牲者の冥福を祈る「慰霊の日」(6月23日)を目前にしての悲報であった。7月26日には県民葬が執り行われることになっており、大田さんの沖縄に架けた想いをめぐって多くの哀悼話が交わされることだと思う。
 思えば大田さんに初めてお目にかかったのは1998年のことであった。自治労本部と沖縄自治労との共同で設置された沖縄の自治に関する研究会が「琉球諸島特別自治政府構想」をまとめたとき、報告のために訪問したのだった。沖縄側の責任者であった吉元政矩副知事の口利きによるもので、メディアでは知られたあの漢文の屏風で有名な知事室でのひとときであった。
 この研究会は総研の田中義孝事務長やジャーナリストの高野孟氏などが参加して2年を費やしてまとめられたものだった。私は田中さんとペアを組んで「特別自治制度」の立法原案の作成を担当したが、その骨格は@県を中心とした自治政府、A広範な立法権の保障、B中央政府との間の係争処理に関する委員会の設置、などである。研究会は沖縄と東京で交代に開催され、2月に1回は沖縄の各地でヒアリングし現地の自治の可能性を探ったりし、2年間に10回くらいの沖縄訪問を経験したのであった。
 さて自分のことばかり述べていないで大田昌秀元知事のことに触れよう。大田氏は知事に就任するまでは琉球大学教授をつとめた研究者であった。「基地のない平和な島へ」を信念に多くの著作を残している。その中で触れられている知事時代のできごとの中で多く言及されているのは、いうまでもなく駐留軍用地特措法に基づく基地の強制使用をめぐる代理署名拒否問題である。基地用地使用の手続きは地主との間の賃貸借契約の締結で成立するが、契約書への署名押印を拒む地主が続出した。特措法にはこのような場合に当該市町村の長が代理署名することができるとあるが、関係市町村長はすべてこれを拒否、政府は知事に代理署名を求めた(特措法36条の2)。大田知事は1995年8月21日付でこの代理署名を拒否、政府は12月7日、福岡高裁那覇支部に大田知事を被告とする職務執行命令訴訟を提起した。
 この裁判には多数の証人が準備され私にも打診があり準備を進めていたとき、ほとんど証人を採用せず早々に結審し、1997年3月25日判決が言い渡され県が敗訴した。沖縄県は判決を不服として最高裁に上告したが、8月28日に最高裁は上告を棄却、県の敗訴が決まった。大田知事は裁判において代理署名拒否の理由を次のように述べている(1996年3月11日)。「今の我々が責任を負えない、将来の子供たちの代まで、我々と同じような基地の苦しみを味わわせると同時に、戦争の不安を絶えず感じさせるということは、これは行政の責任者として、とうていやることのできないことだという判断に立ったわけなんです」(『代理署名裁判 沖縄県知事証言』1996年ニライ社、32頁)。
 私がこのコラムを考えながら大田氏の著作に目を通していて驚いたことがある。私は、最高裁判決を受けて代理署名・公告縦覧に応ずることとしたのは、結局「総理が自ら代理署名できるから」ということを理由に決断したのだと理解していたのだが、大田氏は次のようにその理由を明かしている。「当時、私と吉元副知事ら県幹部が最も恐れていたのは、駐留軍特措法が改悪されることだった」「そのため吉元副知事は梶山官房長官に、私は橋本首相にその懸念を伝えて法改正は避けていただきたいと強く要請した」とある(大田昌秀『沖縄の決断』2000年朝日新聞社、234−5)。
 だが、心配したとおりのことが起こった。時を置かず1年後の1998年9月には地方分権推進委員会第3次勧告が出され、駐留軍用地特措法の改正を勧告したのである。内容は、知事・市町村長が代行している駐留軍用地強制使用手続きの事務を国が直接行う事務(直接執行事務)とするというものであった。勧告に至った理由を関係者は「これまで国が地方に嫌な役をおしつけていた」「地方からすれば苦渋の選択を迫られているもの」だからそこから解放するためと説明するが、基地に反対する沖縄の基地地主・市民には抵抗する手段はなにも残されなかった。
 地方分権という御旗の下で、何が生み出されたのか、じっくりと検証する必要がある。地方分権の夢に惑わされて踊っていた自分に鞭打って、大田元知事のご冥福を祈りたい。

 

つじやま たかのぶ 公益財団法人地方自治総合研究所所長)

 

 

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