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2017年11月コラム

大川小学校の悲劇

 2017年10月12日午後、宮城県石巻市立大川小学校に行ってきた。今回が2回目の訪問となるが、今回は、逃げれば助かったと言われている裏山に登ってきたこと、またガイド中井政義氏(一般社団法人防災プロジェクト)から説明を受けたことが前回との違いである。大川小学校の悲劇は、改めて説明する必要もないほど、よく知られた悲惨な事例である。全校児童108名のうち、犠牲になった生徒が74名、教職員10名という、東日本大震災で被災した小学校のなかで最大の犠牲者を出した小学校である。大川小学校は北上川の右岸にあり、河口から約4q離れているが、海抜は1.1mしかない。津波は北上川を50q上流まで遡ったという。校庭には教職員11名と児童78名が残されていたが、そのうち生存者はわずか教職員1名、児童4名であった。
 14:46の地震発生後、児童たちは教室から校庭に出て、余震の頻発する中、校庭で待機させられていた。地震発生後から50分近く経過した15:33〜34頃、教頭の判断で海抜7mの三角地帯と呼ばれる県道と国道398号線(新北上大橋)との交差点に向かったが、その直後、津波に襲われた。
 『大川小学校事故検証報告書』(以下、報告書)によれば、ただひとり生き残った教諭は、15:24頃、「教頭や教職員Eに「山に逃げますか?」と声を掛けたが、これに対して何らかの返答や指示はなかった……このため教職員Aは、自分が校内にどこか安全に避難できる場所がないか探すと伝え、再び校舎内へ入った」(p.83)。しかし、その間に教頭らが三角地帯への移動を決定し、教諭Aが校庭に戻るとすでに移動が始まっていたため、後から小走りに追いかけ、どこに行くのかを尋ねると、三角地帯だと教えられたという。その途中、津波の来襲に気づき、児童に山に逃げろと叫びながら、自らも山に登り、津波に襲われながらも助かった。
 2014年3月、児童23人の遺族が市と県に23億円の損害賠償を求めて、仙台地裁に提訴した。判決は、2016年10月26日に行われ、14億3千万円の支払いを命じる、という遺族側の勝訴であった。しかし、市と県は控訴し、住民側も控訴して、2017年3月29日から仙台高裁での審理が始まり、現在も継続中である。一審での論点は、教員らが津波来襲を予見できたかどうか、三角地帯に移動を決定した教員の行動に過失があったかどうかであった。市側は、教員らが津波の接近を知らせる広報車の呼びかけを聞いたとする証明は不十分だと主張したが、地裁は「遅くとも午後3時半ごろまでには、教員らが津波を予見でき」、また裏山へ逃げなかった過失があったと認定した。
 その裏山であるが、登り口の傾斜はわずか9度にすぎず、児童たちは椎茸栽培の体験学習で登ったことがあった。市側は、裏山は崩壊の危険があった、余震が続き、安全かつ容易に避難させる裏山への経路はなかったと主張した。生き残った児童によると、6年生の児童が「先生、山に逃げたほうがいいと思います」と言ったが、教諭は「私にもわからない」と言った。児童は、「先生なのに、なんでわからない」と食ってかかったという(朝日新聞、「なぜ山へ逃げなかった 大川小学校の悲劇」、2011年9月10日)。生き残った児童も、「なぜ山に逃げないの」と思ったという。この児童は、三角地帯に行く途中、津波の来襲に気づき、山に登り、助かった。
 報告書によれば、大川小学校のある釜谷地区にいたことが把握された232人のうち、78%というきわめて高い比率の181人が死亡している。「少なくとも15時15〜20分頃までは、地域住民・保護者はもとより、教職員においても、大川小学校付近まで津波危険が及ぶ可能性を具体的に想定し、切迫した避難の必要性を認識していた者は、多くはなかったものと推定される」(p.98)と述べられているが、この事態を報告書は「正常性バイアス」(津波が来るほど異常な事態ではないという判断)が働いたのではないかと指摘している。
 結局、移動を開始したことは、校庭は安全でないと判断をしたことを意味しているが、それ以上高いところに行くのが困難な三角地帯ではなく、簡単に登れる裏山に逃げていれば、と残念に思う。今回、裏山に登ってみて、さらにその気持ちが強くなるばかりである。

 

むとう ひろみ 法政大学大学院公共政策研究科教授)

 

 

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