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2018年5月コラム

民生児童委員 その1

武藤 博己

 数年前、修士課程の院生(市役所の職員)が民生委員児童委員についての修士論文を完成させた。そこでの一番の問題点は、民生委員の「なり手不足」に行政はどう対応すればよいか、ということであった。一昨年、私の所属する自治会の会長から、民生委員児童委員を引き受けてくれないか、という依頼があり、修士論文の問題意識であった「なり手不足」の原因が何なのかを確めるという密かな目的を抱いて、引き受けることにした。その際、月1回の会合と分担するひとり暮らしのお年寄りを最低月1回訪問することが主たる仕事であることを告げられていた。その程度のことであるなら、そんな難しいことはない、と考えた。
 民生委員児童委員の歴史は古く、1917(大正6)年に岡山県の「済生顧問」制度が前身で、2017(平成29)年は100周年を迎えた。1918年には大阪府にて「方面委員」が導入され、それが1928(昭和3)年に全府県に普及し、1936(昭和11)年には「方面委員令」が制定され、全国統一の制度となったという。さらに戦後の1946(昭和21)年には方面委員を民生委員と改称する「民生委員令」が公布され、1948(昭和23)年には「民生委員法」が制定され、現在にいたっている。
 2017(平成29)年3月31日現在、日本には230,739人が民生児童委員として委嘱をうけているが、定数は238,349人(地区担当:216,452人、主任児童委員:21,897人)であるため、充足率は96.8%である。7,610人の定数不足となっている。ちなみに、男女比は、男性が90,273人(39.1%)、女性が140,466人(60.9%)となっている。定数の推移を見てみると、1948(昭和23)年には128,293人であったのが、戦後一貫して増え続け、2001(平成13)年頃から22万人台で横ばいとなっていて、現在にいたっている。
 「民生委員は、都道府県知事の推薦によって、厚生労働大臣がこれを委嘱する」(民生委員法5条)とされているが、実態は自治会長の推薦が決定的である。自治会長の権力の源泉の一つでもある。
 さて民生児童委員の仕事であるが、まず月1回の会議とは、民生児童委員地区別協議会という会議である。一般的には、毎月第二週の特定曜日の10:00〜12:00に定例的に開催されているようだ。私の所属するところでは、会議前に、研修旅行の積立金4千円と前月の活動票を担当者に渡して会議が始まる。
 「民生委員には、給与を支給しない」(同上10条)と規定されているが、年間6万円が振り込まれる。給与ではないので、何かの実費弁償かと思われるが、年間4万8千円の積立をするので、研修のための費用と考えるのが適切であろうか。しかし、私は授業と重なったためこの研修に参加できなかったが、報告書を読むと研修のような内容はないと感じられる。
 最初の1時間が民生委員関係で、次の1時間は地区の小学校2校・中学校1校の校長先生も加わる会議となっている。定例会の冒頭、「民生委員児童委員信条」と「児童憲章前文」を唱和することになっている。ところが、どうも唱和するという作業が苦手で、黙読で済ませている。前者の内容を紹介すると、「一、わたくしたちは、隣人愛をもって、社会福祉の増進に努めます。(……中略……)一、わたくしたちは、誠意をもって、あらゆる生活上の相談に応じ、自立の援助に努めます」など、5つの文章である。唱和したところで、意味はない。実践することが重要であるが、まともに考えれば、「あらゆる生活上の相談に応じ」ることなど、ほとんど不可能である。この唱和するという慣習は、研修会や全国大会等においても行われているようだ。教育勅語の唱和から比べれば、まだまだましであるが、どうも私は苦手だ。
 前半の会議では、役所の担当者、特に福祉関係の担当者が生活保護の状況(人数等)を報告し、社協の担当者が地区でのできごとなどを報告し、高齢者サポートセンターの担当者が会合などの案内をし、時々保健師などの専門家が健康についての話をする。はっきり言って、どれも民生委員の仕事にとって不可欠な内容ではなく、また実践的な内容でもない。
 そろそろ字数が増えてきたので、今回は第1回目の報告として、次回は会議の後半やその他の活動について報告したい。

 

(むとう ひろみ 法政大学大学院公共政策研究科教授)

 

 

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