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2019年2月コラム

県民って誰? 沖縄県民投票条例をめぐって

 2月24日、この日は沖縄県で「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」に基づく県民投票が行われる記念すべき日である。記念とはいっても、この投票で辺野古基地建設問題に大きな転機が訪れるかどうかは先の話である。ただ、2ヶ月に及ぶ沖縄県と県内市町村との“揉め事”に一応の決着がつき、全県で県民投票が実施されるという記念すべき日ではある。
 この一連の“揉め事”は、昨年5月から始まった「『辺野古』県民投票の会」による県民投票条例の制定を求める直接請求の署名活動が、必要署名数を大幅に上回って成立し、10月県議会で条例案が可決されたときに端を発する。条例13条には「第3条に定める知事の事務のうち、投票資格者名簿の調製、投票及び開票の実施その他の規則で定めるものは、地方自治法第252条の17の2の規定により、市町村が処理することとする。」とあり、この市町村の処理する事務を実施しないと表明した市が5市に及んだからである。この5市の住民の投票権が認められなければ、投票権者の3割は投票できなくなり、県民投票実施の意義そのものが問われることとなった。
 玉城知事と県議会与党の奔走により、条例の改正を行ってでも全県民の投票を実現しようとする試みが、なんとか議会を通過して全県民の投票という事態に落ち着いたのであった。だが、喜んでばかりはいられない。この問題を引き起こした要因の中に解ききれない課題がいくつも横たわっているからである。投票の結果いかんに関わらず、それらの課題について検討しなければならない。
 第1に、条例改正の評価をめぐることである。改正点は、辺野古米軍基地埋立てについての「賛成」か「反対」かを問う2択方式から、「どちらでもない」を加えた3択方式にすることであった。この政治的妥協ともいえる条例改正を、「県民投票にかかる事務を執行しないと決めた5市長が、市民の投票権を奪うという違法行為を背景に、県の政治的妥協を引き出したことは重大な問題だ。いわば投票権の侵害を人質にしたのだ」(島袋純1月25日琉球新報)という指摘がある。
 この件でひとつ論点が残っているのは、5市長の行為を「違法行為」と断じている点である。条例には「地方自治法第252条の17の2の規定により」(第13条)とあり、分権改革によって新設された「事務処理特例」によって市町村の事務としている。しかもその場合には市町村長との協議が義務付けられており、拒否が直ちに違法かどうかについては疑問がある。むしろこの県民投票の投開票に関する事務を「事務処理特例」とする以外に市町村に実施させる方法はないのかということが気になる。少なくとも「事務処理特例制度」の趣旨は、市町村がその自治権に基づいて事務を処理することを目的とした特例であり、県民の投票権を市町村の自治権に基づいて取り上げることが可能かどうかは意見の分かれるところであろう。というのは、「市町村レベルついで県レベルの自治体政府は、それぞれ市民によって信託された政府」(松下圭一「日本の自治・分権」岩波新書185p)の一つである県の意思として県民に投票権を設定したものを、市町村政府が剥奪することは信託理論から言ってもおかしい。
 では、県民の権利である投票権を保証するためにはどうすればいいか。一つは県条例で市町村の処理義務を設定することだが、分権の時代に逆行するとの批判が容易に想像できる。県が自ら執行する。これにはいくつもの壁がある。ひとつは、投票資格者名簿の作成である。市町村選挙管理委員会の協力なくしては困難であろう。
 そこで、第2点として、この県民条例をきっかけとして浮かび上がってくる問題がある。それは、先に見た国・県・市町村へのそれぞれの信託が行われているとして、国や県は自らの政府の信託者(主権者)の名簿を持っていないことだ。代表を選出する選挙に際しては、国法(公職選挙法)が名簿の調製から投開票の選挙事務の執行まで、市町村選挙管理委員会の事務として定めている。だが県政府の信託者(主権者)のリストは自ら調製しておらず、もっぱら市町村選挙管理委員会に依存している。今回のように、市町村が選挙事務のボイコットをするようなことがあっては代表選出という信託行為が成立しない。県とはいったい何であろうか。 (2月4日執筆)

 

つじやま たかのぶ 公益財団法人地方自治総合研究所所長)

 

 

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