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2019年4月コラム

戸籍と子供の人権

 ほぼ2年前(2017年3月号)の本欄に「ひとり戸籍の幼児」というテーマでコラムを書かせていただいた。そこでは、博士課程で研究している人が「幼児がひとりで取り残されるという制度自体を批判し、戸籍制度による個人の人権が守られない状況を研究している」と紹介した。その後、論文を完成させて、学位を取得し、2018年8月に稲垣陽子『ひとり戸籍の幼児問題とマイノリティの人権に関する研究』(公人の友社)が出版された。この著書がある月刊誌の編集者の目にとまり、その月刊誌で特集が組まれることになった。
 この著書の趣旨は、人権を守るための国の制度が逆に人を差別し格差を拡げ不幸を作り出していることを明らかにすることである。「ひとり戸籍の幼児」はその典型であるが、それ以外にも、「無戸籍児」・「婚外子」・「性同一性障害の親を持つ子」が扱われており、戸籍制度や民法の規定によって排除された子供たちが研究対象である。
 「ひとり戸籍の幼児」が生じる理由については、以前のコラムで述べているので、ここでは述べないが、それ以外の子供について、考えてみたい。まず「無戸籍児」であるが、無戸籍児の存在はここ数年でよく知られるようになった。戸籍がない故に、学校に行けず、児童手当も申請できず、職業も転々とし、結婚もできず、健康保険もなく、免許証も取得できず、悲惨で孤独な人生を送ることを余儀なくされている。なぜ親が出生届を出さないのか、あるいは出せないのかについては、DV等によって離婚できずに生まれた場合や、米兵との間に子供が生まれ、米兵が離婚手続きをとらずに帰国してしまった場合等々、さまざまな事情がある。この無国籍については、たとえば、遠藤正敬『戸籍と無戸籍 ― 「日本人」の輪郭』(2017年、人文書院)に詳しい。
 制度として問題になるのは、民法772条の「嫡出推定制度」の規定である。すなわち、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」(同条1項)、「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」(同2項)の規定である。戦後の民法改正で戦前の制度が引き継がれた規定であるが、親子関係の証明がDNA鑑定によって容易に可能な現代において、まったく無意味な規定である。それがなぜ続いているのかが疑問であるが、家族制度を安定させるという理由で改正あるいは廃止されないようである。
 「婚外子」については、戦後の民法改正では家制度を廃止したが、不完全であり、戸籍法改正では家制度が隠れて残されていた。戸籍法49条2項には、「届書には、次の事項を記載しなければならない。」として、「子の男女の別及び嫡出子又は嫡出でない子の別」(同項1号)が規定されている。また、同法52条2項には、「嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。」と規定されている。
 こうした婚外子が生まれる理由も多様であるが、1984年の国籍法改正によって父系血統主義から父母両系血統主義に変更され(実施は1985年1月)、母親の国籍でも子の国籍を取得できることになった。大きな問題としては、民法の相続に関する規定がある。旧民法900条4号には、「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、」という規定による嫡出子と嫡出でない子の差別である。2013年9月、最高裁はこの規定を違憲と判示した。同年12月の民法改正によってこの部分が削除されたが、民法には廃止された家制度の残滓が残っているのである。和田幹彦は『家制度の廃止』(2010年、信山社)の中で、民法改正議論における「限界」を指摘している。
 さて、残る「性同一性障害の親を持つ子」の問題であるが、戸籍法が夫婦の子として出生届を受理しないことから、2015年3月に渋谷区で初めての「パートナーシップ条例」が制定された。同時期に、世田谷区でも同様な「要綱」が策定された。この新しい動きについては、字数の関係で次回のコラムで考えてみたい。

 

むとう ひろみ 法政大学大学院公共政策研究科教授)

 

 

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