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2019年12月コラム

英国の国会主権

小原隆治

 英国は日本を含む他の多くの国とは異なり、単一の書かれた憲法典を持っていない。マグナカルタ(1297年)や権利の章典(1688年)を始めとする過去の基幹的な法律、裁判所の判例、慣習などによって憲法が構成されている。
 英国憲法の特徴の一つに、国会主権the sovereignty/ supremacy of Parliamentの考え方がきわめて強いことがあるといわれる。日本国憲法だと第41条前段「国会は、国権の最高機関であつて」(The Diet shall be the highest organ of state power)に示される考え方である。16〜17世紀に生きたペンブルック卿が言ったとされる「国会は男を女に、女を男にする以外はなんでもできる」(A parliament can do any thing but make a man a woman, and a woman a man)は、いまでは例えが適切でない面があるものの、そうした特徴を表す言葉としてこれまでたびたび引用されてきた。
 その一方、国会と内閣との関係という観点から見ると、英国では国会主権の一つの結果としてだが、国会で多数を握るおおむね単独の政党により内閣が構成され、内閣の提出する議案が高い確率で国会を通過するなど、内閣が国会に優位するのが通常の姿だと指摘されている(近藤康史『分解するイギリス』〔ちくま新書、2017年〕65〜72頁)。
 英国の国会主権、国会−内閣関係はどうなっているのだろうか。選挙制度、政党システム、政党内規律、政権の安定度といった考慮すべき要因をしばし脇に置き、ブレグジットをめぐる最近の国の動きのなかから、問題を考える材料となる事例を4つ紹介したい。
 第1に2019年9月9日、労働党主導で成立した通称ベン法The Benn Actである。同法は首相に対し、10月19日までにEU離脱案の国会承認が得られなかった場合、当時10月31日の離脱期限を2020年1月31日まで延期してもらえるようEUに願い出ることを義務付け、さらに一字一句変えられない願い出の書面を別表で定めた法律である。保守党ジョンソン首相は実際、この法律に従って離脱期限延期を願い出ざるを得ない結果になった。
 第2にかつて2011年9月15日、キャメロン保守党政権時代に成立した議会任期固定法Fixed-term Parliaments Act 2011による拘束である。同法は下院解散には議席定数650の3分の2以上の賛成を得ることが必要とし、首相の解散権に制約を課した。この規定のために、ジョンソン首相はベン法案の下院通過直後から10月末近くにかけて通算3回、国会解散の発議をしたものの、いずれも否決された。
 第3に2019年9月24日、ヘイル裁判長のもと、11人の裁判官が全員一致で下した最高裁判決である。同判決はジョンソン首相が国会を9月9日から5週間閉会する異例の措置を取ったことに対し、その措置を違法、無効と結論づけ、判決を受けて翌25日から国会は審議を再開した。最高裁判所が日本でいう統治行為論に与せず、首相には大きな痛手となる結論を導くうえで、もっとも重視したのは国会主権Parliamentary sovereigntyの憲法原理だった。首相の閉会措置はその原理に背いているとする理屈の立て方である。
 ここまでは英国の国会主権がいまなお意気軒昂であることを示す事例である。それに対して悩ましいのは、第4に2019年10月29日、閣法として提出され、2日後の31日に成立した解散総選挙法Early Parliamentary General Election Act 2019である。これをどう見ればよいか。
 同法は2019年12月12日に総選挙を実施することだけを定めた数行からなる短い法律である。議会任期固定法によらず、別に新法をつくり、それにもとづいて解散総選挙を行うのであって、新法の成立には単純過半数の賛成があれば足りるとされた。
 こうして当面1回限りとはいえ、首相の解散権を縛る議会任期固定法の規定に背いた新法を成立させたのは、国会の自殺行為といえないのだろうか(ただし、実際には下院議席定数3分の2以上の賛成票438〔反対票20〕で成立している)。ジョンソン首相がこの新法成立の手法を解散総選挙に向けた4回目の挑戦でようやく用いたのは、議会任期固定法のプレゼンスがあったからこそと考えればいいのだろうか。新法成立は、英国の解散総選挙や国会−内閣関係の今後のあり方にどのような影響を及ぼすのだろうか。

 

(こはら たかはる 早稲田大学政治経済学術院教授、エジンバラ在住)

 

 

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