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2020年1月コラム

「首長」の源流を求めて

北村 喜宣

 「首長(しゅちょう)」とは誰か。何をいまさらという質問かもしれない。実際、この質問を投げかけられた議員、行政職員、公法研究者のすべてが、「それは、知事とか市長でしょ。」と答えてくださる。
 一般的な用法として、すっかり定着している首長である。たしかに、国語辞典を参照すると、たとえば、『広辞苑〔第7版〕』(岩波書店、2018年)は、「行政機関の独任制の長官。「内閣の−」「地方自治体の−」。」と記述する(1401頁)。
 いささか思わせぶりであるが、正解は、「法令データベース」の検索機能を利用して法令用語の「首長」をサーチしてみるとすぐわかる。それは、「内閣総理大臣」であり、しかもそれだけなのである。日本国憲法66条1項は、「内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。」と規定する。そのほか、3つの法律条項においても、同様の用法がある(内閣法2条1項、中央省庁等改革基本法6条、8条1項)。首長の「首」は、首相の「首」である。したがって、国語辞典の説明にある2番目の例は、少なくとも法的には誤りということになる。それにもかかわらず、憲法のテキストにおいてさえ、この誤用がされている始末である。
 このように使われるようになったのは、いつごろからなのだろうか。大日本帝国憲法の条文に「首長」という文言は使われてはいないから、戦後のことだろうか。
 そこで、国語辞典を調べてみた。なるほど、『改修言泉』(大倉書房、1931年)には、「首長」という項目はある。しかし、この用法での記述はなかった。国立国会図書館で『広辞苑』を調べてみると、1955年出版の初版においても同様である。1950年代初頭には、自治体の長を首長と称する用法はなかったと推測される。首長について、自治体の長という説明が現れるのは、1969年出版の第2版からである。これらから推測すると、どうやら1960年前後に、自治体の長を指して首長というようになったと思われる。
 内閣総理大臣が首長と称されるのは、憲法68条にあるように、国務大臣の自由な任免権を持っているからである。まさに、内閣を構成する大臣のなかで「首ひとつ抜け出た存在」なのである。
 翻って、都道府県知事や市町村長であるが、地方自治法のもとでの名称は、「普通地方公共団体の長」である。たとえば、同法148条は、「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する。」と規定する。定数を規定する法令はないが、当然のことながら、ひとつの自治体に1人である。そもそも「首」を出す必要がない。
 内閣の場合は、分担管理原則があり、各大臣は、組織法に規定される項目を担当する。内閣総理大臣がすべての項目を直接担当するわけではない。これに対して、知事や市長の場合、法律に「都道府県知事は」「市町村長は」と規定されるように、すべての事務を直接に担当するのである。第1次分権改革のなかでの機関委任事務の全廃によって、自治体の長は、正真正銘、地方自治法148条が規定する存在となり、同法1条の2第1項にあるように、「地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割」の指揮を執る。
 そうであれば、自治体の長を「首長」と称する理由はどこにもない。「自治体長」「公共団体長」でいいはずである。少し長いとすれば、「自長」「公長」ではどうだろうか。よりによって内閣総理大臣の役割名が使われてきている理由が、どうにもわからない。
 ところで、『広辞苑』に初版以来ずっと掲載されている意味は、「……部族などの集団の統率者。かしら。」である。この内容は、『改修言泉』などの戦前の国語辞典から継承されている。ひょっとすると、源流は、こちらの意味なのだろうか。それならそれで、また頭を抱えてしまう。

 

(きたむら よしのぶ 上智大学法学部教授)

 

 

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