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2020年10月コラム

バナナと日本人 ― 未だに苦い現実

 さしたる値段でもないのに、ずいぶん躊躇した。一軒目では見送り、二軒目の書店で、諦めるように手にとった。700ページ強、1,000円(+税)。書物の「物」としてはお得な値段だ。
 さて、『岩波新書解説総目録1938−2019』が出版された。岩波自らが、「80年分の知のアーカイブ」とうたっている。内容はご想像のとおり、岩波新書の「目録」、書店の棚にぶら下がっていたり、チャンスがあればタダでもらえる、あれである。著者と書名、出版年月と、赤、青、黄、新赤版の各通し番号が振ってある。その目録を80年分ガッチャンコした。80年分とはいっても、1945年には岩波新書の出版はないし、47、48年はシリーズがお休みだ。大体80年。
 躊躇の理由は、まず、心理的なもの。宣伝・広告のためのものに値段をつけて買わせるというのはどうだろう。岩波新書のランプのマーク5枚を切り取って送ってくれれば進呈、なんていう方法の方がよくないか。
 更にもっと心理的なもの。目録を見てると自分の暗い読書シーンばかり思い出される。お手軽な教養主義、岩波権威主義。出版社が悪いわけではないが、自分のよって立つ基盤の脆弱性に滅入る。
 でもやっぱり買ったのは、あの本が、どのへんに、どんなふうにおかれているのかな、ということを確かめたかったからだ。自分のその後に影響を与えた、自分の生き方に影響を与えた本の場所を確認したかった。
 目録で最初に探したのは、鶴見良行『バナナと日本人 ― フィリピン農園と食卓のあいだ』(黄版199、1982年8月刊、『目録』の265ページ)。印象では、自分がもうちょっと若い頃の読書のように思っていた。これを巡って友人とした議論、関連の講演会の記憶がよみがえる。友人の顔ぶれや場所の記憶のピースを人生のパズルに当てはめると、もう2、3年前のところなのだが、目録でそう書いてあるのだから、記憶の遠近法の方を正そう。
 『バナナと日本人』を起点にして、記憶の尺を思い出させたのは、ごく最近の読書、『甘いバナナの苦い現実』(石井正子編著、コモンズ、2020年8月)に依っている。この本は、『バナナと日本人』の後の現実を、同様の方法で、丁寧に、同じく現場から解き明かしたものである。変わらないばかりか、農薬の被害は深刻化し、消費者に対しては、有機だ、環境だとさまざまな認証、規格を「盗用」(appropriation)している。
 最近、会合で、「ポストコロニアリズム」という言葉を使って、参加の学者に叱られた。「新植民地主義」という言葉があるではないか、わざわざカタカナをこれみよがしに使わなくとも。それってなんですか、という質問もあった。その通りだ。でも、現在の世界の大部分と、沖縄と自分・日本の関係を言い表わすのに、「ポストコロニアリズム」に代わる言葉が見つからない。「新」植民地主義で、「新」しい要素などはなにもない。ポストコロニアリズムはコロニアリズムだ。全体化した。『甘いバナナの……』の記述を読めば、ミンダナオ島では、かつてから、コロニアリズムで、再編強化され、今もコロニアリズムだ。日本は植民地本国、帝国主義本国であった期間は長くない。しかし、ポストコロニアリズム本国としては、年季が入ってきた。本国の通例通り、本国国民はコロニアリズムに気づかないか、気づかないふりをしている。
 フェアトレードやオルタナティブトレードの多大な努力にもかかわらず、(オルタナティブバナナ)パランゴンの輸入量は日本に輸入されるバナナのわずか0.17%にすぎないという。手に入りにくいのは現実だろう。
 我が家の食卓にものっているのは多国籍企業のバナナだ。安いから、思い切って半額になっていたからという理由で。食卓から離れると、外では、エシカル消費なんていうことをのたまわっている。なんだ、変わっていないのはお前の方だ。
 『甘いバナナの……』のあとがきに気になる記述があった。「(本書の発行人・編集者は)しばしば入院中の病床から打ち合わせや原稿のやりとりに応じてくださっていた」「筆舌に尽くしがたい闘病生活」。
 彼の健康の回復を祈る。彼は鶴見良行とPARC(アジア太平洋資料センター)を創設し、行動をともにしていた(鶴見は94年に亡くなっている)。ポスト『バナナと日本人』は岩波新書的には未だに『バナナと日本人』そのものである。と同時に『甘いバナナの苦い現実』でもある。編集者の彼には期するところがあったにちがいない。

 

すがわら としお 公益財団法人地方自治総合研究所委嘱研究員)

 

 

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