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2020年12月コラム

人のフンドシでお相撲を? KPIとしての景観計画策定数

北村 喜宣

 任意的自治体事務を規定する法律を所管する省の任務とは何だろうか。任意的であるから、担当するかどうかの決定権は、あくまで自治体にある。
 省としては担当してほしいと考えるだろうが、義務的ではない。そうしてもらえるように、法律ないしそれを踏まえて整備されるメニューをせいぜい魅力的な内容にするしかない。省は、自治体の向こう側に、国民をみている。国民をハッピーにするのが省の役割であるが、それは、自治体の肩越しにしか果たされえない。義務的事務でもそうであるが、任意的事務の場合には、一層妥当する整理である。
 最近、ある文書に接して、考え込んでしまった。国土交通省が「今後の景観・歴史的街づくりのあり方について」というテーマのもとに、様々な専門家の意見を聴取している。私は、同省から景観法の観点からの意見を求められた。適当なことを話してお役目は果たしたのであるが、気になったのは、配布資料にあった「景観法制定後、国は、景観計画の策定数を数値目標(KPI)に掲げ、主に制度の普及啓発に力点を置いて取り組んできた。」「今後は、景観計画の見直し数についても数値目標(KPI)に掲げ、『より良い』景観行政の展開を働きかけるべきではないか。」という記述である。資料を用意した公園緑地・景観課は、この内容について、当然のことと感じているようであった。
 景観法8条は、景観計画について、これを「定めることができる。」(8条1項)と規定する。策定を決定するのは自治体なのに、あろうことか、その策定件数を中央政府がKPIにしているのである。分権改革によって、国と自治体は対等な存在となり、適切な役割分担のもとで国民の基本的人権の保障をする。これが、憲法のもとでのガバナンスのあり方のはずである。ところが、景観計画の策定・改訂という「他人の事務」をあたかも「自分の事務」であるかのように把握して、その数の増加を自らの目標にする。今はなき機関委任事務制度の慣性が作用しているかのようにみえる。
 もっとも、公園緑地・景観課だけでこれを決めたわけではない。その背後には、第4次社会資本整備計画(2015年9月18日閣議決定)や観光立国推進基本計画(2013年3月28日閣議決定)がある。そこでは、景観計画の策定自治体数目標が明記されている。「中央政府ぐるみ」でこうした発想をしているのであり、それだけに、何とも暗澹とした気分になる。
 景観法が2004年に制定されてから、16年になる。景観計画を策定できる自治体数は、47都道府県と1,741市区町村である。国土交通省の景観ポータルサイトによれば、2020年3月末現在、景観法の策定団体数は578である。単純に1,788を分母にすると、32.3%となる。
 「景観保全などどうでもいい」と思う自治体行政は少ないだろう。そうであるとしても、16年かけて3分の1にしか受け入れられていないとすれば、「現行制度に魅力がないから」と考えるのが通常の発想である。その原因を分析し、法改正をして魅力を高める努力をしているのであれば、「他人の事務」ではあるけれども策定件数をKPIにするのはまだいいが、現実はどうだろうか。国土交通省から未策定自治体に出向した職員が「手柄」のひとつとして策定することがあれば、当該自治体にとっては迷惑千万の「余計なお世話」である。それで「1件ゲット」となれば、自己満足的KPIと言われても仕方ない。人のフンドシで相撲を取るようなものである。
 景観計画それ自体は、適切な手段である。もっともこれは、いわばカートリッジである。それを差し込む「制度」に魅力が欠けるから計画の策定が進まないのではないか。景観計画と景観計画制度とは次元が異なる。独自条例として景観条例を制定する一方で景観計画を策定していない自治体があるとすれば、それは、そういう理由からではないか。景観計画制度には、計画の読取りと個別開発の調整のような仕組みが必要である。
 自治体の景観行政の展開が今ひとつと国土交通省が考え、それを景観計画策定数の伸びで評価しているとすれば、その原因は自らの思考にあると気づくべきである。魅力ある景観計画制度のための法改正を期待したい。自治体離れできない中央政府が、まだそこにある。

 

(きたむら よしのぶ 上智大学法学部教授)

 

 

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