地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2021年12月中央の動き


中央の動き


◎看護・介護職等の収入引上など検討 ― 社会保障会議
 政府は11月9日、全世代型社会保障構築会議等の初会合を開いた。会議で岸田首相は「看護・介護・保育・幼稚園で働く方々の収入引上と全世代型の社会保障構築は分配戦略の大きな柱だ」と述べ、来春の春闘に先んじて収入引上を前倒し実施する方針を示した。その上で、年内の中間整理とりまとめを指示した。
 一方、厚労省は11月2日、2019年社会保障の意識調査を発表した。今後充実させるべき社会保障分野では「老後の所得保障」が67%で最も多いが、39歳以下では「子育て支援」が55%で最も多かった。税と社会保障の負担水準では、「生活に影響しないが負担感がある」が50%だが、「生活が苦しくなるほど重い」も38%あった。今後の社会保障の財源では「税金でまかなう」が56%、「社会保険料でまかなう」が19%。給付と負担水準では「給付水準を維持し少子高齢化による負担増はやむを得ない」が28%、「給付水準は引き下げつつ負担増もやむを得ない」が13%、「給付水準を引き上げ、負担増もやむを得ない」は12%だった。


◎デジタル田園都市国家推進交付金を創設 ― 政府
 政府は11月11日、岸田首相肝入のデジタル田園都市国家構想実現会議を発足させた。同会議で、岸田首相は「デジタル技術を活用し地方を活性化する」とし、その具体策に①自治体クラウドやデータセンターなどデジタル基盤整備②遠隔の医療、教育、防災支援③デジタル臨調やGIGAスクール、スーパーシティ構想、スマート農業の成果活用 ― などを挙げ、創設する「デジタル田園都市国家構想推進交付金」をフル活用すると強調した。その上で、当面の具体策や中長期の施策全体像を年内にまとめるよう関係閣僚に指示した。
 これを受けて、総務省は同日、総務省デジタル田園都市国家構想推進本部を設置した。金子総務相を本部長に同省幹部で構成。構想具体化の今後の論点に①仕事確保や産業創出、交通・物流の確保、医療・福祉・教育の充実など地方の課題を解決するためのデジタル実装②自治体や地域におけるデジタル人材の育成・確保③地方のデジタル実装に必要な通信情報インフラ整備や行政のデジタル化の基盤整備 ― などを挙げた。
◎コロナ感染拡大への取組の全体像を決定 ― 政府
 政府の新型コロナウイルス感染症対策本部は11月12日、「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」を決めた。今夏の急速な感染拡大を踏まえ、最悪の事態を想定した対応策に①医療供給体制の強化②ワクチン接種の促進③治療薬の確保 ― を挙げた。具体的には、今夏の3割増の患者(約1万人増)の入院が可能となる病床確保、全ての自宅・宿泊療養者に判明翌日に連絡をとり健康観察・診療できる居室確保(約1.4万室増)と保健所のみの対応を転換し約3.2万の地域の医療機関と連携してオンライン診療・訪問看護などの体制を構築。また、臨時の医療施設の円滑稼働に向け医療人材の確保と配置調整を担う体制も構築する。さらなる医療ひっ迫が見込まれる場合は、大都市以外の医療機関にコロナ以外の通常医療の制限措置を行い医療人材派遣を行うよう国が要請する。
一方、会計検査院は11月5日、2020年度の決算検査報告書を政府に提出した。ムダ遣いなど指摘事項は210件、指摘金額は2,109億円。また、コロナ感染対策では19~20年度に770事業、65兆円が計上されたが、22兆円が繰越などで使われていなかった。検査院は、繰越等の原因分析と適切な実施を各府省に要請した。
◎国と地方の協議の場でコロナ対応など要請 ― 六団体
 国と地方の協議の場が11月12日、首相官邸で開催された。会合では、岸田首相が新型コロナ対応の病床確保や3回目ワクチン接種などで地方の協力を求めた。これを受けて、平井全国知事会長が地方六団体を代表して「次の感染拡大に備えた課題に取り組むべきだ」と指摘し、①出口戦略・行動制限の緩和では地方の意見を踏まえ制度設計②ワクチン・検査パッケージ実施では市町村や医療機関の負担とならない制度とする③今後の感染拡大時には全国に緊急事態を宣言した上で各都道府県知事が対策・地域を選択できる運用導入 ― などを要請した。また、政府側から「ワクチン追加接種は12月から希望者が受けられるよう供給する」(後藤厚労相)、「一般財源総額の確保と固定資産税の確保に務める」(金子総務相)などの発言があった。
 一方、全国町村会は11月17日、都内で全国町村会創立100周年記念式典を開催。「全国926町村の多様な価値を発展させ、新時代を切り拓くため全力を尽くす」との「創立100周年宣言」を採択。また、記念感謝状を藤原忠彦前全国町村会長や有識者3名に贈呈した。
◎農林水産業の成長産業化へ法案準備 ― 政府創造本部
 政府は11月18日、農林水産業・地域の活力創造本部を開き、農林水産省が農林水産政策の主要課題・方向性に①スマート農林水産業による成長産業化②農林水産物・食品の輸出促進③農林水産業のグリーン化 ― などを挙げた。これを受けて、岸田首相が「次期通常国会に必要法案の提出へ改革の具体的方策を年内にとりまとめる」よう指示した。「方向性」では、スマート農林水産業機械のシェアリング導入や全ての農業大学・農業高校でスマート農林水産業のカリキュラムを創設。また、グリーン化では生産者や地域ぐるみで科学農薬・肥料の低減など環境負荷低減に取り組む水稲や野菜などの産地を創出するなどを盛り込んでいる。
 一方、農水省は11月11日、2020年の農用地区域内の農地面積と荒廃農地面積を発表した。農地面積は399.6万㌶で前年より0.6万㌶(0.1%)減少した。荒廃農地の解消等で1.2万㌶増加したものの、農地転用等の除外と荒廃農地発生で1.8万㌶減少した。また、荒廃農地面積は全国で28.2万㌶あり、うち再生利用可能な荒廃農地は約9.0万㌶だった。なお、政府は2030年の確保すべき農地面積目標を397万㌶としている。
◎経済対策に過去最大の56兆円を盛り込む ― 政府
 政府は11月19日、コロナ克服・新時代開拓のための経済対策を閣議決定した。国・地方の財政支出は過去最大の55.7兆円、事業規模は78.9兆円。GDP押上効果5.6%程度を見込む。分野ごとの財政支出は、①コロナ感染症の拡大防止22.1兆円②社会経済活動の再開と次の危機への備え9.2兆円③新しい資本主義の起動19.8兆円 ― など。具体策に、子ども1人当たり10万円給付やGoToトラベル等による需要喚起、地方活性化へローカル5Gなどデジタルインフラ整備やデジタル推進委員の全国展開などを盛り込んだ。
 これを受けて、総務省は11月26日、総額2兆350億円の2021年度補正予算案をまとめた。デジタル田園都市国家構想に1兆9,446億円を計上。自治体情報システムの標準化・共通化(318億円)やマイナンバーカード普及促進(346億円)、データセンター・海底ケーブル等の地方分散によるデジタルインフラ強靱化(500億円)などを進める。また、防災・減災・国土強靱化関係ではハイスペックドローンや小型救助車等の整備(9億円)、緊急消防援助隊装備の充実強化(43億円)、地域防災力の中核を担う消防団の装備充実強化(22億円)などを盛り込んだ。
◎政策立案機能の充実などで議会シンポ ― 総務省
 総務省は11月19日、「地方議会活性化シンポジウム2021 ― 令和時代を担う地方議会、調査研究・政策立案機能の充実に向けて」をオンライン開催した。基調講演で、磯崎初仁中央大学副学長は「地方議会に求められる行政監視機能には政策形成機能が不可欠だ」とし、議会は首長の提案・事務執行をチェックするだけでなく首長に代替案も提案すべきだと強調。政策形成能力強化のため議員討論の活発化や住民・有識者の意見反映・活用も検討すべきだとした。次いで、只野雅人一橋大学教授をコーディネータに、青木謙順三重県議会議長ら地方議員が参加しパネル討論が行われた。
 また、全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議長会の主催による「多様な議員で構成された活力ある地方議会を目指す全国大会」が都内で開催された。基調講演で、谷口尚子慶応大学教授が各種選挙での投票率低下には国民側にも問題があると指摘した。また、「大会決議」で①地方議会の団体意思決定機関としての位置付け、地方議員の職務等を法律上明確化する②立候補による企業の休暇保障・議員の厚生年金への加入など立候補しやすい環境整備③小規模議会議員の報酬引上 ― などを訴えた。
◎コロナ感染を地方創生のチャンスに ― 有識者会議
 政府の地方創生有識者会議は11月24日、「取りまとめ」を了承した。「第2期総合戦略」(2019年12月)以降、コロナ感染症が地方経済・生活に打撃を与えたが、地方移住への感心も高めたとし「感染症によるピンチを地方創生の取組を大きく広げるチャンスにすべきだ」と指摘。今後取り組む方向に①デジタル技術を活用し地方のイノベーションを生む多様な人材・知・産業を集める②地方からデジタル実装を進め、地域の課題解決・魅力向上のブレークスルーを進める③地方の成長・持続可能性向上につながるエネルギーの地産地消 ― などを挙げた。併せて、地方でデジタル技術を活用できるようハード・ソフト両面のインフラ整備やデジタル人材の育成・確保を図るなどを提言した。
 一方、総務省は10月29日、2020年度の移住相談窓口の受付件数を発表した。相談件数は29万1,100件で、前年度より2万4,600件減った。減少は初めて。感染症関連でイベントでの相談受付が4万4,700件減った。都道府県別では長野県が1万4,556件で最も多かった。
◎国家公務員の期末手当減額は来年6月に調整 ― 政府
 政府は11月24日、国家公務員の給与改定の取扱を決めた。人事院勧告を受けて期末手当0.15月引下を実施するが、関係法令の遅れから来年6月の期末手当で減額する。このため、総務省も同日の地方公務員給与改定の取扱通知で「調整時期については、地域の実情を踏まえつつ、国家公務員の取扱を基本として対応すること」とした。多くの自治体は同通知を踏まえ対応するとみられるが、北海道、東京、神奈川、愛知、大阪などの都道府県では12月からの引下を表明している。
 一方、政府は11月26日、第3回新しい資本主義実現会議を開き「賃金・人的資本」などを審議した。会合で岸田首相は、「春闘に先んじて保育士・介護職員等を対象に収入の継続的3%引上を来年2月から前倒し実施する」と述べるとともに、環境整備のため①賃上する企業の税額控除率を抜本的に強化②3年間で4,000億円の施策パッケージを創設し職業訓練・再就職等を支援③政府調達で賃上する企業に加点 ― などの方針を示した。なお、厚労省が11月19日発表した2021年賃金引上実態調査では、賃金引上は企業の81%で実施、1人平均賃金改定額は4,694円(1.6%増)。定期昇給(一般職)は75%。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)