地方自治総合研究所

MENU
月刊『自治総研』

2018年12月中央の動き


中央の動き


◎政府主催の全国知事会議を開催 ― 政府
 政府主催の全国知事会議が11月9日、首相官邸で開催された。安倍首相が「最大の課題は少子高齢化。全世帯が安心できる社会保障制度へ3年かけて改革する」とあいさつ。上田全国知事会長が、消費税の来年10月引上げを歓迎するとした上で、「持続可能な社会保障制度のカギは健康立国だ」と述べた。次いで、各知事から被災者生活再建支援制度への国の財政措置(鈴木三重県知事)、国土強靱化への抜本的対策(広瀬大分県知事)、放課後児童クラブなどの柔軟な制度化(平井鳥取県知事)、憲法の地方自治を充実(飯泉徳島県知事)、地方法人課税の偏在是正(石井富山県知事)などの要請が出た。これに対し、安倍首相は国土強靱化の緊急対策を年内にまとめる、予防・健康へのインセンティブ強化など自治体の優良事例の横展開を支援する、消費税率引上げ対応では政策を総動員、来年10月から幼児教育を無償化するなどと述べた。
 一方、全国市長会は11月15日、幼児教育・保育の無償化を求める緊急アピールを採択。同無償化は国が提唱した施策であり、必要財源は国の責任で全額確保すべきだと訴えた。全国町村会も11月28日、町村に新たな財政負担が生じないよう決議した。しかし、11月21日に開催された教育無償化に関する国と地方の協議では、関係大臣と地方3団体会長が出席したが、無償化に伴う財政負担8,300億円をめぐり対立が続いた。


◎被災地への地方公務員派遣を要請 ― 石田総務相
 総務省は11月13日、東日本大震災など被災地への地方公務員派遣状況を発表した。今年4月1日現在、東日本大震災の被災地への派遣は合計1,485人で、45都道府県が824人、19政令市が175人、272市町村が486人派遣。職種は一般事務730人、土木513人など。また、熊本地震への派遣は合計238人で、35都道府県が116人、20政令市が51人、59市町村が71人それぞれ派遣。このほか、昨年の九州北部豪雨の被災地にも12都道府県・3政令市・21市町村から合計70人が派遣されている。なお、石田総務相は被災自治体への中長期の職員派遣に協力を求める書簡を11月12日付で全首長に送付した。
 一方、全国知事会は11月9日、被災者生活再建支援基金の対象を「半壊」に拡大することを決めた。支援拡大に伴う財政負担は年約16億円。このため、各都道府県の被災者生活再建基金の拠出額を400億円とする。また、都道府県の災害時広域応援協定を改訂。①緊急広域災害対策本部の設置基準を明確化②災害対策都道府県現地連絡本部の設置と国の被災市町村対応職員応援システムへの参加③大雨特別警報発令時にも災害対策都道府県連絡本部を設置 ― などを追加した。
◎地方税偏在是正は年内決定を ― 財政審・地財審
 財務省の財政制度等審議会は11月20日、2019年度予算編成に関する建議をまとめた。平成の時代は受益拡大と負担軽減に抗えなかったとし、過ちを繰り返さないよう新経済・財政再生計画の歳出規律を遵守すべきだと強調。社会保障では医療費・介護費の地域差半減・縮減、医療保険の負担能力に応じた負担検討などを提言した。地方財政では地方財政計画の歳出計上が適正か検証が不可欠と指摘。一方、地方法人税の偏在是正では「年末までに結論を得る」との指摘にとどめた。審議では委員から「偏在是正による増収分を臨時財政対策債返済分に充当すべき」との意見が出ていた。また、11月26日の経済財政諮問会議が決めた2019年度予算編成の基本方針では、歳出改革と幼児教育無償化などメリハリの効いた予算編成を強調した。
 一方、総務省の地方財政審議会は11月20日、2019年度地方税制改正に関する意見をまとめた。地方法人課税の偏在是正は地方税充実と合わせて考えるべきだとした。また、車体課税では代替財源なくして税率引下げは困難だと強調。ふるさと納税では返礼割合3割超・地場産品以外の返礼品送付団体の特例控除除外を提言した。なお、11月9日の全国知事会議では2019年度税財政等の提言で「消費税・地方消費税率10%段階における税源の偏在是正措置の確実な実施等」を盛り込んだが、小池東京都知事が「どうパイを増やすかを考えるべきだ」と反論。提案に「注」書きで東京都の主張を盛り込むことで合意した。
◎議員のなり手確保等で重点要望 ― 全国町村議長会
 全国町村議会議長会は11月21日、議会の機能強化と議員のなり手確保の重点要望を決めた。地方議員の位置付けを法律上で明確にするとともに、多様な人材確保の環境整備として①兼業禁止の緩和②休暇・休職・復職制度の整備③手当制度の拡充④保育スペース等の整備 ― などを提言。さらに、選挙公営の拡大、被選挙権年齢の引き下げ、厚生年金への地方議員の加入なども要請した。なお、厚生年金への加入は全国都道府県議会議長会も11月1日の定例総会で決議している。
 一方、総務省は11月19日、地方議会活性化シンポジウム2018を開催した。基調講演で大山礼子駒澤大学教授が「地方議会に未来はあるか」をテーマに講演。パネルディスカッションで「人口減少社会を迎え、地方議会への多様な人材の参画をどのように実現するか」をめぐり討論が行われた。また、全国都道府県議会議長会が11月13日開催した議員研究交流大会で牧原出東京大学教授が「自治体戦略2040年構想と地方自治」、全国市議会議長会が11月14日開催した研究フォーラムでは宮本太郎中央大学教授が「地域共生社会をどうつくるか 2040年を超える自治体のかたち」をテーマにそれぞれ講演などが行われた。
◎70歳までの就業など成長戦略で提言 ― 未来投資会議
 政府の未来投資会議は11月26日、新たな成長戦略の中間報告をまとめた。「成長戦略」の重点分野に掲げた①ソサエティ5.0の実現②全世代型社会保障への改革③地方政策の強化 ― の具体化を盛り込んだ。生涯現役社会の実現に向けて、希望する高齢者には70歳までの就業機会を確保。併せて、年金受給開始年齢の選択肢拡大、自治体のシルバー人材センター機能の強化、疾病・介護予防への保険者のインセンティブを強化する。また、経営悪化の地方銀行や乗合バスの経営力強化、地方での公共交通機関の維持対策として①タクシーの相乗り導入②循環バス等の完全自動運転化 ― なども盛り込んだ。安倍首相は会議で「3年間の工程表を含む実行計画を来年夏に決定したい」と述べた。
 一方、厚労省は11月16日、2018年の「高年齢者の雇用状況」を発表した。65歳定年企業は16.1%あり、うち中小企業は16.8%、大企業は9.4%だった。また、66歳以上で働ける企業は27.6%、70歳以上で働ける企業は25.8%、定年制度廃止企業も2.9%あった。
◎人口減少下での大学のあり方で答申 ― 中教審
 中央教育審議会は11月26日、2040年に向けた高等教育のグランドデザインを答申した。18歳人口が40年には現在の7割に減少するため、教育の質を確保できない大学は「撤退する事態も覚悟すべきだ」と指摘。各大学は「18歳中心主義」「自前主義」からの脱却と、規模の適正化、社会人・留学生の受入拡大を提言した。また、大学は地域の人材育成など地域・行政・産業を支える基盤だとし、「地域連携プラットフォーム」を構築し、リカレント教育や共同研究、まちづくりのシンクタンク機能などを展開すべきだとした。併せて、大学の連携・統合では①国立大学の一法人複数大学制の導入②私立大学の連携・統合の円滑化③国公私立の枠組みを超えた連携の仕組み構築 ― なども提言した。文科省は、同答申を受けて関連法の改正を検討する。
 また、同日の中教審では社会教育の振興方策の答申案も審議した。同案では、昨年暮れに閣議決定された「地方提案の対応方針」を受けて、「自治体の長が公立社会教育施設を所管できる特例を設けることについて、社会教育の適切な実施の確保に関する制度的担保が行われることを条件に、可とすべき」とした。12月21日の総会で答申する予定。
◎農林水産業・地域の活力創造プラン改訂 ― 政府
 政府の農林水産業・地域の活力創造本部は11月27日、農林水産業・地域の活力創造プランの改訂を決めた。新たに農林水産業の成長産業化に向け、世界最先端の農業「スマート農業」を実現する。具体的には、自動運転システム+高精度GPSで省力化・無人化を進めるほか、センシング技術+ビッグデータ+AIで収量・品質を向上、ロボット技術で重労働や危険作業から解放する。さらに、農業用ドローンの利活用に向けた規制を見直し、農薬や種子、肥料等の散布の際の補助者の設置を原則不要とする。そして、2025年度までには農業の担い手のほぼすべてがデータを活用した農業を実践するとし、そのためのプログラムを来年夏までに策定するとした。このほか、農地の集積・集約化を農地バンク事業に統合一体化も盛り込んだ。
 一方、政府は11月27日、気候変動適応計画を閣議決定した。21世紀末までの長期的展望を踏まえ今後5年間に関係府省が取り組むべき施策を示した。農林水産業分野では、稲の高温耐性品種の開発・普及と肥培管理・水管理の基本技術を徹底。また、年降水量の変動に対応するため排水機場・排水路の整備やハザードマップ策定を進める。さらに、洪水・高潮・高波など将来の豪雨の頻発化等を見越した手戻りのない施設の設計などを進めるとした。
◎公共私ベストミックスなど検討へ ― 地制調小委
 第32次地方制度調査会の専門小委員会は11月29日、これまでの自治体戦略2040構想に関する関係省・自治体ヒアリングを踏まえ今後の審議のあり方を議論。小委の審議状況を12月の総会に報告した上で、今後、①人口減少・高齢化がピークを迎える2040年から逆算し顕在化する諸課題②圏域の自治体協力関係と公・共・私のベストミックスのあり方 ― の順で審議することを決めた。これまでの審議では、追加ヒアリングや現地調査を求める意見が多く出たほか、市町村合併しなかった地域の行政サービスの維持、圏域を超えた自治体間の交流・助け合いのネットワーク、専門職・専門家の不足への対応、地域における意思形成、AI・ロボットなど技術革新の活用とシステム等の共同化などが出た。これを踏まえ、今後、圏域の自治体の協力関係、公・共・私のベストミックス、さらに2019年度末で期限を迎える現行の合併特例法への対応などを検討するとみられる。
 一方、11月28日に開催された全国町村長大会で大森彌東京大学名誉教授が「町村へのメッセージ」を披露。「自治体消滅」論が多くの自治体にショックを与えたが、「町村長等に守る覚悟があれば絶対に町村は消滅しない」と強調した上で、地制調について「今後、広域連携が検討されるが、連携の仕組みでは全国一律は避けてほしい。連携ができない町村は都道府県の支援を受けることになるが、その際、都道府県は国のためでなく、市町村の支援が都道府県の任務となることが必要だ」と強調した。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)