地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2018年3月中央の動き


中央の動き


◎2018年度の地方財政計画など閣議決定 ― 政府
 政府は2月6日、2018年度の地方財政計画と地方交付税法等改正案、地方税法等改正案を閣議決定した。地財計画では、子ども・子育て支援など社会保障関係費やまち・ひと・しごと創生事業費1兆円などを計上し、地財計画規模は前年度比2,775億円(0.3%)増の86兆8,973億円となった。地方交付税は同3,213億円(2.0%)減の16兆85億円だが、一般財源総額は同356億円(0.1%)増の62兆1,159億円を確保。臨時財政対策債は同587億円(1.5%)減の3兆9,856億円に抑制した。このほか、公共施設等の老朽化対策などの歳出1,950億円を確保した上で歳出特別枠(同額)を廃止した。地方税法等改正案では、市町村計画に基づく中小企業の設備投資の固定資産税を2分の1からゼロまで軽減できる異例措置(3年間)が盛り込まれた。
 一方、政府の経済財政諮問会議は2月20日、今年夏の骨太方針策定に向けた審議をスタートさせた。安倍首相は、「消費税率引上げによる経済の振れをコントロールし需要変動を平準化する具体策を政府一丸となって検討する」よう指示。併せて、中小企業等での人手不足解消のため専門・技術職を中心に外国人の受入れ制度の在り方検討も指示した。なお、新たに策定する財政健全化計画では、18年度で終わる地方一般財源総額の同額ルールのあり方も議論される。


◎子ども・子育て支援法案を閣議決定 ― 政府
 政府は2月6日、子ども・子育て支援法改正案を閣議決定した。一般事業主から徴収する拠出金率の上限を0.25%から0.45%に引き上げるとともに、事業主拠出金を保育の運営費(0歳~2歳児相当)にも充当できるようにする。併せて、市町村の待機児童解消の取組を支援するため、都道府県を中心に市町村、保育事業者、有識者などが参加し協議する「待機児童対策協議会」(仮称)を設置。都道府県単位での保育所受け皿整備へ市町村間の広域利用調整などを進める。
 なお、政府が昨年決めた「子育て安心プラン」では、待機児童解消に必要な受け皿約22万人分の予算2018・19年度の確保が盛り込まれている。また、少子化の歯止め策などを検討するため1月に発足させた政府の少子化克服戦略会議は2月8日に第2回会合を開き、関係者からヒアリングした。夏にも提言をまとめる。
◎選択的夫婦別氏等などで世論調査を発表 ― 内閣府
 内閣府は2月10日、選択的夫婦別氏制度等に関する世論調査を発表した。婚姻前の通称を使用できれば「不便を生じない」(58%)が「不便がある」(41%)を上回ったが、選択的夫婦別氏制度の法制化については「改めてかまわない」(43%)が「必要ない」(29%)を上回った。ただ、同制度が実現した場合に婚姻前の姓を名乗るかは、「希望しない」(47%)が「希望する」(20%)を上回っている。さらに、夫婦別姓での子どもの姓は「同じにすべき」(58%)が「異なってもかまわない」(15%)を上回った。
 一方、無戸籍問題の現状等を関係省が2月1日の自民党司法制度調査会で報告した。法務省が把握した無戸籍者は2018年1月10日現在、累計で1,593人おり、うち874人は解消、719人が無戸籍者だった。法務局別では東京66人、横浜65人、大阪63人などで多い。無戸籍の理由では「(前)夫の摘出推定を避けるため」が75%で圧倒的に多かった。また、文科省調査によると無戸籍の学齢児童生徒は201人(17年8月10日現在)いるが、いずれも修学しており無修学はゼロだった。
◎若者の地方移住促進へ有識者会議 ― 内閣府
 内閣府は2月14日、「わくわく地方生活実現会議」の初会合を開いた。地方から東京圏への転出が毎年10万人にのぼるため、①若者を中心としたUIJターン対策の抜本的強化②地方の人手不足に対応した女性や高齢者の活躍などの推進③地方の魅力・夢の実現などの周知・広報 ― などを検討。5月頃にも提言をまとめる。梶山地方創生担当相は2月16日の記者会見で、「これは息の長い取り組み。まず自治体の方にレールの上に乗っていただきたい」と述べた。また、総務省の「田園回帰に関する調査研究会」は1月26日、過疎地域への移住者アンケート調査(回答995)を発表した。移住理由では「気候や自然環境に恵まれたところで暮らしたい」(47%)が多く、移住条件では「生活が維持できる仕事がある」(29%)が多かった。
 また、内閣府は2月13日、地方創生に資する金融機関の取組事例を発表した。全国の金融機関の83%が自治体と共同して取り組んでいた。具体的には、ジビエの品質管理・販路開拓支援によるビジネス化(鳥取銀行)、ファンド活用による観光を軸とした地域経済活性化(佐賀銀行、唐津信用組合など)、儲かる農業実現(秋田県信用組合)などが取り組まれている。
◎公務員の定年引上げ検討を決定 ― 関係閣僚会議
 政府の公務員の定年引上げに関する関係閣僚会議は2月16日、「定年を段階的に65歳に引き上げる方向で検討する」との関係省庁検討会がまとめた「論点整理」を了承。人事院に対し、具体的な制度設計を要請した。「論点整理」は、定年を一定の準備期間を置いた上で新規採用や職員の年齢構成への影響を勘案し段階的に引き上げるとともに、民間給与水準との均衡・総人件費抑制の必要性から60歳以上職員の給与水準を引き下げるとした。このほか、①能力・実績に基づいた人事管理・セレクションの厳格化②60歳以降から定年前までの再任用の仕組み導入 ― なども盛り込んだ。併せて、地方公務員についても「各自治体の実情も踏まえつつ、国との均衡を勘案し、今後検討する必要がある」とした。
 梶山国家公務員担当相は同日の記者会見で、「今後の具体的スケジュールはまだ決まっていない」と述べた。また、野田総務相は同日の記者会見で、「(論点整理で)各団体の実情も踏まえ国との均衡等を勘案し、今後検討する必要があるとされている。総務省としては、人事院の検討や国の制度設計を踏まえ、地方団体の意見も伺いながら検討していきたい」と述べた。
◎高齢社会対策大綱とバリアフリー法案を決定 ― 政府
 政府は2月16日、高齢社会対策大綱を閣議決定した。政府が取り組む中長期的な高齢社会対策の指針で5年ごとに改定。大綱は、65歳を一律「高齢者」とみるのは現実的ではないとし、ライフステージ画一化の見直しを提案。また、年金の受給開始時期の選択肢を「70歳以降」に拡大する。併せて、60~64歳の就業率を2020年に67%(16年64%)に引き上げる、健康づくり推進で健康寿命を20年に1歳以上、25年に2歳以上延伸するなどの目標も示した。
 また、政府は2月9日、高齢者・障害者等の移動等の円滑化促進法(バリアフリー新法)改正案を閣議決定した。「社会的障壁の除去」など新たに理念規定を設けた上で、市町村がバリアフリー方針を定めるマスタープラン制度を創設し、重点的に取り組む対象地区を設定する。また、駅など旅客施設にスペースの余裕がない場合に近接建築物への通路・バリアフリートイレ整備が容易にできるよう協定制度と容積率特例を創設する。なお、バリアフリーマスタープラン策定市町村数を300団体(20年)とするなどの目標も示した。
◎地方分権の提案募集で実施方針決める ― 内閣府
 内閣府の地方分権改革有識者会議は2月19日、2018年の地方分権提案募集の実施方針を決め、翌20日から事前相談と提案の受付を開始した。6月5日に受付を終え、年末の「対応方針」の閣議決定に向け関係府省との調整に入る。17年には合計311件の提案があったが、提案市町村がなお約1割のため、新たに「分権提案支援ダイヤル」と「地方分権改革eラーニング講座」を開設した。講座は、有識者らが提案方式の考え方やポイントなどを解説。パソコンや携帯電話などでいつでも誰でも無料で受講できる。
 一方、参議院の憲法審査会は2月21日、憲法に対する考え方について自由討議した。自民党が、党憲法改正推進本部がまとめた参院「合区」解消に向け各都道府県から最低1人を選出(47条)、地方公共団体を基礎的地方団体・広域地方団体とする(92条)との条文案を提案。しかし、公明党を含め他党からは「合区解消を憲法改正で行うのは疑問」など慎重・反対意見が相次いだ。自民党は3月25日の党大会までに9条改正、緊急事態条項、教育無償化などの条文化を目指すが、今後の議論の行方はなお不透明だ。
◎森林経営管理法案をまとめる ― 農水省
 農水省は2月19日、森林経営管理法案をまとめた。閣議決定の上、国会に提出する。林業の成長産業化に向け森林所有者が経営管理できない場合、市町村が経営管理の委託を受け、民間の林業経営者に再委託する。また、林業経営に適さず再委託できない森林は市町村が自ら管理する。具体的には、市町村が経営管理権集積計画を作成し、森林所有者から「経営管理権」を取得。その上で、都道府県知事が募集した民間林業経営者に「経営管理実施権」を配分。同事業者は利益を市町村・森林所有者に支払う。また、地域林政アドバイザー制度で市町村を支援する。なお、全国市長会は2月19日、同法案の立案に向け①新システムでの都道府県の役割明確化②市町村への人的支援・財政支援 ― などを求める意見を林野庁に提出した。
 一方、政府は2月22日、環太平洋経済連携協定加盟11カ国の新協定(TPP11)の条文案を公表した。新協定は15年10月合意の協定を原則維持、3月8日にチリでの署名式で最終確定する。なお、農水省は2月9日、2017年の農林水産物・食品の輸出実績を発表した。輸出総額は前年比7.6%増の8,073億円で、政府目標の1兆円には届かなかったが、過去最高を更新した。
◎気候変動適応法案を閣議決定 ― 政府
 政府は2月20日、気候変動に伴う被害の回避・軽減に向けた対応策を盛り込んだ気候変動適応法案を閣議決定した。最近の温暖化・気候変動に伴い農作物や漁業、災害、熱中症などで影響が深刻化。このため、国が農林水産業や自然災害、自然生態系、国民生活などの各分野で推進すべき気候変動適応計画を策定。その進展状況を5年ごとに評価し改定する。さらに、都道府県・市町村も地域気候変動適応計画を策定(努力義務)するほか、地域ごとの気候変動の影響や適応の情報提供を行う地域気候変動適応センターを整備する。
 一方、文科省は2月16日、気候変動の観測・予測・影響評価の統合レポート2018を発表した。日本では世界より速いペースで気温が上昇。この結果、①豪雨の増加傾向で土砂災害の激甚化・形態が変化②コメの収穫量が増加する地域と減少する地域に偏りが拡大③熱中症が特に東日本以北で2倍以上増加④製造業、商業、建設業などの各種産業は豪雨・強台風、極端現象の頻度・強度の増加で甚大な被害 ― などと予測している。

 

(井田 正夫・月刊『自治総研』編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)