月刊『自治総研』
2017年6月中央の動き
中央の動き |
◎今後の分権改革のあり方で論点整理 ― 全国知事会 ◎一億総活躍プランでフォローアップ会合 ― 政府 政府は5月17日、第1回「ニッポン一億総活躍プラン」フォローアップ会合を開いた。同一労働同一賃金ではガイドライン案を最終確定し改正法施行日に施行するほか、長時間労働是正では1か月80時間超の時間外・休日労働が疑われる全事業場で監督指導を実施。時間外労働の上限規制違反には罰則を課すほか、「65歳超雇用推進助成金」の積極的活用などを働きかけるとした。また、子育て環境整備では新たなプランに基づき保育の受け皿整備を推進、幼児教育の段階的無償化を進めるほか、給付型奨学金を2018年度から本格実施するなどとした。また、政府は5月12日、第3回地域働き方改革支援チームを開催。地域働き方改革包括支援センターや働き方改革アドバイザリーの今後の方針などについて報告などが行われた。 一方、自民党の一億総活躍推進本部は5月10日、提言をまとめた。少子高齢化で「支える人」が減少するため、70歳までは「ほぼ現役」など本人が希望する限りフルに働ける環境整備を提案。このほか、①産婦人科・小児科医師不足の解消②要介護3以上のリハビリ強化③小中学校からのキャリア教育と進路指導の充実④自治体や地元経済界と連携した大学等の新設・再編 ― などを提言した。 ◎地方自治テーマに自由討議 ― 衆議院憲法審査会 衆議院憲法審査会は5月18日、「国と地方のあり方(地方自治等)」をテーマに各会派の自由討議を行った。各党からは、「住民自治と団体自治」「自主的な財源・財政調整制度」などを憲法に明記するほか、参議院選挙の「合区」解消を求める意見が相次いだ。なお、道州制では「道州制に向けた積極的な議論を期待する」(民進党)、「(憲法改正原案で)道州を憲法上の存在とした」(日本維新の会)との積極論に対し、「仮に道州制を導入するにしても憲法改正は必要ない」(公明党)との慎重論も出た。また、5月25日の憲法審査会では、教育無償化をめぐり自民党・日本維新の会が憲法への明記を求めたが、民進党・公明党は明記に慎重な姿勢を示した。 一方、安倍首相は5月3日に「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」との意向を表明した上で、12日に自民党幹部に衆参両院の憲法審査会に提示する憲法改正案の取りまとめを指示。これを受けて体制強化した憲法改正推進本部は5月24日から取りまとめ作業に入った。なお、連合の神津会長は5月24日の民進党幹部会合で憲法改正の議論に着手したことを伝え、経団連の榊原会長は5月8日の記者会見で憲法改正の提言を年内にまとめる考えを明らかにした。 ◎地方創生に資する大学改革で中間報告 ― 内閣府 内閣府の地方大学の振興・若者雇用等有識者会議は5月22日、中間報告をまとめた。まち・ひと・しごと創生総合戦略に基づき地方大学の振興・東京での大学新増設抑制・地方での雇用創出に向けた対策を提言した。大学の機能分化の推進で「グローバル型」(世界水準の学術研究)、「ローカル型」(地域産業を支える人材育成)を示した上で、地方大学は「総花主義」「平均点主義」から脱却し特色を求めた大学改革・再編を進めるとした。その具体策に、①地方での役割・位置付け強化②生涯学習・リカレント教育③地域のシンクタンク④企業研修ニーズへの対応 ― などを挙げた。一方、東京23区では大学の定員増を認めず、新たな学部等の設置は既存の学部等改廃を徹底する。併せて、東京の大学の地方移転に向けサテライトキャンパスのマッチング、学生が地方圏と東京圏を相互に交流・還流する仕組み構築も提案した。 また、まち・ひと・しごと創生担当相と地方六団体との意見交換会が5月12日開催された。六団体側から「日本全体が元気になる段階に進めるべきだ」(山田全国知事会会長)として地方創生推進交付金などの財源確保を求めるとともに、「地方大学は若者の地元定着に寄与している。地方大学の振興に取り組んでほしい」(松浦全国市長会会長代理)、「大学には地域に役立つ研究事例が多く、この還元が地方創生の原点だ」(藤原全国町村会長)などの意見が出た。 ◎規制改革の推進へ第1次答申 ― 政府 政府の規制改革推進会議は5月23日、第1次答申をまとめた。利用者の立場から、行政手続コストの削減や農業、人材、医療・介護・保育などの分野で改革を提言した。行政手続では、行政手続簡素化の3原則を踏まえて今後3年間で行政手続コストを20%削減する。このため、営業の許認可、社会保険、国税・地方税、補助金手続、調査・統計など9分野で各府省は今年6月末までに削減目標達成の基本計画を策定する。このほか、①介護サービス利用者の選択に資する情報公開制度・第三者評価の改善、介護保険サービスと保険外サービスの組合せ②農地の新たな農業生産施設・設備の利活用促進③税・社会保険関係事務のIT化、自治体保有データの活用 ― などを提言した。 一方、5月22日に開催された政府の国家戦略特別区域諮問会議では、2016年度に指定した10区域の評価が報告された。神奈川県が全国で初活用した住宅容積率緩和や大田区の特区民宿では順調に推移。養父市の企業による農地取得で耕作放棄地の再生に貢献しているなどと評価。逆に、新潟市や福岡市では人材確保支援の実績が無く、沖縄県の病床の新設・増床は計画が大きく遅延しているなどが指摘された。 ◎保育士確保へ試験科目など免除 ― 厚労省 厚労省の有識者検討会は5月24日、介護福祉士や社会福祉士など福祉系国家資格を持つ者に保育士試験の試験科目や指定保育士養成施設での科目履修の一部を免除することを盛り込んだ報告書をまとめた。2018年度試験からの導入を目指す。政府が決めた「待機児童解消加速化プラン」実現には、17年度末までに国全体で新たに6.9万人の保育士が必要となるため、保育士確保プランでは、このほか保育士の処遇改善や保育士試験の年2回実施などを進めるとしている。 一方、全国知事会は5月16日、少子化対策と子どもの貧困対策の抜本強化の緊急提言を発表した。少子化対策では、地域少子化対策重点推進交付金の拡充・運用弾力化や結婚新生活支援事業の拡充、不妊治療等への支援拡充、病児保育など子育て中も就業が可能となる保育サービス拡充などを要請。子ども貧困対策では、市町村の子ども家庭相談体制の強化、放課後の学習の場確保や子どもの居場所となる「子ども食堂」への財政支援などを要請した。なお、内閣府が5月26日に発表した「子どもの居場所づくり」施設調査によると、登録のあった施設は、国が8件、自治体が141件(都道府県27、政令市17、市区87、町村10)だった。 ◎土地利用行政のあり方で提言 ― 全国市長会等 全国市長会・日本都市センターの研究会は5月25日、土地利用行政のあり方に関する報告書を発表した。高齢化・人口減少時代に適した制度への転換が必要だとし、都市と農山漁村を包含した一元的な土地利用行政の確立を提言。また、都市が決定した計画体系に法的拘束力を付与するとともに、全国一律の規制を都市が総合的に展開できるよう①都市計画の線引き②農業振興地域の変更③特別区への用途地域指定 ― などの権限を「手上げ方式」で段階的に移譲するよう提案した。このほか、都市が所有者不明のまま土地利用権を設定し施設整備できる仕組み構築を求めた。 一方、国交省の空き地等新たな活用検討会は5月17日、「取りまとめ案」を審議した。市町村が従来の空き家バンクに空き地情報も集積し一時的な利用・管理する制度創設を盛り込んだ。近く報告をまとめる。また、自民党は5月16日、空き家・空き地の利活用・流通促進の提言(中間まとめ)を決めた。円滑な用途転用など空き家活用時のネック解消や地域連携・地域経営で空き家・空き地の再生など8項目を提言した。なお、5月26日発表された2017年版土地白書によると、世帯所有の空き地等が増加しているが、所有者の3割は「空き地のまま」を希望していた。また、空き地対策条例は410件あるが、大半は指導・助言だった。 ◎自治体基金などめぐり議論 ― 国と地方の協議の場 国と地方の協議の場が5月31日開催された。政府側が、近く決定する「骨太の方針」や地方創生・地方分権改革への取組などを説明。一方、六団体側は、自治体基金の増加を地方財政削減に反映させる国の動きに対し、「基金残高増加で地方財政に余裕があるような議論は断じて容認できない」と強く批判。このほか、①トップランナー方式や地方行財政改革で生み出した財源は地方に還元②国民健康保険の普通調整交付金の調整機能維持③地方大学の振興と政府関係機関の地方移転④少子化対策の強化と医療・介護サービス基盤の整備 ― などを要請した。 なお、「骨太の方針」を審議している経済財政諮問会議(5月11日)では、民間議員が「(自治体基金は)使い切れない財源が積み上がっている」として国・地方の財政配分に反映するよう提案。安倍首相が地方の各種基金や地方単独事業の実態分析を高市総務相に指示した。また、財務省の財政制度等審議会も5月25日の建議で、自治体基金やトップランナー方式の成果を地方財政削減に反映させるよう提言した。一方、高市総務相は5月12日の記者会見で「(自治体基金は)重大課題に臨機応変に対応できるよう積んでいる」との認識を示した上で、今後、全団体を対象に基金の実態等を調査する考えを明らかにした。調査は、財政調整基金・減債基金・特定目的基金の現状と今後の見込み、積み立て理由・使途などを調べる。
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(井田 正夫・月刊「自治総研」編集委員・委嘱研究員、元自治日報編集長)
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