地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2009年9月自治動向


「官僚支配」から「政治主導」を実現するために
田口一博

二元代表制における政治主導

 議院内閣制における「政治主導」の意味とは、政策を決め、導いていくのは政治の役割であるというであろう。それに対し「官僚支配」とは政治的な正統性を有さない官僚が実質的な政策決定を行っているということであろう。
 二元代表制である地方自治の場でこれを考えれば、実施責任者である首長は、行政ではなく、行法(明治初年の「政体書」で使われている本来の用法である)、つまり政治によって決められたことを忠実に実現していくべきものとして行動すべき、ということになろう。では、そこで議会が政策を議論し、決めていくためにはどうすればよいか。これまでも「議員が条例案をつくるべきである」というような主張があったが、公選で選ばれる議員に対し、試験で採用される職員のうちでも数%の者しか担えない条例案をつくれ、というのは、そもそも普通選挙制や常識人による専門家の統制という近代民主主義を理解しない暴論であろう。

政治=決定の実質化

 それでは政治主導はどうすれば実現するのだろうか。政治の役割は何かということを突き詰めて考えてみれば、それは「決定」であるから、その決定を議会で行うことが確立できる方策が必要なわけである。
 これまでの議会が、それが国会であれ自治体議会であれ、政治が主導していると思われなかった原因に、議会は決められた案の承認を行っているだけだということがある。法案や条例案は、「法制技術」による高度な検討を経た、しかし実現したい政策の内容が正確に理解できるとは言えない一種類の条文が提案されるだけ。建設的な質疑をしようと、条文に書かれていない対案を考えて質すと、それは検討の結果、破棄された案であるというような答弁が返ってくる。これでは議論するにも、勝負は最初から案を練り上げる行政の側にあるのは当然である。
 しかし、議論の効率を考えたとき、一種類の案だけを議案とすることは大変非効率なのである。第171国会終盤で見られた臓器移植法改正案では原案と修正案が複数出されたことにより、国会における内容に対する議論が行われたことを想起してほしい。これと同じように、議案は最初から複数案が提出され、その中からどれを選ぶべきかということが、議会の議論によって決定されればよいのである。といっても新たに特別なことをするわけではない。これまで行政が作ってきた案の策定過程で「捨てられ」てきた案を、どうして妥当ではないかと判断した理由とともに議案として提案し、議会の議論で決定するよう、議案の作り方を変えればよいのである。

よい資料作りで行政は政治にコラボする

 8月号のこの欄で紹介したとおり、公文書管理法は議論の過程やその理由を文書化して記録することを求めている。現行の一案しか記載しないという議案のあり方は、公文書管理法の趣旨から改められなければならないが、さらに政治主導を実現するために、複数案を提示し、その評価を示して議会が選択できるものへと変えられなければならないのである。
 このようにすることで、議会は容易に承認の場から決定の場へと変わることができる。官僚組織の中で「議案」を一つに決めてしまうのではなく、選択肢を示してその評価を行い、政治による決定を行うためのよい資料をつくることが、官僚支配脱却の第一歩なのである。

 


文責 : 田口 一博