2003年度より、市場公募債発行28団体のうち東京都を除く27団体により、市場公募債の共同発行が行われる。共同発行される地方債は10年債で毎月600億円から800億円を発行し年間総額約8000億円を予定している。
共同発行のメリットは、一定規模以下の自治体ではロット(発行単位)の不足や財政力の状況から、個々自治体で発行能力に格差が生じることを回避し、安定的で有利な発行条件を保障することにある。今回の共同発行では27団体が連帯債務を負うため、相互にリスク分散を図り、市場における信用度を高めることが可能となる。
地方債の共同発行は、地方財政法第5条の7に規定されており、特に新しい制度ではなく、かつて1962年から1965年にかけて大阪府と大阪市によりマルク債を発行した実績はある。しかし、今回については財政投融資改革や金融市場の動向などを背景に、国が地方債の政府資金調達から民間資金調達へのシフトを進める経過のなかで、民間資金の活用を図る一環として本格的に導入する先駆として見る必要がある。
市場公募債は、地方債計画の資金区分では政府資金、公庫資金、民間等資金のうち民間等資金に位置づけられる。2002年度現在、市場公募債の発行団体は都道府県および政令市のうち28団体であるが、制度上、直接的に自治体の市場公募債の発行を制約するものはなく、手続きとしては市場公募団体となる要望書を総務省に提出し、これに対し指定通知が出されることで発行可能となる。ただし、これまでは起債の許可制のもとで、実質的な運用基準を「許可方針」や関連通知に委ねられ、実態として発行が制約されていたということができる。また、郵便貯金、年金積立金、簡保積立金を原資とする政府資金のウエイトが高かったことや金融市場における地方債への関心が低かったことなども、市場公募債を発展させてこなかった原因と考えられる。
しかし、分権改革にともない、2006年度より地方債の許可制は事前協議制に移行し、地方債発行の自治体の裁量が尊重されることを踏まえ、その経過措置として2001年度より許可制の弾力的運用が国の方針として示されている。具体的な措置としては都道府県、市町村における経常収支比率と起債制限比率が一定基準を満たす自治体については、起債における実質的な協議制への移行を認めるものであるが、それ以外にも許可方針などでは市場公募債の発行における許可の緩和などが示されており、こうした国の対応の変化が市場公募資金の積極的活用の背景にあると見られる。
また、金融市場においても株価低迷や銀行金利の低下などにより、相対的に優位性のある地方債をはじめとする公社債に対する需要が高いことやBIS規制における国債や地方債のリスクウエイトが1997年より0%となり、自己資本比率8%以上を維持する資金運用として地方債を引き受けるインセンティブが働いていることなども共同発行を推進している背景にはある。
市場公募債における共同発行債の位置づけは図①のようなものであるが、今後、許可制の弾力的運用や事前協議制への移行などが進むにしたがって、28団体に限らず、全国の自治体において適宜採用されることが予想される。
こうした地方債の自由化は、2002年度より本格化したいわゆるミニ公募債の発行やその共同発行への道を開くなど、今後、地方自治体の資金調達の多様な可能性が秘められている。
ただし、その一方で、地方自治体の行財政運営が金融市場の評価にさらされることになることも避けられない。自治体は地方債の可能性の広がりと引き替えに、市場における自治体間の差別化を甘受せざるをえない。特に財政力の弱い自治体にとって、たとえ共同発行という方法があるにしても、地方債の民間資金へのシフトが資金調達をより厳しくする可能性が考えられる。
地方債の市場化や多様化は両刃の剣であり、自治体がどのようにこれらのメリットを生かしていくかは今後の課題である。