防犯灯の管理
先日、市役所から地元の自治会長に防犯灯の電気料金の請求がされていないという文書が筆者(会計担当)に届いた。調べてみたら、すでに自治会の通帳から電気料金は引き落とされており、請求すれば全額助成される。なぜ、全額助成されるのに、自治会が支払うのか、そんな余計なことをする必要があるのか、気になって、調べてみることにした。
調べてみると、高木鉦作先生が1962年に「地方自治体と街路照明」という論文を書かれていることがわかった。学生のころ、高木先生の授業を受けたことを思い出しつつ、論文を読んだ。私の疑問の多くが解消した。また、町内会自治会の専門家である日高昭夫氏も「防犯灯と町内会自治会」という論文を書いておられる。
第1に、なぜ「防犯灯」と呼ばれるのか。市役所からの文書も防犯灯という語を用いている。多くの自治体のHPでは、防犯灯と街路灯の違いとして、前者は自治会などが設置したもの、後者は自治体や国が国道や市道に設置したものを指すとの説明がある。それらを含めて街灯とか、街路照明とか呼ばれるようだ。
第2に、ではなぜそのような使い分けがされるようになったのか。自治体や国が管理する街路灯は交通安全が目的とされている。街灯の目的は防犯だけではないのに、なぜ防犯目的を強調するような防犯灯という名称なのだろうか。高木論文によれば、戦前は灯火管制から街路照明はほとんどなかったが、戦後街路照明の要望が高まった。1947年の政令15号により町内会が解散させられたため、設置主体がなかった。そこで警察はGHQに働きかけ、防犯を目的にした住民組織設立の許可を得て、防犯協会が設置された。その防犯協会と警察が中心になって推進されたため、防犯灯と呼ばれることになったという。
ところで、筆者がかかわる自治会が担っている防犯灯管理の内容には、電気料金の支払・市への申請のほか、故障した防犯灯の修理・交換やLEDへの交換がある。修理・交換は、一部自治会の負担があるものの、多くは市が助成してくれる。その他、自治会としては、月2回の防犯パトロールの際に防犯灯を確認している。市の職員が夜間に街灯の確認作業をすることはできなくはないとしても、手間のかかることである。
最初の疑問に戻ろう。なぜ自治体が電気料金の全額を負担するのに、自治会会計から電気代が引き落とされるのであろうか。市に問合せした結果、市の自治会連合協議会(以下、自治連協)のHPに次のように書かれていることを知った。「自治連協のあゆみ」のページに、1982年、「防犯灯を自治会へ移管し、補助制度に移行」とある。最初は市の管理だったのが、誰かの要望で自治会へ変更されたようだ。そこで自治連協の事務局に問合せしたら、市の同じ職員が電話に出てきた。自治連協は、悪く言えば、市の「傀儡」なのだろうか。自治会にとって手間のかかる自治会への移管を誰が求めたのであろうか。
40年も前のことなので、当時の動きについて、知っている人はいないと思われる。いろいろと調べてみると、2007年6月25日の議会議事録に市民生活部長の答弁として、「防犯灯の維持管理は、昭和57年に自治会連合協議会より、住民相互の連携が深まり、自治会の存在意識を高めることに大きく寄与できるという理由から防犯灯の移管要請があり、それまで市が直接維持管理していた防犯灯を、自治会連合協議会を通じまして各自治会へ移管した経緯がございます」とあった。「住民相互の連携が深まり、自治会の存在意識を高める」との理由であるが、防犯灯では「住民相互の連携が深ま」ることは考えにくい。「自治会の存在意識を高める」という要望ならば、自治会の要望と考えうる。しかし、自治会の要望なのか、自治体の要望(防犯灯の確認作業を自治会にやってもらう)なのか、実態は不明である。
最近の傾向は、西宮市のように、「地域の負担軽減を目的として、平成28年4月から、市で直接管理(直営化)を行うこととしました」とHPに書かれている。知人に尋ねると、佐倉市でもLED化を契機に同じ年から市の直営に変更されたという。このように、「地域の負担軽減」と自治体の事務省力化のために、防犯灯は自治体の直営にすることが望ましいのではなかろうか。日高論文が指摘するように、防犯灯の管理は「近接性と地域管理/調整機能」(調整機能とは住民間の利害調整)の観点から、両者の協働が必要であるが、自治体は自治会に依存しすぎないようにすることが重要であろう。