2023年7月中央の動き
◎こども政策で初の「国と地方の協議の場」開催
「こども政策に関する国と地方の協議の場」が5月10日、地方3団体と小倉こども政策担当相らが参加し初めて開催された。今後も年2回程度開催する。
冒頭、小倉担当相が「こどもファスト・トラック、こどもまんなか応援プロジェクト、意識改革の機運醸成を今年夏をメドにスタートしたい」と挨拶。これを受けて、全国知事会は「教育関連政府支出を国際的に遜色のない水準に引き上げるなどこども関連予算の拡大と財源の安定確保に向け社会全体で負担する新たな方策などを国の責任で検討する」よう要請。このほか、①こども・子育にやさしい社会づくりのための意識改革②ライフステージを通じた子育の経済的支援強化③全てのこども・子育世帯を対象とするサービスの拡充と教育機会の確保・質の向上 ― などを求めた。また、全国市長会は「子育の各種施策実現には地域間格差が生じないよう安定的な地方財源の確保と現場自治体の意見を尊重する」よう要請。全国町村会は、政府が「試案」で国民健康保険の減額調整措置廃止の方針を示したことを評価するとともに「この協議の場での自治体の声を今後の政策に反映する」よう求めた。
◎ふるさと納税訴訟で泉佐野市が敗訴 ― 大阪高裁
大阪高裁は5月10日、ふるさと納税の特別交付税減額をめぐる訴訟で泉佐野市の請求を認めた大阪地裁判決を取り消した。冨田一彦裁判長は、同減額措置は「行政権内部の問題」だとして、市側の訴えを退けた。なお、減額が適法か違法かの判断は示さなかった。同判決を受けて松本総務相は5月12日の記者会見で「国の主張が認められ、泉佐野市の訴えが却下された」と評価。改めて、各自治体に対し「指定制度のルール遵守を徹底するとともに、制度の趣旨を踏まえ節度ある取組を行っていただくことが大切だ」と強調した。一方、敗訴した泉佐野市は5月23日、判決を不服として最高裁に上告した。
泉佐野市は2018年に返礼品アマゾンギフト券を使用し全国で突出する497億円の寄付金を集めたため、総務省は19年度の特別交付税を前年度比9割削減。このため、市が国を訴え、一審大阪地裁は22年に同減額は違法と判断していた。
◎ハローワークのデジタル化など提言 ― 厚労省
厚労省の労働政策基本部会は5月12日、「変化する時代の多様な働き方に向けて」と題する報告書をまとめた。企業の成長には人材投資・人材育成が重要だとし、企業は経営者・現場労働者の全てのレベルでリスキリングに取り組む動機付け・環境整備などを要請。そのうえで、今後の労働政策の方向性に①女性や高齢者などの働き方に中立的な税制・社会保障制度の構築②労働者の転職の参考となる労働市場の見える化とハローワークサービスのデジタル化 ― などを提言した。
また、厚労省の仕事と育児・介護の両立支援研究会は5月15日、「仕事と育児・介護の両立支援の論点案」を審議した。近く、検討結果をまとめる。論点案は、育児・介護の両立支援の具体策に①現行の育児休業制度・短時間勤務制度は維持しつつ出社・退社時間の調整に加えテレワークを努力義務化②短時間勤務を原則1日6時間とした上で他の勤務時間も併せて設定することを促す③子の看護休暇の1年間の取得日数は原則5日としつつ取得可能な年齢を小学校3年生修了までに引き上げ④介護離職防止のため両立支援制度の周知や雇用環境を整備 ― などを盛り込んでいる。
◎川崎市が長命、大阪市は短命 ― 市区町村別生命表
厚労省は5月12日、2020年の市区町村別生命表を発表した。平均寿命の分布を市区町村別にみると、男は81.0~81.5年未満、女は87.0~87.5年未満に最も多く分布。うち、平均寿命が最も長いのは男では川崎市麻生区の84.0年、次いで横浜市青葉区83.9年、長野県宮田村83.4年。女では川崎市麻生区の89.2年が最も長く、熊本県益城町89.0年、長野県高森町89.0年が続く。逆に、最も短いのは男では大阪市西成区の73.2年、次いで大阪市浪速区77.9年、大阪市生野区78.0年が続き、女も大阪市西成区84.9年が最も短く、青森県今別町85.5年、青森県田舎館村85.5年が続く。なお、男女の平均寿命の差は全国で6.1年となっており、最長と最短との差は男10.8年、女4.2年だった。
一方、国立社会保障・人口問題研究所は4月26日、2070年までの推計人口を発表した。合計特殊出生率は1.36に低下し、この結果、総人口は20年の1億2,615万人が70年には8,700万人に減少する。また、総人口に占める高齢者の割合は、20年の28.6%から38.7%に上昇する。なお、平均寿命は男性は85.9年(20年は81.6年)、女性は91.9年(同87.7年)に伸びる。
◎食料安全保障の確立を前面に打ち出す ― 農水省
農水省の食料・農業・農村政策審議会は5月19日、農業基本法見直しに向けた中間とりまとめを了承した。今後20年を見据えた課題に、①平時の食料安全保障②農業従業者の急速な減少③国内市場の縮小④農村人口の減少と集落機能の低下 ― を挙げた。そのうえで、今後の基本法・主要施策の見直しでは、食料安定供給のための総合的取組など「平時から国民一人ひとりの食料安全保障の確立」を掲げるとともに、①環境に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換②食料の安定供給を担う生産性の高い農業経営の育成・確保③農村への移住・関係人口の増加と地域コミュニティの維持④農村インフラの機能確保 ― などを提言した。
一方、農水省は5月12日、農業技術の基本指針を公表した。毎年、都道府県や関係機関での農業技術関連施策の企画・立案の参考に農業の体質強化・環境対策などの新技術を公表している。今回、新たに①国内肥料資源利用拡大に向けた関係事業者間のマッチングサイト②温室効果ガス排出削減対策の新たな方法「中干し期間」の延長③飼料用米・国産稲わらの利用拡大のため需要者・販売者の情報公開 ― などを紹介した。
◎上水道の整備・管理を厚労省から国交省に移管
水道整備・管理行政を厚労省から国交省に移管する関係法の成立を受けて国交省は5月19日、水道整備・管理行政移管準備チームを設置した。これまで上水道は厚労省、下水道は国交省が所管していたが、今後、上水道の老朽化や震災対策が大きな課題となるため、下水道の整備・管理や道路インフラの老朽化・災害対策を担ってきた国交省が上水道も一元管理することにしたもの。なお、上水道の水質・衛生に関する業務は環境省が引き継ぐ。
また、国交省は5月23日、国土審議会の水資源開発分科会・調査企画部会を開き、水資源政策の深化・加速化に向けた基本的な考え方の審議を開始した。2015年の答申に基づき、同省は安全・安心できる水確保、安定利用できる仕組づくり、将来にわたり水を享受できる社会を目指した取組を進めているが、その後の①気候変動②水需要の変化③大規模自然災害 ― などの情勢変化を踏まえ、あらゆる関係者が連携して高度な水利用に取り組むとともに、エンドユーザーがリスクを確認できる取組の推進策、大規模災害時の必要最低限の水確保のあり方などを検討する。
◎こども政策の安定財源など提言 ― 地方財政審議会
総務省の地方財政審議会は5月25日、「活力ある多様な地域社会を実現するための地方財政改革についての意見」を提出した。目指すべき地方財政のあり方に①持続可能な地方税財政基盤の構築②地方財政の健全化 ― を掲げたうえで、こども・子育政策では地方の役割が大きいとし、地方の意見を踏まえつつ地方負担分の所要財源を安定的に確保すべきだと指摘。また、会計年度任用職員への勤勉手当の支給を可能とする制度改正を踏まえ必要な財源を確保すべきだとした。このほか、①デジタル田園都市国家構想に取り組めるよう地方財政措置を講じる②マイナンバーカードの普及・利活用促進と自治体行政・地域社会のDX推進のための財源確保③防災・減災、国土強靭化のため緊急防災・減災事業債等による財政措置 ― などを提言した。
一方、財務省の財政制度等審議会は5月29日、建議をまとめた。「少子化対策の成否は国家の運命を左右する取組」であり、恒久的な施策には恒久的・安定的な財源の確保が必要だとし、その財源を次世代に先送りするのは本末転倒だと批判。社会保障分野の歳出改革と社会・経済の参加者全員が幅広く負担する新たな枠組みを検討すべきだと訴えた。併せて、人口減少を前提に持続可能な地域社会のデザインが必要だとし、偏在性が小さい地方税体系の構築、教育のあり方検討、既存インフラの有効活用なども提言した。
◎地域脱炭素化推進で自治体からヒアリング ― 環境省
環境省の脱炭素推進のための自治体実行計画制度検討会は5月26日、第2回検討会で関係自治体からヒアリングした。同検討会は、地域脱炭素化施策・地域共生型再エネルギーの推進方策を検討するため今年4月に発足。促進区域設定のための市町村の負担軽減や市町村・事業者へのインセンティブ強化、地域脱炭素化促進事業制度の国・都道府県・市町村・事業者の役割分担・連携強化のあり方などを検討する。第2回検討会では、北海道せたな町の再生可能エネルギー、宮古市の再生可能エネルギーゾーニング、小田原市の脱炭素化施策、熊本県の陸上風力発電・地上設置型太陽光発電施設立地ゾーニング調査などの取組が紹介された。
また、環境省は5月12日、第6次環境基本計画検討会の取りまとめを公表した。第5次環境基本計画の5年後の計画見直し規定を受け、その後の炭素中立、循環経済、自然再興の同時達成に向けた「循環」と「共生」の概念整理や「新たな成長」のイメージ、地域循環共生圏の実績と課題・今後の方向性などをまとめた。
◎児童の安全確保など学校の水害対策で手引 ― 文科省
文科省は5月30日、学校施設の水害対策の手引を公表した。近年の水害の頻発化・激甚化で学校施設の被害が多発、2か月以上休校するケースもあるため、水害対策の検討手順などをまとめたもの。災害時に果たすべき第一の役割に「児童生徒の安全確保」「学校教育活動の早期再開」を挙げたうえで、①学校設置者と治水担当部局・防災担当部局の連携体制構築②最大規模浸水と発生頻度の高い浸水にも着目して対策③土砂災害防止のため警戒避難体制の整備と特定開発行為の許可・建築基準法の適合 ― などを指摘。併せて、自治体関係部局との連携、ハザード情報の整理、施設の脆弱性の確認などの手順も示した。
一方、会計検査院は5月18日、国が2018~20年度に実施した国土強靭化の緊急対策事業のうち672億円が 目的と異なる事業に支出されていたと発表した。10府県・287市町村が実施した17対策事業の一部が新たな事業に使用されていたほか、10府県・55市町村が実施した336事業は完了していなかった。