地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2025年4月コラム

「ふるさと納税」はどこへ行く

「ふるさと納税」は、個人が自分のふるさとや応援したい地域に寄付を行うと、所得税・個人住民税の寄付金控除を受けることができる制度としてスタートした。だが自治体からの「返礼品」が制度化され、競争が過熱したことにより、「ふるさと納税」は、いまやお得なネットショッピングと同義になりつつある。

寄付額のうち2,000円を超える部分については、一定の上限まで、原則として所得税・個人住民税から全額が控除される。さらに、寄付額の3割を上限に、返礼品を受け取ることができる。この制度により、多くの人は、自分の懐を痛めない範囲で「ふるさと納税」の申し込みができるサイト等から自分の欲しい「返礼品」を検索し、「寄付」を行っている。

多くの自治体では、寄付を集めようと魅力的な返礼品創出に汗を流す。ふるさと納税のサイトを見ると、高級肉や海鮮などにとどまらず、米やティッシュペーパーなどの日用品も人気となっている。最近では、数千万円の刀剣やキャンピングカーまでもが返礼品リストに登場する。

この制度には様々な問題がある。第1に本来であれば公共サービスに使われるはずの税が、それ以外の目的に使われてしまうことである。現在、返礼品は寄付額の3割を上限とすることとされているが、これに仲介業者への手数料等を差し引くと、実際に寄付先の自治体で施策に使われるのは寄付額の5割程度となる。納税に代えて寄付を行い、その一定割合が寄付者への返礼品とその手数料に充てられるとすれば、マクロ的に見た場合、行政サービスに充てることのできる財源は減少する。むろん、地場産品を返礼品に採用することで、地場産業振興を図るという考え方もありうるが、財政難で巨額の公債発行を行う状況下では、歳出のあり方が問われるだろう。

さらに問題なのは、高額所得者ほど、多くの「利得」を享受できる「逆進性」が生じていることである。現在の所得税・個人住民税の控除の仕組みの下では、高額所得者ほど高額の返礼品という「利得」を享受することができる。個人住民税減収分が事実上公債発行で補填されていることを考えれば、高額所得者が寄付を通じて高級和牛などの返礼品を手に入れ、国が借金でそれらを肩代わりしているとみることもできる。

「ふるさと納税」による寄付額は、令和5年度に1兆円を突破した。寄付額の61.8%が三大都市圏、なかでも東京都民の寄付が24.5%を占める。東京特別区では個人住民税収の約1割に相当する933億円(令和6年)が流出した。自治体の個人住民税減収分については、地方交付税により、その75%が措置される。だが、東京特別区や川崎市などの普通交付税不交付団体の場合には、税収に丸々穴があく。交付団体であっても、25%分は穴があいた形となる。

巨額の税収が流出する大都市自治体では対抗策として、自らもふるさと納税に参戦するようになった。大都市自治体が寄付金を集めるために様々な返礼品を用意、さらに仲介サイトとして2024年12月にアマゾンが参入するなど、寄付金獲得とふるさと納税ビジネスをめぐる競争は激化している。

ふるさと納税による寄付金を集める自治体が特定の市町村に大きく偏っている実情もある。令和4年度の場合、寄付額トップの宮崎県都城市をはじめ、上位6市町村で全国の寄付額の約10%を集めた。

返礼品は「自治体の区域内で生産または提供されるサービス」とされており、地方圏の自治体の中には、この制度を巧みに活用し、地域の社会経済循環の再構築に役立てている。なかには、税収額の何倍もの寄付金を集め、保育無償化や手厚い若者の移住支援などを推し進める自治体も出てきた。また、ふるさと納税を通じて、寄付者とつながりを創出する取り組みを図る自治体もある。だが、寄付である以上、決して安定的な財源ではない。

地域の公共サービスに対する応益負担としての性格を有する個人住民税の性格を踏まえても、行き過ぎた寄付金控除の仕組みの見直しが必要であろう。今日のような返礼品の仕組みを容認するのであれば、控除の上限を定額とするか、返礼品上限を定額として抑制し、高所得者を優遇する仕組みを排除すべきである。

地域を支援し、地域振興に協力することを目的とした金銭による参加が、「ふるさと」を応援する寄付の形であろう。こうした本来の寄付の理念を支え、広げる税財政制度とその運営が求められる。

ぬまお なみこ 東洋大学国際学部国際地域学科教授)