2025年8月気になる地方自治トピックス
総合調整権の相次ぐ行使と指定地域共同活動団体制度
1)総合調整権の行使相次ぐ
2025年に入り、地方自治法第157条が定める「総合調整権」の行使が相次いだ。
2月には鹿児島県出水市が、地元鉄道事業者が進めていた市内河川に架かる鉄道橋梁の補修工事をめぐり、市内の広瀬川漁協の役員が鉄道事業者の役員および社員を約14時間にわたり拘束し、漁業権と無関係な事項について批判・叱責を繰り返すなどの行為があったとして、総合調整権に基づき、議会の議決を経て同漁協に是正勧告を行った〔②③〕。なお、出水市はすでに2023年にも、同漁協が農業用水路の修繕工事を妨害した行為や、休日における職員の呼び出し、ダム耐震調査への不同意といった行為を問題視し、同様に是正勧告を行っている〔①〕。
翌3月には、高知県須崎市が、市内の須崎町漁協の組合長による漁業関係者や行政担当者に対する不当・不誠実な言動が、市内他漁協の漁業活動や市の事業進行に支障をきたしているとして、総合調整権に基づき、議会の議決を経て組合長の解任を含む是正勧告を実施した。須崎市によれば、出水市の対応を知ったことが行使の契機となったという〔⑥〕。
2)総合調整権(地方自治法第157条)の枠組み
地方自治法第157条は、「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の区域内の公共的団体等の活動の綜合調整を図るため、これを指揮監督することができる」と規定している。総合調整権の行使は議会の議決事項であり(同法第96条第1項第14号)、出水市および須崎市はこの規定に基づき、議会の議決を経て総合調整権を行使しているが、行政実例(昭和22年5月29日 地発乙第338号 地方局長通達)では、あらかじめ議会の議決によって長に委任することにより、長の裁量で調整権を行使することも可能とされている。また、ここでいう「公共的団体」には、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合、生活協同組合、商工会議所などの産業経済団体、社会福祉協議会・赤十字社などの福祉団体、教育団体、青年団、婦人会、文化・スポーツ団体など、公共的活動を営む団体が広く含まれ、法人格の有無は問われないとされる(松本逐条:561)。今回、両市で是正勧告の対象となった漁協も含まれる。
ただし、総合調整権に基づく是正勧告には法的拘束力がない。出水市の事例では、2023年の是正勧告後も市と漁協の主張は平行線をたどり、状況の改善は見られなかったという〔③〕。今年2月の再度の是正勧告後も、漁協は市が求めた組織改善策を期限内に提出せず、市は別途、損害賠償請求の検討に入ったとも報じられた〔④〕。その後、漁協の組合長は任期途中で辞任したが〔⑤〕、問題が解決に向かうかどうかは依然として不透明である。一方、須崎市の事例では、是正勧告に沿った対応が比較的順調に進んでいる。対象となった漁協は是正勧告直前に組合長を解任し〔⑥〕、その後、市長宛に抜本的な組織改善策を講じる旨の文書を提出した〔⑦〕。さらに、前組合長は理事職からも解任された〔⑧〕。
3)制度の沿革と批判
地方自治法第157条の規定は、1943(昭和18)年の戦時体制下において市制・町村制に新設された規定が、戦後の地方自治法にほぼそのまま継承されたものである。その背景には、「多種多様の團体や組織が、夫々相互に脈絡を通じて連携することなく孤立的な活動を營んでいては、到底各自の本意の目的を達成することも困難である」とする政府の認識があった(自治総研コンメンタール:388-395)。すなわち、地域内諸団体の一元性を志向し、長による調整機能に期待したのである。
総合調整権に対しては、時代錯誤的な制度であるとの批判も少なくない。人見(2019:43)は、地方自治法第157条が規定するような垂直的・統合的な調整関係は、多元性、水平的な非階層構造、柔軟性を基調とする、今日の公私多様な多主体間の連携によるローカルガバナンスのあり方にそぐわないと指摘する。また、北見(2024)は、総合調整権に紐づけて制定された飯田市条例を参照しながら、「団体等による何らかの公的性格を有する活動に対する地方公共団体の関わりに、地方自治法157条(総合調整権:筆者注)と結びつけた根拠付けを行おうとすれば、活動主体たる団体等の動員という意味の付与がなされるのは必然的」であり、「地方自治法157条は、公共的団体等への支援施策を地方公共団体がとろうという場合にも、その意図とは全く別個に、並行的な公共的団体等への制約根拠を用意するもの」になりかねないと指摘している。
4)指定地域共同活動団体制度との連続性
そうした議論がある中で、総合調整権と類似した構図を持つ新たな制度が創設された。2024年の地方自治法改正により導入された指定地域共同活動団体制度では、市町村長から指定された団体が、他団体との調整を市町村長に求めることができると定めている(第260条の49第5項)。求めを受けた市町村長は、必要があると認めたときには、調整のために必要な措置を講じなければならない。
この制度は、地域内諸団体の調整を長に委ねるという点で、総合調整権と同様の枠組みをもっている。総務省は同制度を新設した趣旨について、「住民が日常生活を営むために必要な環境の持続的な確保を図るには、他の地域的な共同活動を行う団体と連携した活動を通じて、地域全体として効率的・効果的に生活サービスの提供を行うことが必要である」(神谷2024:32)としており、ここにも総合調整権の一元性志向との親和性や連続性がうかがえる。さらに、議会の議決を原則とせず、条例に基づく委任によって長に指定・調整の権限を与える点では、長の権限をより一層強化する制度設計ともなっている。
「補充的指示権」の影に隠れていつの間にか成立した感のある同制度だが、その抱える課題は小さくなく、その運用や制度のあり方について、今後慎重な議論が求められる。
【参照記事・文献】
「関係人口」の政策化とその課題
後半は、人口減少社会への対応に関する政府の動きを2つ紹介する。
1)「関係人口」の政策化
人口減少社会への対応として、2014年に始まった「地方創生」政策は、10年余を経て節目を迎えた。発足当初に担当大臣として旗を振った石破茂氏が首相を務める中、政府は次の10年間に向けた「地方創生2.0基本構想」をとりまとめ、6月13日に閣議決定した〔①〕。
この新たな基本構想における目玉の1つが、居住地以外に継続的に関わり続ける「関係人口」の創出である。基本構想では、10年後の目標として「関係人口を実人数1,000万人、延べ人数1億人創出する」と掲げている。これに先立つ5月、総務省は居住地以外の地域に継続的に関わる人を登録する「ふるさと住民登録制度」の創設を検討中と報じられている。スマートフォンの専用アプリで簡単に登録できる仕組みを整備する方針であり、「登録に必要な情報や登録証の形式、登録数の上限などの詳細を詰める」とのことである〔②〕。
2)「関係人口」とは
田中(2021:57-60)によれば、「関係人口」とは、定住人口ではないが、地域再生に主体的に関わり続ける人々を指す。2016年に指出一正氏、高橋博之氏により提唱された概念であり、地域外の人々との関係性を通じて人口減少社会におけるゼロサムの構図を乗り越え、地域再生の担い手を確保する意図が込められている。
従来の地方創生政策に対しては、日本全体の人口が減少する中で自治体間に人口確保を促しても、不毛なゼロサム競争に陥るだけではないかとの批判があった。それに対して「二枚の百円玉を、親指と人差し指に挟んで速く動かすことで、三枚の百円玉に見せる」ように「人間を二(多)重計上すれば、人口減少社会でも、各地域の『関係人口』によって正和(ポジティブサム)に転換することも有り得る」(金井2019)というわけである。
構想日本による「ふるさと住民票」など、先行的な取り組みは見られるが(加藤2017)、今回、「関係人口」が次期地方創生の目玉施策に取り上げられた直接的な契機は、提唱者の1人である高橋博之氏による積極的なロビイングだったという(高橋2025:第6章)。高橋氏は、第1回新しい地方経済・生活環境創生会議(2024年11月29日)において、「ふるさと住民登録システム」の構築、ならびに住民税の分割納税、普通交付税算定への反映といった税財政上の措置の整備を主張した。
3)予想される制度設計
政府が明確な数値目標を掲げて関係人口の創出を打ち出したことで、今後、各自治体も地方創生総合戦略にKPIとして「関係人口」を明記し、その増加に取り組む動きが広がるだろう。
財政的なインセンティブの導入も予想される。たとえば、交付税算定における地域の元気創造事業費や人口減少等特別対策事業費の測定単位として採用される可能性がある。登録先の自治体数に上限を設けて、登録者数が青天井で増加しないよう制度設計が進められている点も、将来的な財政措置を視野に入れた対応と推察される。住民税の分割納税の実現には困難が伴うだろうが、ふるさと納税の寄附先を「関係人口」として登録した自治体に限定するといった措置は、是非はともかくとして現実味がある。
4)「関係人口」獲得競争の懸念
これまで「関係人口」は、量よりも質、すなわち個人と地域との持続的な関係性が重視されてきた(小田切2018)。しかし政府が数値目標を明示したことで、今後、関係人口の量的側面が強調される展開は避けられない。登録数に上限が設けられるとなれば、結局のところ、自治体間の「関係人口」獲得競争に陥りはしないだろうか(作野2018)。財政的なインセンティブが設けられるとなれば、なおさらである。
「交流人口」という言葉も、実は現在の「関係人口」と同様の理念のもとに導入されたが、やがて量的側面が強調された結果、観光客数との区別が曖昧になり、陳腐化した経緯がある。その反省を踏まえて新たに「関係人口」という概念が提唱されたにもかかわらず、結局は同じ轍を踏もうとしているようにみえる。
各自治体が「関係人口」獲得のためのイベントやキャンペーンを競い合うも、恩恵を受けるのは広告代理店やコンサルタントばかり…とならないことを願うばかりである。
【参照記事・文献】
人口減少社会における自治体のあり方をめぐって
1)「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会報告書」の公表
人口減少が進み、地域の担い手を含めた資源の不足や偏在が深刻化する中、自治体行財政の持続可能性が課題として浮上している。この問題の検討に向けて総務省は、2023年11月に「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会」を設置し、議論を重ねてきたが、6月16日に開催された第8回研究会において報告書案が示され〔⑤〕、同24日には成案が公表された〔⑥〕。
2)報告書の内容
報告書は地方議会議員のなり手不足や税財政の課題にも言及しているが、主たる焦点は、地方公共団体における事務処理を持続可能なものとするための対応方策である。
第1に事務処理主体の見直しと国と地方の役割分担の再整理が提案されている。「地方分権や市町村優先の原則は、今後も我が国の地方自治を支える重要な原則である」としながらも、「地域性を踏まえた企画立案が必要な事務や、住民の意思をきめ細かに施策に反映させる必要のある事務等については市町村が引き続き担うこととしつつ、専門性が求められる事務や、より広域的な観点で処理することが求められる事務等について都道府県や国と連携することが考えられる。さらに、このような事務のうち画一性が高く、都道府県や国との事務の共通性が高い事務については、都道府県や国が処理することも含め、適切な見直しを行うことが求められている」とする。
第2に、市町村の行政体制の見直しにおいて、都道府県や国がより主導的な役割を果たすことを求めている。課題を抱える市町村ほど、対応方策を検討する余裕すらないとの現状認識のもと、都道府県が地域の実情に応じて市町村の検討を支援することが重要であり、国としても一定の選択肢を提示するなど、体制の見直しに向けて後押しする必要があるとする。
3)今後の展開
6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」にも、「持続可能な地方行財政基盤の強化」として同様の内容が盛り込まれた。今後、本研究会における議論をふまえて地方制度調査会の設置・諮問が行われる可能性は小さくない。
今年2月に村上誠一郎総務相が、人口が半減する今世紀末には全国に300~400市あれば足りるのではないかと発言して物議を醸したが〔①〕、報告書を読む限り、いわゆる「令和の大合併」のような抜本的な自治体の再編に直ちに踏み切る見込みは低い。原邦彰総務審議官(当時:7月1日から事務次官)も2月の講演で、当研究会のねらいについて、「自治行政そのものをドラスチックに見直すのではなく、今あることを前提に役割を変えていってはどうかという議論を始めたい」と述べている〔②〕。
報告書の方向性に照らせば、当面は広域行政の推進・強化が優先されるとみられる。ただし、総務省は市町村相互の自主的かつ水平的な連携に委ねるだけでは限界があると認識しており、今後は、共同処理すべき事務や連携の枠組みを示すなどして、国や都道府県が主導する「上からの連携」が進む可能性がある。
また、国から都道府県、さらに市町村へというベクトルにとらわれない国と地方の役割分担の見直しが進められる可能性もある。定型的な事務(原田2024)や、経由事務、このところ相次ぐ給付金事務などの「下請け事務」〔③④〕から自治体を解放することは、地方分権改革にも資すると言えるだろう。
一方で、こうした改革の進め方次第では、市町村の役割が次第に希薄化し、「市町村の空洞化」といった事態がなし崩し的に進行する懸念がある。今後、基礎的自治体としての市町村の本質的な役割があらためて問われることになるだろう。