2025年9月気になる地方自治トピックス
基金の含み損
昨年3月のマイナス金利の解除に伴い金利が上昇するにつれて、すでに出回っていた国債や社債の魅力は薄れ、価格が下がっている。この影響で、低金利下で長期の債券を多く買っていた自治体に、多額の含み損を抱えこむ事例が相次いでいる。
国債も社債も満期まで持っていれば、投じた金額は回収できるので、途中段階で含み損があっても最終的に元本は保証される。このため、株式と比べれば安全な資産とされ、基金の運用先として活用されてきた経緯がある。
基金のうち、特定目的の財産を取得するための基金などは、その目的でなければ処分できない、という地方自治法上の縛りがある。
だが、財政調整基金などは、さまざまな事業に柔軟に支出するための財源。この財政調整基金で、高めの利子がつく満期が20~30年の超長期の国債などを購入し、含み損が生じているときに、地震や豪雨水害、あるいは突発的な税収減などで基金を取り崩す必要が生じた場合、機動的な対応ができないという事態を招きかねない。
手持ちの財源を少しでも有効活用しようとした取り組みが、裏目に出る格好だ。
公金である基金の運用で求められるのは、相応の金融知識と技術、それに極めて高い透明性だ。自治体の中には、「すべての債券は満期まで保有するので問題はない」として、含み損を公表しないところもあるが、議会や住民への丁寧な説明が欠かせない。
国政でも7月の参院選で、公明党が日本版「政府系ファンド」の創設を提唱。国が保有する外貨準備や株式・不動産などを原資とした資金の運用益を、公共政策の財源として、国民のために活用する仕組みを公約に掲げた。
こうした公金による資金運用がさらに広がりそうな現在、自治体はどこまで、どのように債券を活用すべきなのか、あるいはすべきではないのか。問題のあった運用のあり方を見直すように第三者委員が提言した自治体も出てきており、今後ますます「運用が適切かどうか」が厳しく問われそうだ。
●新聞各紙が各地の「含み損」を報道
愛知県愛西市では、財政調整基金から支出した129億円で購入した債券に、ことし1月時点で26億円の含み損が生じていたことが、5月議会で問題になった。自主財源確保のために2016年度ころから、財政調整基金を銀行預金などから利息の多い10~40年満期の国債などに切り替えてきた。そして昨年度は債券の一部を売却し、1,170万円の損失があった。残りの債券の利息収入などで9,000万円の運用益はあったというが、議会では「税金での巨額損失は問題だ」「将来、現金が不足しないか」という責任追及の声が上がった。
市の内部検証では不十分だとして、一部の議員が第三者委員会設置を求める決議案を出したが、賛成少数で否決された。「地方自治法違反とまでいえない」という意見が多数を占めたためだった。
岐阜県関市は4月末時点で、含み損が約123億円に上ることを公表した。6月議会で、市側は「現時点で現金化は考えておらず、全ての債券を満期まで保有する」と答弁。含み損を抱えたままでの損失処理を否定したが、金利上昇を踏まえて、当面は債券運用を控える、という。
同県恵那市も1月末時点で、45億円の含み損がある。市の財政調整基金などの残高は23年度末で211億円。このうち約7割を満期まで30年の国債などで運用している。もともと基金の運用は預金が中心だったが、16年の日銀のマイナス金利政策導入後は、少しでも運用益を出そうと超長期の国債を次々と購入した、という。
福岡県福津市でも、昨秋時点で基金残高の2割に当たる約23億円の含み損が判明した。2019~20年度に約74億円を投じて、証券会社8社から国債と社債を購入していた中で発生。市は昨年、1億円分の国債を売って2,500万円の損失を確定させたという。
同県宗像市も2019~21年度に国債の20~40年債を約157億円で購入し、ことし1月時点で45億円の含み損を抱えた。市長は「財政運営に必要な資金を確保している。損切りの予定はない」と説明した。
新潟県でも6月県議会で、ことし2月の評価損約156億円が5月末時点で196億円まで膨らんだことが取り上げられた。県は県債の返済に備えて積み立てる県債管理基金の中の約2,000億円で国債などを購入し、金利収入を得ている。だが、その評価額が5月時点で1,804億円余まで下がっている、という。
花角英世知事は2月県議会で、「満期保有することのできる範囲で運用しており、現時点で評価損が発生していたとしても、元金が毀損(きそん)されるものではない」との認識を示していた。
●問われる運用方法
高知県阿南市では、債券を購入しすぎて、基金の現金不足が懸念される事態に陥った。このため市は1月に原因を調べる第三者調査委員会を設置、6月に報告書をまとめた。
それによると、2020年度から22年度にかけて、①会計管理者に債券の売買を一任していた、②運用期間の上限などを定める市の指針に反し、10年を超える長期債券を相次いで購入していた、③売買に市長をはじめとする特別職や会計課などの関連部局が決裁に関わっていなかった、④監査委員が債券の保有状況について会計管理者や関連部局に指摘したものの、特別職が把握していなかった、ことなどがわかった。
第三者委は当時の債券の運用方法が「地方自治法の観点から問題があった」と指摘。基金運用のガバナンスを見直していくことや、専門の人材を育成することなどを提言した。
栃木県那須塩原市は2022年度から、市の環境政策とも合致するSDGs債を優先的に購入し、その内容を「投資表明」として示し、持続可能な社会づくりへの貢献を内外に発信している。
債券運用の対象基金は、今後10年間で大きく取り崩しがなく長期的に運用資金が確保できる①財政調整基金、②減債基金、③公共施設等有効活用基金、④農村環境保全基金、⑤塩原地区温泉街活性化推進基金の5基金。
担当者は「購入段階では最善の選択だったとしても、利率の高い有利な商品が登場した場合に備え、その債券を購入した理由を市民に説明できるようにしておかなければならない」「議会からも、債券購入への反対はなかったものの、金利が上昇しているのでもう少し待ったほうがいいのではないかという質問はあったので、金利の動きなどを常に把握しておく必要がある」と話しているという。
【主な記事】
ふるさと納税あれやこれや
ふるさと納税の2024年度の利用総額は1兆2,728億円に達し、初年度(2008年)の81億円の150倍を超えた。「便利でお買い得な制度」として定着し、年間の利用者が約1千万人にのぼるいま、何かと話題には事欠かない。
まず、制度の問題点を並べると、①住民税は本来、「地域社会の会費的性格」のもので、暮らしている地域のために使う大原則を無視し、地方税制をゆがめている、②税金を多く納める高所得者ほど利用できる枠が大きく、露骨な「税金逃れ」にもなっている、③生まれ育った地域に税金を納められる制度として考案されたのに、全国商品カタログの「官製通販」になっている、④それを「ふるさと」と「納税」という美辞で粉飾している、などなど。
朝日新聞の声欄(2025年7月10日)に、ふるさと納税を初めて使って安いコメを40キロ手に入れた大阪府の女性の次のような投稿が載っていた。
「税を多く納め、かつ制度を理解・活用できる人を優遇する。こんなおいしい制度をなぜ今まで利用しなかったのか。枠いっぱいまで返礼品をもらわなくては。やっと私も賢い人の仲間入りできたのか!」
投稿は、コメ不足の折、「コメを手にできるのは限られた者だけ」であることに、「得もしたいけど違和感もある私」などと続くのだが、何よりも制度の恩恵にあずかれた素直な喜びが伝わる。ここには地方税のあるべき姿などという問題意識は微塵もない。そんな意識を求めることには無理があるし、この投稿者のあっけらかんとした感想こそが、利用者に共通する本音なのだろう、と思う。
国がつくった制度を地元のために活用するのは当たり前。というか、この制度に自治体が参戦しないという選択肢は無いに等しい。だから首長は利用拡大の旗を振り、職員は隣の自治体には負けまいと「売り込み」を展開している。郷土の産品が全国で評価されて注文が増えれば、地場産業が潤う。自治体の知名度も上がり、経済貢献にもなることを率直に喜び、「販売活動」に勤しむ職員は多いだろう。
ただ、中には筆者の知るある町の担当職員のように、「税制をゆがめるセールスが自治体職員の本来の仕事なのか」とため息をつきつつ、やめるにやめられない現実にもがいている方々も少なくないのではないか。
熾烈な競争のなかで、各地で返礼品の産地偽装が発覚。業者との癒着が加重収賄などの刑事事件になる事例も後を絶たない。
高所得者ほど多くの返礼品を受け取れる仕組みや、都市部の税収が奪われている実態は、現下の自治体行政にとって抜本的な対応が求められる大問題だ。
しかし、地方創生の成功例と位置づける政府は、小手先の対応を繰り返すばかり。7月の参院選でも、ほとんど議論の俎上にのらなかった。まだまだ「ふるさと納税狂騒曲」ともいうべき、ドタバタが続きそうだ。
●予算編成の帳尻合わせに
財政難の北海道北見市は今年度の予算編成で、ふるさと納税による寄付収入を、かつてない規模で計上した。多めに見積もった寄付額で歳出入の帳尻を合わせた格好で、まるで「捕らぬ狸の何とやら」まがいと言える。
北見市が今年度に見込んだのは50億円。昨年度に過去最高の約31億円を集めたのを受けて、一気に膨らませた。長年にわたり50億円程度の寄付実績があるのであればまだしも、いわば希望的観測、努力目標でしかない金額の計上は、あまりに乱暴だ。本来は予備的な財源である寄付金を、財政再建の頼みの綱のように扱う姿勢は厳しく問われる。
ふるさと納税仲介サイトによるポイント還元サービスが10月1日から廃止されるため、9月までの駆け込み需要が予想されるなか、北見市の見通しは厳しい。本年度の新たな返礼品の目玉として4月から用意した寄付額最大3億円に上る別荘取得のための支援費提供も未だ申し込みはないという。
●「ポイント廃止」に反対して提訴
10月からのポイント廃止(総務省が昨年、ポイントを付与する仲介サイトを通じて自治体がふるさと納税を募ることを25年10月から禁止すると発表)に対して、楽天グループが7月に総務省の告示の無効確認を求める行政訴訟を東京地裁に起こした。
楽天は約295万件の廃止反対署名を集め、ことし3月に石破茂首相に直訴したが、変更されなかったので訴訟に踏み切った。その中で楽天は、制度の普及に向けた企業と自治体の協力を否定しているし、過剰な規制は総務相の裁量権の範囲を逸脱していると訴えている。
2024年度に仲介サイトに支払われた手数料が1,656億円に達したと報じられるいま、筆者はテレビで仲介サイトのCMが流れるたびに、「税金で民間企業がCMを流している」と強い違和感を抱いている。それだけに、ポイント廃止方針は遅きに失したようにしか見えないが、さて司法はどんな判断をくだすのか。
こんな現状に関する、こぼれ話を一つ。
筆者の知人で、熱心にふるさと納税の売り上げ増加を図っている、ある町長は言う。「ふるさと納税で都市部の税収が奪われているといわれるが、一番儲けているのは東京でしょ。多額の手数料をとっている仲介サイトの本社はみんな東京にあって、そこに税金を納めているのだから」
●また制度いじり
返礼品などをめぐって、総務省は何度も手直しをしてきた。それでもなお、「制度いじり」が続く。
総務省は6月、来年10月から地場産品以外を返礼品として認める際の要件を厳格化すると発表した。よその地域の産品に、自治体のロゴを表示しただけのケースがあることなどを問題視したもの。この改定で「地域の産業」を元気づけるという制度の趣旨の徹底を促す、という。
地元産でないものを返礼品として認めるのは、「ゆるキャラ」や地元スポーツチームの関連グッズなど、実際に自治体のPRに使われた実績のある製品に限る。それも直近1年にイベントで配布、販売したことなどを要件とする。さらに、広報目的での活用の具体的な計画の策定も求める。
また、他の地域で製造され、地元で加工した製品の扱いについても厳しくする。地元で企画したが、製造は海外工場だった電化製品を返礼品にしていた自治体は対処を迫られる。
同時に総務省は返礼品の調達費用について、内訳などの詳細な公表を自治体に義務づける通知も出した。調達に100万円以上の費用がかかった場合は、品物代金のほか、ポータルサイトの利用料や送料など費目ごとに、支払先や目的といった詳細を公表するよう求める。
この件でも、こぼれ話を一つ。
長崎県雲仙市のふるさと納税では、「雲仙ハム」が人気商品だった。しかし、製造する本社工場が隣の島原市にあるため、返礼品のリストから外さざるを得なかった、という。「雲仙」という地域の名称を冠した商品名なのに、雲仙市で提供できない。
●税務申告をめぐる訴訟も
多くの返礼品を受け取った高額所得者が、税務署から確定申告の修正を求められ、民事訴訟になった例があった。一般の利用者にはほぼ無縁だと思われるが、制度を「通販」として幅広く利用する富裕層には他人事ではない。
この訴訟の原告は総所得が1億円を超えている女性。2018年までの2年間に全国の延べ約110自治体に計490件(寄付総額660万円)を申し込み、食品や酒類、ホテル宿泊券などを受け取っていた。
返礼品は「一時所得」と見なされ、特別控除額(50万円)を超えた半額が原則、課税対象になる。
しかし、原告は返礼品から生じる一時所得を確定申告に含めなかった。これに対して、税務署は返礼品の価値を「自治体が調達のために支出した金額」と定義。寄付先の自治体に問い合わせて、返礼品490点の価値を約280万円相当と算出。この分の所得税額約40万円を増やす処分を通知した。
これを不服とした原告が提訴したが、横浜地裁は税務署の定義を追認(2024年2月)。それを東京高裁も支持(同12月)。最高裁はことし5月、上告を棄却した。
ここでも、こぼれ話を一つ。
筆者の住む東京都杉並区では、ふるさと納税による税の流出が2023年度は約53億円にのぼった。これは小学校1校ぶんの改築費に相当する、という。