2026年2月気になる地方自治トピックス
「不信任議決」VS「議会解散」を、どう見るか
自治体の長(以下「首長」)が個人的な資質や適性を問われて、議会から不信任を議決されたとき、議会を解散して対抗する事例が相次いでいる。地方自治法に定められたルールとはいえ、セクハラや学歴詐称といった、どう見ても首長本人の不祥事が理由で不信任になったのであれば、首長がいったん辞めて、再選挙で自身への信を問えばいい。なぜ議会を解散する必要があるのか、という批判の声が出るのは当然だ。
この話題を連日のように提供した静岡県伊東市議会が2025年12月、首長による議会解散権を定める地方自治法の見直しを求める決議をして総務省に提出するなど、制度改正を求める声も出始めている。さて、この先はどうなるのか。
まず、地方自治法第178条を確認しておく。
議員数の3分の2以上が出席し、その4分の3以上が賛成したときは首長に対する不信任が議決される。不信任が議決された首長は、通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができる。解散しない場合、または解散後初めて招集された議会で3分の2以上の出席議員の過半数により再び不信任が議決された場合は失職する。
この制度は戦後、知事と市町村長が議員と同じように住民の選挙で選ばれるようになり、住民から直接支持される存在になったことに伴い導入された。首長と議会による二元的代表制のもと、互いにけん制しながら運営していく際に、両者の対立が激化して膠着状態に陥った場合の打開策、解決手段として位置づけられている。
制度がある以上、首長が議会を解散すること自体は非難される話ではない。だが、首長の個人的な問題で紛糾したのに議会を解散する、いわば議会がとばっちりのように解散される事態が続けば、制度のあり方への疑問、批判が高まるのは自然な流れだ。
2024年から25年に大きく報じられた具体例を挙げる。
【大阪府岸和田市】
地域政党・大阪維新の会の市長(2期目)が政治活動で知り合った女性と性的関係を続けたことを謝罪して、解決金500万円を支払い大阪地裁で和解していた。これが報道されたのを機に、24年12月、市議会は不信任決議案を賛成20、反対4で可決した。市長は議会を解散したが、25年1月の市議選を経て、2度目の不信任決議の可決で失職した。
2度目の不信任決議は1度目の不信任決議の後、失職・辞職ではなく議会解散を選んだことを「大義のない解散で莫大な市民の血税を使ったことは言語道断」と批判した。そして、市長は4月の市長選で大敗した。投票率は40.03%で、過去最低だった前回の28%台を大きく上回った。
【秋田県鹿角市】
農林水産省の出身で中部森林管理局長などを務めた市長(1期目)が24年12月に、第三者委員会による調査で職員へのパワハラ行為を認定された。これを受けて議会が25年1月に不信任を議決、市長は議会解散で応じた。しかし、3月に2度目の不信任議決により失職、4月の市長選に挑んだが敗れた。投票率は58.41%で、前回(63.13%)より低かった。
第三者委員会は、市長が職員に対して、「おまえの退職金をなくしてやる」「おまえ、〇〇(業者名)と××(前市長)から2億3,000万円取ってこいよ」「それができないなら、おまえの給料差し出せ」「全職員の給料をカットする」「国だとこういうときは地下鉄に飛び込むかビルから飛び降りる」など計12件をパワハラと認定していた。
不信任に先立って、議会は市長の政治姿勢を批判して辞職勧告決議もおこなうなど、対立が先鋭化していた。
【静岡県伊東市】
新図書館建設の中止を掲げて2025年5月に初当選した市長が、大学を除籍になっていたのに「卒業」と詐称していた疑惑が発覚。追及された市長は市議会特別委への出頭要請に応じなかったり、「卒業証書とされていた書類」の提出を拒否したりして批判された。「卒業証書らしきもの」を正副議長に「ちら見せ」したことに関して、「ちら見せではなく、19.2秒提示」などという珍答弁も繰り出し、メディアで大々的に取り上げられた。
7月に市長本人が「大学除籍」を公表。市議会は辞職勧告を決議するとともに百条委員会を設置したが、市長は百条委への出席を拒んだほか、いったん表明した辞職を撤回して続投するなど迷走した。9月の1回目の不信任議決で、市長は議会を解散。さらに10月に2度目の不信任で失職した。12月の市長選は9人が立候補する乱戦の様相を呈し、これまた「騒動」として注目を集めた。再選をめざした市長は結局、9人中3位で落選した。投票率は60.54%で前回(49.65%)を大幅に上回った。
【沖縄県南城市】
通算4期目だった市長による公用車の運転手の女性に対するセクハラ疑惑が発端。2023年末に地元紙が報じて問題が表面化したが、24年3月の議会では不信任決議案が否決された。しかし、5月には市の第三者委員会が市長の複数の職員に対するセクハラを認定。「出張先でホテルの部屋に呼ばれてキスされた」「カラオケでチークダンスを強要された」といった事例を挙げた上で、「一般企業であれば懲戒解雇になりうる」と強く非難する内容だった。それでも市長は強く否定し続け、議員も多くが同調したため、6~7月の2度目、3度目の不信任案も否決された。
ところが9月に市長が露骨にセクハラ通報の犯人捜しをしていたような発言の録音を地元紙が入手し、報道したことで疑惑が再燃。9月議会に出された4度目の不信任案が可決された。市長は議会を解散したが、11月に2度目の不信任議決で失職。12月の市長選には立候補しなかった。
●なぜ、議会を解散するのか
以上の4市の首長不信任→議会解散→議員選挙→2度目の不信任→首長選挙という流れを見て、率直に思うのは、なぜ個人的なスキャンダルで不信任を議決された首長たちが辞職ではなく、議会解散を選ぶのか。なぜ議会の判断に従いたくないと思うのか、という疑問だ。
根っこには、「議会の判断は間違いだ」「議員選挙の間に、住民に議会の誤りを理解してもらえる」という発想があるのだろう。だが、客観的な裏付けを示さない限り、それは本人の言い分でしかなく、往生際の悪い時間稼ぎ、単なる悪あがきにしか見えない。
こんな対応を取ってしまう理由の一つとして、2024年の兵庫県知事をめぐる動きがあったように思う。県議会が全会一致で不信任を議決した知事が、辞職して知事選に挑み、あっと驚く再選を果たした。議会の総意が完膚なきまでに覆された格好だった。選挙期間中のSNSによるデマの拡散や個人攻撃が大きな話題になったが、選挙結果は議会の意思が住民の意思と大きくかけ離れていたことを示しており、強い議会不信の裏返しでもあった。
こうした事態を目の当たりにした首長たちが、自分の地域でも議会不信を喚起できるのではないか、そうすれば政治的な延命も可能なのではないか、と期待して議会を解散しているように見える。まるで、兵庫県知事の場合は議会を解散しなかったという事実に目をつむるかのように。
付言しておくと、知事が不信任を議決され、議会を解散することなく知事選に打って出て再選を果たした事例は、2002年の長野県知事選の田中康夫氏に続いて2例目だった。
●メディアの伝え方への懸念
「不信任議決」VS「議会解散」という流れは一般的に市政の「停滞」「混乱」として取り上げられる。地方自治法に則って粛々と事態が進んでいるというのではなく、その対決の構図は「騒動」「ドタバタ」として報じられる。伊東市の「ちら見せ」などはメディア、とくにワイドショー的なテレビ番組には格好の「ネタ」になり、ことさら面白おかしく伝えられて広がった。
このメディアの姿勢に、どこか自治体をさげすむ視線を感じるのは、筆者だけではあるまい。地方自治法の規定は説明しつつも、「とんでもなく愚かなことをしでかしている」「問題行動をとる人物が地域のトップにいるなんて、大丈夫なのか」といった底意がにじんでいるように思えてならない。
そして、その先には「この首長を選んだのは有権者、住民自身なのだ」「こんな住民と彼らが選ぶ首長や議員には任せておけない」という地方政治に対する不信感の増幅という事態が待ち受けていることを危惧せざるを得ない。
以上のように現状を概観した上で、地方自治法上の制度としての問題点に目を向ければ、一連の「騒動」は首長と議会の施策をめぐる対立の決着を図るための制度で、もっぱら首長の個人的な不祥事が問われてしまっている現状を、どう考えるべきかに行き着く。
伊東市議会が昨年12月に決議したように、不信任の理由が首長の資質にかかわる場合には、議会の解散を認めなくすることは多くの人が想起することだろう。だが、首長の個人的な問題なのか、政策遂行をめぐる論争なのかの判別は容易ではない。往々にして、首長の資質も絡みつつ、政策の是非を問うような事例が出てくることになりがちだ。現に伊東市の事例も、議会が最初に設けた特別委員会は、市長の学歴詐称とともに市長選の大きな争点だった新図書館建設問題も議題に取り上げていた。
●地方自治法改正に突き進むのか
こうした事情を踏まえて、元総務相の片山善博・大正大特任教授は「不信任決議も議会解散の仕組みも無くしてはどうか」と唱えている(注1)。「そもそも二元代表制にこれらの仕組みはなじまない。そのことは、二元代表制の下のアメリカの大統領と連邦議会との関係、韓国の大統領と国会の関係で、これらが採用されていないことで、およそ見当がつく」
そして、やみくもに議会が解散される現状について、「こんな回りくどい過程に費やすお金と時間は、いくら民主主義のコストといっても、浪費が過ぎる」と断じている。
そのうえで片山氏は首長の議会解散権を認めないようにする法改正を提言し、「代わりに不信任の妥当性を、裁判所など第三者がチェックする仕組みを充実させるべきです」(注2)などと発言している。
地方自治総合研究所の評議員も務める金井利之・東京大学教授はかねて、不信任議決や議会解散という制度を「議論を見えにくくする有害な仕組み」と批判してきた(注3)。
その理由は「政策論議だから、双方それなりに理屈がある。結論が出なければ議論を続けるべきだ。意見が異なるから、議会を無視するとか、不信任議決や選挙で決着をつけるという発想は、対話する価値のない相手と見なすことに等しく、適正な意思決定ではない」というものだ。
金井氏は「不信任議決は、専決処分を乱用する首長に対抗する一定の効果はある」と認めつつ、首長と議会の対立は、「不信任」「議会解散」で「決着をつける」ことより、とことん議論を重ねて合意を図ることを最優先にすべきだ、と唱えている。
各新聞社の社説は「不信任の首長 議会解散の乱用許すな」(朝日新聞)などと、首長の行動を諫めるのが主流だ。「首長の不信任に至ったとき、議会解散は適切な対応なのか。行使とはどうあるべきか。制度のより良い運用を有権者も含め幅広く考えていくと同時に、首長には謙虚かつ適切な判断、そして説明を尽くす責任が求められる」(同)。
だが、なかには「不信任の再議決を受けて失職した首長は身を引くことを法律は想定しているはずだ。制度をないがしろにするような事態が続くのであれば、こうしたケースについて出馬規制も検討せざるを得ないのではないか」(毎日新聞)と、法改正に道を開くような意見も出ている。
一方では、「解散権を巡る法規制の強化を求める声も聞かれるが、二元代表制の均衡を崩しかねない。国の関与を招く前に、全国知事会や全国市長会といった首長団体が見解を示したり、第三者を交えて運用を議論したりしてはどうか」(京都新聞)という提案もある。
現段階での「不信任」VS「議会解散」に対する見解は大きく分ければ、法改正が不要か、必要かの二つだろう。
【法改正など要らない】
首長と議会が選挙を通じて対決する構図自体は二元的代表制が機能している証しだ。「地方自治は民主主義の最良の学校である」という言葉を持ち出すまでもなく、首長の悪あがきにしか見えない議会選挙を莫大な経費をかけて実施することも、住民にとっては自治を考え、参画するという意味がある。不信任議決後の首長選挙は多くの場合、有権者の関心が高まり、投票率が上がっているのを見ても、決して無駄とは言い切れない。
【もう法改正すべきだ】
地方自治法は一定の常識ある人が制度を運用することを暗黙の前提にしている。だが残念ながら、首長の身勝手な解散権の行使が相次ぐ現状は、その前提をないがしろにしており目に余る。膨大な時間を空費させ、巨額の税金を無駄に遣う暴挙であることは明らかだ。たとえば、昨年の伊東市議選には6,300万円が費やされた。これ以上は看過できない。もはや法改正をすべき段階にきている。
さて、読者のみなさんの見解は、どちらだろうか。
最後に筆者の考えを述べれば、現時点で法改正に突き進むことには反対である。その理由は、自治の現場で解決すべき課題に対して、法改正を唱える姿勢は結局、自治体は国に比べて愚かで、国が指導、差配しなければうまく運営できないのだ、といった風潮を広げることになりかねない。それは「お上頼み」の体質をさらに根付かせ、増幅させてしまうことになると考えるからだ。
とりわけ、2024年の地方自治法改正で新たに国の指示権が創設され、個別の法的根拠もなく国が自治体を指示できるようになり、国と自治体の関係が「対等・協力」から「上下・主従」に逆戻りしつつある状況下で、自治体の側から「法改正」という国による解決を求めるようなことは避けた方がいい。
不信任決議を可決され、議会を解散した首長が再び不信任議決を受けて首長選になる展開が、たとえ無駄なことに見えても、当事者の住民が徹底的に議論し、考えて事態を打開するための道程だと割りきり、各地の事例を他山の石として、みずからの地域の自治のあり方の参考にしてゆくべきだと考える。
以下に、参考資料として、2009年から2022年に、不信任議決を受けた首長が議会を解散した事例を列挙する。
【不信任議決を受けた議会解散事例】
< >内は不信任の主な理由★印は最終的に首長が交代した事例
◎は議会解散を経ても首長が続投した事例
(総務省のホームページなどをもとに筆者作成)
【2009年】
★千葉県本埜村(現印西市) <公約の合併を破った>
★愛知県西尾市 <市長が受託収賄罪で起訴>
★三重県尾鷲市 <市長が税理士法違反>
★宮崎県えびの市 <市長が競売入札妨害で逮捕>
◎鹿児島県阿久根市 <市政混乱> 市長が市長選で勝利
【2010年】
★埼玉県草加市 <市長の政治姿勢>
【2011年】★青森県藤崎町 <町政混乱>
【2012年】★福島県双葉町 <町長が議会や町民への説明責任を果たしていない>
【2013年】★兵庫県上郡町 <町長と幹部職員との信頼関係喪失>
◎愛媛県西条市 <議会への説明責任を果たしていない> 議会改選後、不信任決議案の採決に必要な出席数を満たさず審議未了
【2015年】
★宮城県大衡村 <ハラスメント提訴への説明不足>
【2017年】
★福岡県太宰府市 <市政の健全化と安定を図るため>
【2018年】
★群馬県みなかみ町 <セクハラ疑惑>
【2019年】
◎静岡県松崎町 <町長の議会軽視> 選挙後、再度の不信任議決されず
【2020年】
★奈良県宇陀市 <議会等との信頼関係が崩壊>
【2022年】
★東京都あきる野市 <議会軽視及び市政混乱>
★富山県舟橋村 <村政の混乱>
【注】
(注1)『世界』 2025年12月号(注2)毎日新聞 2025年11月10日
(注3)東京新聞 2022年10月31日
【参考資料】
・朝日新聞社説「不信任の首長 議会解散の乱用許すな」2025年9月11日
・毎日新聞社説「伊東市長の失職 混乱いつまで続けるのか」2025年11月6日
・読売新聞社説「伊東市議会解散 田久保市長の判断は筋違いだ」2025年9月11日
・京都新聞社説「首長の不祥事 議会解散の乱発を憂う」2025年11月5日
・朝日新聞「自分の不祥事なのに議会を解散 田久保市長の選択から考える地方自治」2025年10月20日
(岸和田市関連)・朝日新聞 2025年2月17日、3月27日
・読売新聞 2025年4月7日
(鹿角市関連)・朝日新聞 2025年3月21日
・秋田魁 2025年3月10日、4月27日
(伊東市関連)・朝日新聞 2025年6月27日、7月30日、8月13日、9月10日、12月15日
(南城市関連)・朝日新聞 2025年11月17日
・琉球新報社説「南城市長セクハラ隠蔽 市長は即刻辞職すべきだ」2025年9月24日
(その他)・伊豆新聞 2019年4月22日
・日本経済新聞 2010年12月14日