地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』2026年7月コラム

アッパレな「敵」になろう
行政文書管理と開示請求

新規制定または一部改正された法律が、行政法学研究の対象にされることがある。どのような立法事実を踏まえての立法なのか、それにどのような法制度的対応をしたのか、その特徴は何か、残された課題は何かなどが、研究にあたっての論点となる。

それをするのが、立法過程研究である。確たる方法論があるわけではないが、公布された法律のテキストだけではなく、可決成立までの動きを関係資料を踏まえつつ把握して検討するのである。

その「関係資料」について、考えてみたい。誰でも利用できるのは、国立国会図書館のウェブサイトからアクセスできる国会会議録である。本会議や委員会での質問答弁は、まさに立法者意思が把握できる貴重な資料である。

衆議院や参議院の関係者にコネがあれば、法案が審議される国会委員会の委員会調査室が委員である議員用に作成する「参考資料」を入手できるだろう。そこには、法律案の概要のほか、それに関係する府省の審議会の答申や意見具申、行政や民間の報告書などが収録されている。作成者の裁量が大きいようで、法案審議にあたっての「主な論点」が整理されている場合もある。これらの参照によって、可決成立時から時計の針を逆に回して、そこに至る経緯を再構成できる。

しかし、それだけでは「浅い」。これらは、積極的に提供される情報であるが、それゆえに、行政にとって都合が悪い情報は出されていない可能性があるからである。「ウソ」ではないとしても、「本当」でもない。

私が最近活用するのは、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(情報公開法)にもとづく行政文書の開示請求である。その前提には、意思決定過程の検証に資するために文書作成を義務づける「公文書等の管理に関する法律」(公文書管理法)にもとづく行政文書の作成・管理がある。「法令の制定又は改廃及びその経緯」についての文書も含まれる。

開示請求の際には、文書の特定をしなければならない。これにあたっては、各府省の「行政文書管理規則」が参考になる。そこに、行政文書の「メニュー」が列挙されているので、「一番詳しいもの」などとしてさらに特定度を増せばよい。通常、私が請求するのは、「法制局提出資料」「審査録」「答弁書」「想定問答」である。

情報公開法11条にもとづく「泣き」が入って待たされることもあるが、多少の黒マスク入りであっても、資料は入手できる(もっとも、すべてを入手できたかは不明)。そこには、「積極的公開資料」にはないさまざまな事実が掲載されている。たとえば、府省は踏み込んでやりたかったけれども内閣法制局の指摘を受けて断念したことがわかる。提出法案が「ベスト」であるため、答弁にあたる政府参考人は、本当にやりたかったことは別にあるなどとはいえない。国会会議録だけを踏まえているならば、そうした事情は知る由もない。

国会審議にあたって想定問答が作成されているというのは、行政法研究者ですら知っている常識である。しかし、現物を入手して研究の資料としている者は少ないのではないか。それを踏まえて、『逐条解説○○法』『○○法の解説』といった書名の書物が中央政府職員によって書かれるが、想定問答のすべてを収録しているわけではない。「更問」「更々問」として、「多重防護」をしている論点もあるが、私の知るかぎり、そうしたものは書物には掲載されない。

これらは、御用系の研究者であれば、その求めに応じて入手できるかもしれない。しかし、「信頼関係」による提供であり、堂々とは使えない。そこで、正面突破でこれらを入手して批判的に解析する。立法過程研究の厚みは、格段に増す。

ところで、開示請求に対応する作業は、相当に大変なようである。必ずしもキチンと整理・保管されていない行政文書の箱から対象文書を探し出す作業の担当は若手職員であるが、「やりたくない仕事」という話もきく。また、行政を褒めようとして請求するのではないため、対応する側からは、「開示請求をするヤツは「省の敵」」という認識も示される。実際、それ以前にはそれなりの連絡をしあっていた省のある室が、開示請求をした途端に何も言ってこなくなったことがあった。私は、「向こう側の人」になったのだろう。そうであるからこそ、入手した資料を踏まえて斬れ味のよい研究をしなければと気合いが入る。

きたむら よしのぶ 地方自治総合研究所所長・上智大学教授)