地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2022年11月コラム

変容迫られる自治体 互助という自律的仕組みを創る公務員

 2000年からの地方分権一括法施行と、同じ年に発足した介護保険制度を軸とした社会保障制度の改変が始まり20年が過ぎた。いま地方自治体は、また新たな変革を強く求められる時代に入った。それはまず人口減少社会への対応であり、少子高齢化への短期的、長期的対応である。そして、それへの対応策の一つとして2017年の総務省「自治体戦略2040構想研究会報告」で具体化してきた「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進」の議論がある。
 このような時代にあって、これからの行政に求められるのは、膨大な情報の収集とその加工、整理を少ない職員でこなし、政策化し、新しい制度に転換する能力なのだろうと思われる。デジタル化を推進する力はその能力の一部なのではないだろうか。
 そのためのヒントは、自治体現場にあるのではないか。奈良県生駒市の介護保険課の現場から、現在は厚生労働省老健局の地域づくり推進室室長補佐になって、全国を跳び回っている田中明美さんや、2022年3月まで滋賀県野洲市の市民部次長だった生水裕美さんなどを見ると、そこに共通した方向を見ることができる。それは、地域を行政の職員と市民との協働社会へ作り替えることであり、縦割り行政を職員間の互助組織に組み立てなおし、外部の専門職との協働社会へと作り替えていくことであるようだ。
 ここでは、生水さんのインタビューを見ていこう。以下は、株式会社ホルグが主催し、この公務員はすごいという人を他薦で表彰する「地方公務員アワード」の紹介記事、『座談会 受賞によって気づけたこと』からの引証を含む。
 生水さんは、1999年に合併前の野洲町に新設された「消費生活相談員」として採用された(週3日、2001年に5日体制。非常勤嘱託職員)。2004年に合併して野洲市に。2008年に正規職員。このころからヤミ金融の被害が急増するなかで、さまざまな取り組みを進める。「私が市役所に入ったときは、消費生活相談員は私だけでした。一人だけでは力不足で、壁にぶち当たりまくっていたんです。でも、相談者はなんとか助けたい。そうなると色んな方の力を借りざるをえない。巻き込まざるを得ない感じでしたね。
 後に、私自身もあちこちから様々なお願いをされるようになりましたが、何があっても断りませんでした。お願いを断らずに受けていくことで、こちらからもお願いできる。その持ちつ持たれつの関係がどんどん増えていくと、色んな方がつながっていくんです。」
 このような「つながり」の中で、相談者の複合的問題を解決するネットワークが形成され、「野洲市多重債務者包括的支援プロジェクト」が2009年から始まっていく。
 「本当に相談が必要な人は、自ら相談に来られることが難しいのです。それは相談窓口の情報が届かなかったり、しんどい時ほど相談しようという気力がなくなるからです。例えば、市民が市に支払うものとして市民税や固定資産税、国民健康保険税、介護保険料、保育料、水道料、学校給食費、市営住宅の家賃などがあります。各課の納付相談の時、滞納している市民に対して『なぜ払えないんですか?』と声をかけてもらう。当時、『借金がありますか?と市民さんに聞くのは、プライバシーの侵害とクレームがでないか?』と他の自治体職員からよく聞かれましたが、私はこれで相談者からクレームを受けたことはありません。
 そこで、もし借金があれば市民生活相談課を紹介しつないでもらい、当課の相談員がよく事情を聴いて必要に応じて弁護士や司法書士につないで、借金、多重債務の解決をしていく。また借金の問題だけでなく、生活再建のために必要な行政サービス、例えば生活保護につなげるケースもありますし、心のケアが必要な人であれば健康推進課や精神科医にもつないでいきます。そして、相談者がかかる問題が解決したら市民さんは税金を払える状態になります。」
 ここに見る世界は、互助の支え合い、である。それは自助、共助、公助というお金の仕組みとことなる無償の、ボランタリーなお互い様の世界なのだ。このような自治体の仕組みを自律的に創り、再生することを担う公務員像がここにある。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)