7年ほど前に上林陽治さんと正木浩司さんが、自治総研ブックレット18としてまとめられた『第29回 自治総研セミナーの記録』は、主テーマが『自立と依存』だった。その編集後記で正木さんは、2000年代の初めごろに「貧困」と「自立」、そして「貧困者への自立支援」についてそれぞれ再定義があったと指摘している。
第一に、「貧困」は、生活資金が不足して経済的に苦しい状態という安直なとらえ方を脱して、その状態が形成されるプロセスに目が向けられるようになった。それは家族との断絶、社会的な孤立、教育や公的な支援からの排除など、一人一人が向き合う苦しみのかたちは多様だからだ。生活資金の不足はその一つだ。
第二に、「自立」は、他人の支えなしに独立独歩で生きることではなく、他者や公の支援を受けてもその選択が本人の「希望による自己決定」によるなら、それで自立しているのだという、発想の転換である。支援を受けながらの自立もある。この「依存的自立」は、障害者自立運動の中で成立した。
第三に、この流れを受けて、「貧困者への自立支援」も生活費や事業費に充てる資金の援助や貸し付け、就労支援からもっと広範な支援施策を用意していくことが求められている。
この流れを明瞭にしたのが2004年12月の「社会保障審議会福祉部会生活保護の在り方に関する専門委員会報告書」である。この報告書の「制度見直しの基本的視点」で、『ここで言う「自立支援」とは、就労による経済的自立のための支援(就労自立支援)のみならず、それぞれの被保護者の能力やその抱える問題に応じ、身体や精神の健康を回復・維持し、自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活を送るための支援(日常生活自立支援)や、社会的なつながりを回復・維持するなど社会生活における自立の支援(社会生活自立支援)をも含むものである。』と示されている。
そしてこれは、2006年度以降に本格実施されている釧路市の「自立生活支援プログラム」における「釧路の三角形」、すなわち、「日常生活自立支援」、「社会生活自立支援」、「一般就労」として具体化されているのである。この「三角形」は、いわゆる一般就労までステップアップする形を示している。これについて、櫛部武俊さんは次のように解説している。
「自立支援プログラムは、全体として多様な解釈が可能です。三角形図が示す通り、一般就労に向かうステップアップの構造を否定していません。しかし、そうは言いながら、三角形の内側にある中間的就労の持つ様々な機能と、図の右端に位置付けられている「半就労半福祉」を大事にしようと考えています。」(『自立と依存』28頁)
生活保護受給者の担う中間的就労としては、無償のボランティア体験からインターンシップ、稼働収入のある就業体験などがあり、民間の事業者に委託している。
このような生活保護政策の見直しが各地で取り組まれる中で、生活保護の受給者を取り巻く自立支援のプログラムも多様に生まれていく。それが2013年の「生活困窮者自立支援法」にまとめられる。これについて菊池まゆみさんは次のように述べる。
「私は地域福祉の人間として、生活困窮者自立支援制度に大きな期待を抱いていました。というのも、この制度は予防的な支援を進める根拠になりうると思えたからです。しかし、その青写真が示されたところで、全国の自治体から、生活困窮者の定義の部分で、年収がいくら未満なのか、はっきりさせてほしいと、問い合わせが相次いだそうです。そういうこともあって、国が生活困窮者の対象を狭めていくなかで、私どもはあえてこの対象を広げようと生活困難者の社会復帰訓練事業に2013年度から取り組んでいます。」(『自立と依存』120頁)
ここに、生活自立支援のために、中間的就労の現場を作っている立場から、自治体を変え地域の主体を育て、さらに国の制度自体をつくっていくダイナミズムを感じることができるだろう。
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