地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2022年4月のコラム

「等」に想う 2021年改正個人情報保護法と自治体

 「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」51条により、個人情報保護法(個情法)が改正され、そこに自治体の機関に関する規律が新設された。従来、各自治体が個人情報保護条例にもとづき自律的に実施していた事務である。
 条例で規定されていた内容の相当部分は、個情法に吸い上げられた。その後の条例のあり方については、個人情報保護委員会事務局+総務省自治行政局行政課「個人情報保護法施行に係る関係条例の条文イメージ[令和3年6月時点暫定版]」(2021年6月29日)が、その独自解釈にもとづく全13か条の案を示している。
 憲法92条を具体化した地方自治法1条の2および2条11項・13項を踏まえて制定されたはずの個情法を受けて、自治体がどのような条例対応をするのが適切かは、自治体政策法務にとっても大きな課題である。対等協力関係を踏まえた国と自治体の適切な役割分担の実現という憲法の命令をいかに実現するかについては、分権改革20年を経過した現在でも、模索が続いているといってよい。個情法も、そのひとつの試みである。
 論ずべき点は多いが、ここでは、ある定義に寄せて考えてみよう。個情法2条11項が規定する「行政機関等」である。「行政機関+等」という構成になっている。同項1号の「行政機関」については、同条8項1~6号が、各省など中央政府の機関を列挙する。そこで、残りの2~4号が「等」となる。そして、「等」のひとつが、2条11項2号が規定する「地方公共団体の機関(議会を除く。……)」である。
 国と自治体の対等関係原則に鑑みれば、「中央行政機関」と「地方行政機関」という概念を作ればよいだけであり、自治体を「等」に押し込める必要などどこにもないはずである。なぜこうなったのだろうか。
 それは、個情法が国と自治体の両方に適用される共通ルールを創設したとされるからのようである。このルールの創設は、「全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務」として地方自治法1条の2第2項が規定する「国の役割」に属すると整理されている。
 たしかに、個情法には、「国の役割」に属する部分はある。しかし、そうであることが過大・過剰に把握され、本来は自治体の役割であり自治的決定ができる領域にまでそれが浸食している規定内容はないだろうか。憲法92条を踏まえれば、その部分については、独自対応を許容するような明文規定がなくても、自治体は、個情法の規定内容を修正する条例対応が可能である。かりに明文規定があるとすれば、その合憲性が問題になる。「分権的個人情報保護法制」に対する敬意を失し、自治体を「等」に押し込める規定ぶりには、そうした自治的解釈を封ずるような意図さえ感じる。
 さて、「等」の対応である。個情法の規定ぶりからすれば、「一寸の虫にも五分の魂」である。どのような方針で臨むべきだろうか。
 個情法の目的は、「個人の権利利益を保護すること」(1条)である。ここでいう「個人」とは、それぞれの自治体にとっては「住民」となる。同法にもとづく事務は法定自治事務であるから、自治体は、その自治的解釈により同法の規定で必要かつ十分に住民の権利利益保護が図れるかを評価し、十分でないと判断するかぎりにおいて、条例による修正・追加措置を適法になしうる。一方、国の役割として規定されている部分は、条例の事項的対象外である。もっとも、そうであっても、住民の権利利益保護の観点からきわめて問題と判断すれば、当該部分への条例対応も可能と解したい。
 個人情報保護委員会「公的部門(国の行政機関等・地方公共団体等)における個人情報保護の規律の考え方(令和3年個人情報保護法改正関係)」(令和3年6月)は、「許容されない」という表現で条例制定をけん制する。それを参考にしつつも、自治体が向くべきは「住民の権利利益の保護」である。

 

きたむら よしのぶ 上智大学大学院法学研究科長)