2020年7月17日に厚生労働省が公表した「2019年国民生活基礎調査」の結果から、2018年の子どもの貧困率は13.5%になったことが明らかになった。この子どもの貧困率13.5%は、2016年の前回調査の13.9%より0.4%ポイント改善しているが、それでも約7人に1人の子どもが貧困状態にあることになる。
この子どもの貧困とは、相対的貧困を言うが、これは、OECD基準による貧困の定義である。相対的貧困率とは、等価可処分所得(家計の可処分所得を世帯員数の平方根で除したもの)を下位から並べたときの真ん中の数値(中央値)を基準に、その半分のラインを貧困線とし、それ以下の世帯の比率を指している。2018年の中央値は253万円、貧困線は127万円、相対的貧困率は15.4%、子どもの貧困率は13.5%となっている。
「OECD経済審査報告書(2017)」には、国別の相対的貧困率が掲載されている。日本の貧困率は、OECD加盟36か国中では、30番目で、それだけ貧困率が高く、格差が大きい国のひとつである。格差は、貧富の格差、地域格差、正規・非正規間の格差、男女間格差、高齢者間、そして若者の貧困、母子家庭の貧困、など社会のあらゆる局面に広がっている。
もう一つ大きいのは、「労働分配率の低下」である。労働分配率とは、国民所得統計で見た要素価格表示の国民所得に占める雇用者報酬の比率が一般的には用いられ、内閣府が公表している。日本の2017年の労働分配率は、国民所得統計で68%程度だ。この数値は、2008年には73%程度だったので、10年で5%ほど低下してきている。この労働分配率の低下は、OECDの統計などに見るように1980年代前半をピークに、世界的に進んでいる。
その要因としては、(1)イノベーション、情報通信(IT)や生産工程のイノベーションによって工場労働者や事務職の定型的な業務がロボットやIT機器に置き換わってきていること。(2)グローバリゼーション、新興国の発展を土台に、先進国での労働コストカットのための進出が進み、生産拠点の移転や安価な中間製品や製品の輸入によって産業基盤の縮小や労働賃金の低下がもたらされた。(3)資本市場の圧力の拡大、株主利益の極大化を求める資本市場の圧力の増大から、企業経営者の報酬拡大と、株式売買と利益の拡大志向を高めている。それを受けて、労働コスト削減に企業が走り、労働分配率の低下に拍車をかけた。
日本の場合、これに加えて、非正規労働者の増加と正規労働者の非正規労働者への置き換えが、90年代に進んだ。93年のバブル崩壊から、有効求人倍率が0.9を割る状態で、企業は正規雇用を絞り、社会保険の負担を避け、時給でのアルバイトや派遣社員、嘱託、いわゆるフリーターを採用するようになる。これは2005年ごろまで続き、この時期の学卒者は就職氷河期世代と呼ばれる。その後も、労働コスト削減のために、高齢者の定年延長や継続雇用などもあり、2020年の非正規雇用率は38.3%(労働力調査)で、2,165万人と最も高くなっている。前年から45万人増。正規雇用者数は3,494万人だった。
この間、いろいろ手は打たれてきた。子ども対策としては、民主党政権時代の2012年に子ども手当の中学生以下への拡充と、1万5千円または1万円の水準確保などもあった。これは2015年には子ども・子育て支援法に基づく現金給付としての児童手当となった。また、民間の取り組みとしては、2012年から始まった子ども食堂が、急速に広がり、コロナ禍の下で活動を休止するなど困難を超えて、4,960か所まで増えている(むすびえ調査)。加えて幼児教育・保育の無償化は2019年10月から実施されている。
非正規雇用の待遇改善としては、2018年6月に成立した「働き方改革関連法」があり、2019年4月1日から適用開始となっている。特に、同一労働同一賃金の適用は2020年4月に大企業に、2021年4月に中小企業にも適用されている。地方公務員では、会計年度任用職員制度が2020年4月に導入されている。
これらの政策や取り組み等が、相対的貧困率などにどう反映するか、検討をして行きたい。コロナ禍のもと、ワーキング・プアからワークレス・プアへの転落者が増えている事情も視野に入れながら。
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