地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2021年2月のコラム

『原発事故 ― 自治体からの証言』刊行

 2月にちくま新書から『原発事故 ― 自治体からの証言』を公刊した。クレジットは「今井照/自治総研編著」となっていて、そもそも自治総研の研究員である私と自治総研との共編著では論理的におかしいと指摘されそうだが、そこには「大人の事情」もあるので見逃してほしい。
 自治総研という名義で本を出すのはいつ以来かと調べたら、2010年に『逐条研究地方自治法別巻』を出しているので、約10年ぶりになる。2016年に出た『戦後自治の政策・制度事典』では自治総研が「監修」名義になっているが、実際には共編著者である神原勝さんや辻道雅宣さんの力が大きかったに違いない。
 今回の本は自治総研に置かれた原発災害研究会の成果物の一つとして公刊される。ただしそうなると正確には、「公益財団法人地方自治総合研究所福島原発災害研究会編」という表記になるのだが、これでは新書形式の本としてはうっとうしい。
 今回の表紙を子細に観察するとわかるのだが、ちくま新書の本には必ずある著者の英語表記が自治総研については省かれている。自治総研の英語表記が長すぎて、そのスペースを生み出せなかったのだ。そもそもちくま新書では本のタイトルにもデザイン上の制約がある。表紙ではタイトル部分の縦1行に7文字しか入らない。「自治体からの証言」という2行目が8文字になってしまうので本当ならアウトだった。これを写植並みに詰めるという荒業を駆使して、ようやくこのタイトルで日の目を見たのである。言われてみなければわからない苦労話があるものだ。
 肝心の本の中身であるが、原災研で取り組んできた二人の自治体職員(副町長経験者)への継続的なインタビューをまとめたものと、原発被災地自治体職員調査の結果を中心に構成されている。そのほかに、インタビューで話されていることを理解するために必要な最低限の情報を付け加えた。原発被災地自治体職員調査については、自治労福島県本部とともに行ったもので、労働組合の調査でしか出てこないような言葉を取り上げることができて、メディアでも大きく取り上げられている。この本は、自治体関係者にとって、原発事故のもうひとつの側面を知りうる貴重な記録になると自負している。
 原災研は今年の9月で終了する。当初の目論見が果たせたとは言えない状況なので消化不良の感は否めず、自分たちの非力さを責めるしかない。ただし、研究会の最後として、もう一つ、この10年間、10次にわたって朝日新聞社と進めてきた原発災害避難者の共同調査のまとめも3月初めに公刊する予定だ。この調査は朝日新聞社と福島大学との共同調査として始まり、自治総研に私が移った後は実質的に原災研で調査の設計協力や分析を担ってきた。現在、最後の詰めが進行中である。本誌が出るころには予約が可能になっているはずだ。
 本のタイトルは『原発避難者「心の軌跡」― 実態調査10年の〈全〉記録』(公人の友社)となる予定である(変更があるかもしれない)。少部数で価格も高くなるかもしれないが、私的にも自分の10年間の思い入れをぶつけたものなので、何とかみなさんに読んでもらいたいと思う。

 

いまい あきら 公益財団法人地方自治総合研究所主任研究員)