地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2020年5月のコラム

地域福祉計画の現在

 今年の3月30日、奈良県中部のある市の会議室で、「令和元年度第2回地域福祉計画・地域福祉行動計画策定委員会」が開催された。部屋のドアは開けはなされて常時換気がされ、入り口にはアルコール消毒のスプレーが置かれた。
 本市は、2004(平成16)年に2町が合併して成立した団体で、初めて地域福祉計画を策定する。地域福祉計画は、2000年の社会福祉法改正(社会福祉事業法の改正)の時に規定された計画で、策定は任意とされていた。それが、2018年の社会福祉法の一部改正で、任意であったものが努力義務とされた。また、高齢者、障害者、児童福祉の3分野の共通的事項を記載する「上位計画」として位置付けられた。
 A市の場合、この社会福祉法一部改正が契機となって、今回初めて地域福祉計画の策定にとりかかったのではないかと思われる。全体として、奈良県の市町村は地域福祉計画を作ってこなかった。
 2018年4月1日時点の厚労省の状況調査では、全国814市のうち、地域福祉計画を策定済みが740団体(90.9%)である。町村では、927団体のうち策定済みが576団体(62.1%)。奈良県の場合は、策定済みが12市のうち7市(58.3%)、27町村のうち10町村(37.0%)であった。
 地域福祉計画の難しさは、この計画が、市民(住民)が中心となって進める福祉活動を如何に立ち上げ、その担い手を作っていくか、そのことへの支援のあり方(福祉行政と社会福祉協議会による)を展望するところにある。具体的な数字を伴うサービス量を目標値とすることが難しく、作文で終わることが多い。
 現在は、地域福祉計画は、社会福祉協議会の地域福祉活動計画と同じ策定委員会で協働で策定されるようになってきている。多くの地域では、地域福祉の具体的な担い手は社会福祉協議会である。社会福祉協議会は社会福祉法人であるが、そこが各市町村の委託を受けて行っている。具体的には、デイサービスや地域リハビリ活動、そして地域住民組織(自治連合会、民生・児童委員、事業者や企業など)と協働しての居場所づくりや、助け合い、見守り活動、個別支援活動などである。介護保険事業を受けている場合も多い。
 大阪府堺市の「第3次地域福祉計画・第5次地域福祉推進総合計画(平成26年)」では、「市が重点的に取り組むこと」として6項目を掲げる。1、生活困窮者の自立を総合的に支援する仕組みを構築。2、気軽に相談でき、適切な支援につなげるしくみをつくる。3、地域福祉の担い手を体系的につくる。4、地域の力を活かしたサービスや活動をつくる。5、つながりづくりの支援を充実。6、分野を超えてつながる地域福祉のネットワークを充実する。
 これに対応して「市社協が重点的に取り組むこと」として7項目を掲げる。1、困りごとに対する地域に根差した相談支援を行う。地域包括ケアを推進し、権利擁護の機能を高める。分野を横断したネットワークづくりを進める。2、「地域のつながりハート事業」を推進し、地域の支えあう力を強化する。地域課題を解決できる活動をすすめるよう人材養成と新たな活動づくりをすすめる。3、地域福祉を学ぶ「地域福祉研修センター」の機能を検討する。キャップハンディ等の福祉教育を強化する。校区ごとの住民福祉講座開催を支援する。4、権利擁護や日常生活支援の担い手を要請する。権利擁護の関係機関との構築に取り組む。5、平常時から災害時までの多様なボランティア活動を支援し、効果的な協働を進める。6、多様な地域福祉ニーズに対応するサービスの開発、事業化を進める。7、社協の組織と専門性を強化する。
 このように、市区町村福祉行政と市区町村社協との協働の具体的な方向が明らかになりつつあるのが現状と言える。次はコミュニティ・ソーシャルワーカーと生活支援コーディネーターの専門性と活動家層の蓄積に注目したい。そしてより長い目で見た地域住民組織の自立性の確立という課題がより明確になっていると言える。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)