地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2019年1月のコラム

ふるさと納税異聞

 2019年度の「税制改正の大綱」にふるさと納税への規制が盛り込まれた。ふるさと納税の返礼品競争が過熱していることについて、これまでも総務省は苛立ちを隠さず、何度か通知を出してきた。本来、この苛立ちは制度設計に対して向けられるべきはずだが、そうではなくて、「国の言うことを聞かない」自治体に対し法で規制をするという方向になった。果たして「寄附」に対する法規制ができるものなのかと首を傾げていたが、どうやらふるさと納税制度を適用する自治体を総務大臣が指定することになるらしい。
 「税制改正の大綱」によれば、まず総務大臣はふるさと納税(特例控除)の対象となる自治体についての「基準」を定める。その基準には「寄附金の募集を適正に実施する」ことと、返礼品を送付する場合には「返礼品の返礼割合を3割以下とすること」「返礼品を地場産品とすること」が求められている。おそらくこれらのことを法改正と政省令の制定でやり遂げるのであろう。
 ここまでだけでも、「適正」とは何か、「3割以下」とは何か、「地場産品」とは何か、という課題がある。現在でも「調査結果」の公表という形式で個別自治体への実質的規制が強められているが、どのように見てもグレーゾーンが発生する。しかも総務省は1,800弱の自治体を「監視」して、「基準に適合しなくなった」ときは「指定を取り消す」こともしなくてはならない。他人事ながら、たいへんな仕事だなと思う。いずれにしても新たなコストが発生する。こういうところに注ぐ労力や資力をもう少し社会的に有用な仕事に使えないかと思う。
 なによりも、総務大臣が自治体を「指定」することが気になる。大臣による「指定」なのでおそらく告示で行われるのであろう。この場合、たとえば「適正」の解釈一つをとっても恣意的な要素が含まれるが、大臣に裁量の余地を大きく残した上で自治体を選別する「指定」は自治に反しないか。
 ふるさと納税そのものに対する評判が悪いのは承知している。研究者の間で擁護する人たちはほとんどいない。唯一、本誌の2017年8月号のこの欄で菅原敏夫さんが肯定的な見解を披歴しているだけではないか。カミングアウトすると、実は私もけっこう気に入っているのである。
 斎藤誠さん(東京大学)がその著書『現代地方自治の法的基層』(有斐閣、2012年)で書かれている「地方選挙権のクーポン制という発想(つながりのあるところへの任意の選択投票を認める ― 勤務地で一票、居住地で四票……)」と同じ発想で、住所地だけに納税(≒寄附)しなくてはならないということはないと思う。現代社会において「住民」という存在は多義的にならざるを得ないからである(多重市民権の保障)。
 確かに自治体行政にとっては問題点がないわけではないが、かなりの程度は地方交付税制度の中で調整される。いや、むしろ交付税で「寄附」の穴埋めをする形になる調整方法こそが唯一最大の問題である。これがなければ政治献金や共同募金と同じような寄附税制となる。政治献金に対し、租税回避や富裕層優遇といった批判はほとんど聞いたことがない。
 逆に国が用意した制度設計の隙間を突いたという意味では、自治体側が国の思惑を乗り越えたと評価することもできるのではないか。かつては自治体の抵抗権として、国法の隙間を突く事例が少なからずあった。「指定」などという無粋な対応ではなく、ふるさと納税が突破した「芽」をもう少し大事に育てたらどうか。

 

いまい あきら 公益財団法人地方自治総合研究所主任研究員)