地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2018年12月のコラム

広域連携と奈良モデル

 第32次地方制度調査会は、総務省の「自治体戦略2040構想研究会」の第二次報告をもとに、小委員会を設置して2年後の答申に向けて議論を始めている。中心は、圏域単位での行政的枠組みの法制度化である。これが、小規模町村の現在の努力を無視した「上から目線」として市長会や町村長会の反発を招いている。そういう中で、県と市町村との垂直的、水平的連携の先進事例として、報告書でも取り上げられている「奈良モデル」が注目されている。先日、奈良自治研センターの記念講演をお願いした奈良県の地域振興部からの資料等などから見ていくことにしたい。
 もともと、奈良県は平成の合併でほとんど合併が進まなかった。奈良市、宇陀市、葛城市、五條市の4か所だけで合併が成立し、47市町村が39市町村になった。うち人口1万人未満の町村は18団体ある。
 このことに危機感を持った奈良県が主導権をもって、市町村との広域連携を奈良県独自に進めようということになり、2008年に「県・市町村の役割分担のあり方検討協議会」を設置。2010年に「『奈良モデル』検討報告書~県と市町村の役割分担のあり方」を公表している。2009年には、知事と市町村長との「奈良県・市町村長サミット」を始め、年に5回ほどの会議を持つようになった。首長のこのサミットは、問題意識の共有や、お互いの交流を深めるといった点から、非常に大きな効果があった。
 「奈良モデル検討報告書」では、奈良モデルを、「市町村合併に代わる奈良県という地域にふさわしい行政の仕組み」であるとともに、人口減少・少子高齢化社会を見据えて、「地域の活力の維持・向上や維持可能で効率的な行財政運営を目指す、市町村同士または奈良県と市町村の連携・協働の仕組み」だとしている。
 その際の県の役割は、まず、「県と市町村それぞれは、対等な立場に立つ公共団体であり、県の最も重要な役割は、市町村を下支えすることである」としている。
 いくつか興味ぶかい事例も出ている。例えば「南和広域医療組合」である。南和圏域12市町村には、公立3病院(県立五條病院、国保吉野病院、町立大淀病院)があった。いずれも救急医療を提供していたが、患者数の減少に伴い医師も看護師も減少して医療機能が低下。それに伴い、さらに患者数も救急患者も減少し、圏域外に流出するという悪循環に陥っていた。そこで、県と市町村が検討を重ね、3つの公立病院を一つの広域医療拠点として再編整備し、救急医療の強化、へき地医療サービスの充実を目指すこととなった。2010年には知事を会長、南和医療圏の各市町村長を委員として「南和の医療等に関する協議会」を立ち上げ、2012年に「南和広域医療組合(一部事務組合)」を発足。2016年には、大淀病院を改築して「奈良総合医療センター」を開院して救急医療を統合した。また同年には療養病床機能を強化した吉野病院がリニューアル開院。五條病院は2017年に再編開院した。その成果として、
1、救急搬送受け入れ人数が1日5.7件から11.8件に倍増。
2、病床利用率は、65.0%から94.8%に拡大。
3、屋上ヘリポートの設置で救急ヘリの搬送が始まる。
4、医療センターが中心となり、公立へき地診療所支援体制を整備。
5、専門医を充実し、25診療科に拡大し、チーム医療を実施。
6、医師配置は、常勤医を43人から60人に拡充することができた。
などがあげられている。
 そのほか、清掃工場の再編、統合で25施設を14施設に統合する事業や、水道事業の県営水道ヘの統合と簡易水道の経営支援、市町村の道路インフラの長寿命化支援、消防の広域組合への統合、なども興味ぶかい。ただし、いずれも利用者や住民にとっては、意思決定過程が遠くなるというデメリットはついて回る。この辺の手当はあまり十分とは言えないので、検討課題となるであろう。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)