地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2018年9月のコラム

転換期の決算議会


菅原 敏夫

 この稿を自治体の9月議会が始まる直前に書いている。18年9月の決算議会は「歴史的な転換期」の決算議会になると思う。
 そもそも9月のこの時期の議会を「決算議会」と呼ぶことができるようになったのは、最近のことだ。10年前までも、20年前ならば、閉会中審査、12月議会での決算認定というのが普通だった。12月では予算編成は最終盤、決算審査での議論を予算に反映する、評価を予算に活かすというのは言うだけ無駄のようなものだった。決算の適時性、決算審査の早期化というのは永遠に通用する呪文のような要求だった。ただし求めている理屈は真っ当だったので、決算の早期化に取り組む自治体は増えてきていたとは思う。
 最後の一押しは残念ながら自律的なものではなかった。2007財政健全化法は、健全化計画を定めなければならなくなった自治体に対して「前年度における決算との関係を明らかにした財政健全化計画の実施状況」を9月30日までにと、議会、知事、総務大臣への報告、住民への公表時期を区切ってしまった。その前までに決算をやらなければならなくなった。
 健全化法が施行されたちょうど10年前、9月議会は決算議会となった。決算の重要性と早期化を一本槍の主張としていた自分としては、目の黒いうちに(最近は少し白濁しているかも知れないとはいえ)実現したのは驚きだった。
 決算の早期化は達成されたが、決算認定の効果に変化があったわけではない。もう少し正確にいうと決算不認定の効果に変化があったわけではない。自治体の支出には黄金の公定力が宿る。議会の決算不認定によっても支出の効力は影響を受けず、執行部の責任は政治的なものですらなく、いわば道義的な責任を感じる程度。前段に監査請求や住民訴訟の制度があるとはいえ、執行部は鉄壁のまもりに守られている。
 ところが。
 17年の通常国会で成立した地方自治法の改正の中にこんな項目があった。
 「普通地方公共団体の長は、決算の認定に関する議案が否決された場合において、当該議決を踏まえて必要と認める措置を講じたときは、速やかに、当該措置の内容を議会に報告するとともに、これを公表しなければならない。」(第233条第7項)
 「必要と認める措置を講じたとき」だけでいいので、長にずいぶん甘いが、決算の不認定に対して部分的にとはいえ、説明責任を課したのは評価しておく必要があるだろう。これまで「無答責」だったものに何らかの責任が伴う。この規定は今年の4月1日から施行された。つまり今年の決算議会はその最初の試練となる。
 そもそも不認定はどのくらいあるのだろうか。市議会議長会による「平成29年度市議会の活動に関する実態調査結果」によると、全814市中不認定だったのは9市で全体の1.1%だった。小樽市、男鹿市、仙北市、魚沼市、氷見市、さいたま市、八千代市、印西市、指宿市の9市だ。今年の決算議会が見物だ。
 これが歴史的転換点だって?
 たしかに、少し大げさな表現かも知れない。しかし、原理の転換を果たすことになったのは事実だ。それと後に控える自治法の改正条項は決算議会のあり方を変える可能性を持つ。内部統制制度の導入、監査体制の充実強化。内部統制とは役所の管理の仕組みがうまく機能しているかを長が評価報告書を作って監査を受ける。うまく機能しなかったら責任をとるという仕組みのはずだが、自治法の改正では、責任をとる仕組みは考慮されていない。そもそも収入役、出納長という責任をとる仕組みを廃止しておいて、今更責任をとらない内部統制というのは変だ。内部統制の監査というのは、役所がどう機能するかを評価することになる。役所がどう動くかを一番よく知っている監査委員は誰だろう。その人をはずしてもいいという監査体制の充実強化というのは変だ。監査の職業的専門家が判断の材料とするようにと昨年度末までに公会計制度を整備し、財務書類(諸表)を取りそろえた。ところが、17年度決算の財務書類はほとんどの自治体でまだ用意ができていない。決算期に間に合わない財務書類というのはどんな意味があるのだろう。これも相当変だ。
 まともな方向と変な方向とがあいまって落ち着きどころが分からない。制度の設計者も分かっていないのだろう。しかし、だからこそ、先手をとった方が決算議会の主導権を握ることになる。だいぶ先だとは思うが、あの時が転換点だったと思う日が来る。

 

すがわら としお 公益財団法人地方自治総合研究所委嘱研究員)