地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2017年10月コラム

親友から贈られた『コミュニティ事典』

 天候不順が続いた今年の夏のはじまりのこと、親友から思いがけない贈りものが届いた。1000頁を超える『コミュニティ事典』(春風社)のプレゼントである。折々のメール通信で、親友がその事典の編集委員として苦労されていることを知っていたので、刊行されたならすぐさま購入し、少しでも彼の労をねぎらおうと考えていたところ、本誌8月号に寄せた「楕円的構図」にかんする拙稿執筆でもたついてしまい、はからずも彼自身からの寄贈を受けて、感謝の念と同時に、腕相撲であっさり負けた時みたいな奇妙な感覚がよぎったのであった。
 事典の箱にかけられた白みの帯には、赤い大きな字で「待望」と記され、「千年に一度の大災害といわれた3.11以後、いま最も必要とされている事典!!」とある。また、背文字の下には「共生への指針」と、これも赤い字で記されている。たしかに時宜を得た刊行であり、学術図書の出版事情に照らしても、まさしく一つの快挙であると言ってよい。
 だが、「コミュニティ」とは何であり、それをめぐるさまざまな動きをどのように受けとめたらよいのか。そうした私たちのコミュニティ問題への関心は、なにも「3.11以後」のことだけに限らない。事典の本体を開けば、誰もがそのことに気付くであろう。ちなみに、巻末の資料編収録の「コミュニティ関連年表」は1821~2016年の期間をカバーしているが、本編で扱われている項目のうち、例えばイギリスの「パリッシュの歴史」(13-7)になると、その起源は5世紀にまでさかのぼり、「イギリスの法律にパリッシュが現れるのは12世紀のこと」だという。
 上に例示した事項のような、本編で取り上げられた項目の総数は417項目にわたり、各項目にかんする2頁ごとの説明を担当した執筆者の総数は284名に及ぶ。それらの項目のグルーピングと振り分けこそが本来「事典」編集の妙味であって、8名の編集委員が最も苦労したのも、その作業とそれに伴う執筆担当者の選定・交渉にあったのではないかと推察する。
 本編は15の分野別大項目に分かれる。①コミュニティの思想と歴史、②国家・地方制度のなかのコミュニティ、③近代日本社会とコミュニティ、④ボランティア、NPO、NGOとコミュニティ、⑤グローバル化とネット・コミュニティ、⑥変容するエスニック・コミュニティ、⑦まちづくりとコミュニティ、⑧社会計画・社会開発とコミュニティ、⑨福祉とコミュニティ、⑩安全・安心とコミュニティ、⑪災害・復興とコミュニティ、⑫アジアのコミュニティ、⑬欧米のコミュニティ、⑭コミュニティ・プランニングの対象と方法、⑮コミュニティ・スタディーズの対象と方法、がそれであり、①~⑥が「総論」、⑦~⑮が「各論」である。それらの大項目の冒頭には、編集委員の分担執筆による各4頁の概説がある。各大項目はローマ数字で示される中項目に分かれるが、その区分は各大項目中のパート区分であるため、全体を通じた参照項目番号表記には登場しない。つまり先の例示項目の番号(13-7)は上記の大項目⑬における第7項目であることを表し、ローマ数字の中項目表記は、各大項目中の該当箇所上覧における黒帯背景の白抜き文字で示される。
 本事典の読み方、利用方法はさまざまであろう。私自身は目次の編成を確認したあと、資料編の収録資料をざっと一覧し、ついで項目ごとの参考文献を一通りチェックすることから始めた。そして、まずは現在関わっている自治総研年表委員会の仲間に知らせなければならないと、取り急ぎ同年表委員会の席上、前記「関連年表」のコピーをメンバーに提供したのであった。メンバーの中には項目執筆者もいる。冒頭に記したとおり、私の入手は親友の厚意によるものであって自費購入ではなかったのだが、コミュニティ問題に関心を寄せる人びとが一人でも多く現物を手にして、その見事な出来栄えを確かめていただきたい。本誌コラム欄を借りてのお勧めである。

 

いまむら つなお 中央大学名誉教授)