地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2016年10月のコラム

ヘルパーのキャリア形成


武藤 博己

 ヘルパー(介護福祉士でないものも含む)の給与が低いとしばしば指摘される。まず、実態から見てみよう。厚生労働省の「平成27年賃金構造基本統計調査」(2016年2月公表)によると、ホームヘルパーの平均年齢は45.3歳、勤続年数は6.6年、労働時間165時間/月、超過実労働時間7時間/月、月額給与22万5,100円、年間賞与34万1,900円、年収304万3,100円となっている。
 他の職種と比べることによって、その低さが際立ってくる。全産業の合計を見てみると、平均年齢42.3歳、勤続年数12.1年、労働時間164時間/月、超過実労働時間13時間/月、月額給与33万3,300円、年間賞与89万2,700円、年収489万2,300円となっており、ホームヘルパーより184万9,200円高くなっている。
 福祉施設のヘルパーは、平均年齢39.7歳、勤続年数6年、労働時間:165時間/月、超過労働4時間/月、月額給与22万3,500円、年間賞与47万9,000円、年収316万1,000円となっており、ホームヘルパーより11万7,900円高くなっている。同様に給与の安さが指摘されている保育士は、平均年齢35歳、勤続年数7.6年、労働時間171時間/月、超過労働4時間/月、月額給与21万9,200円、年間賞与60万3,000円、年収323万3,400円となっており、ホームヘルパーより19万300円高くなっている。
 ホームヘルパーの給与は、介護保険外の仕事もあるだろうが、多くの場合、介護保険から支給される。給与が低い理由は、この介護保険におけるホームヘルパー単価が低く設定されているからではないかと考えられる。現在の単価は、身体介護(午前8時~午後6時)では、30分以上1時間未満が388単位(すなわち3,880円、ただし級地指定があり、23区では1単位が11.40円)、20分以上30分未満が245単位、20分未満が165単位とされている。生活援助については、45分以上の場合が225単位、20分以上45分未満は183単位、20分未満はなし、とされている。
 1時間で3,880円の全額をもらえるならば、決して安いとはいえないが、実態はインターネットに掲載されている求人広告の時給をみると、1,800円程度が多い。1日8時間介護の仕事をできるわけではなく、移動時間や準備、活動記録票の記入、それ以外のメモ作成等の時間は時給に計算される場合もあるが、すべてが計算されるわけではない。
 しかも記入された活動記録票は、利用者と事業者に渡してしまうため、手元には残らない。自分でメモしておく以外に記録を手元においておくことができない。そのため、ホームヘルパー個人の記録は、自分で管理することが難しい。このことが、ヘルパーのキャリア形成を困難にさせている原因の1つではないか。
 決して事業者が儲けているわけではない。赤字の事業者が多いという。事業者としては、介護保険から支給される介護費用からホームヘルパーの給与以外に、訪問介護事業所の管理者やサービス提供責任者の人件費、事務費用、事務所費用、会社管理費用、収益を出す必要がある。
 ホームヘルパーの場合、利用者とホームヘルパーのマッチング作業が大変なのである。1人ひとりの利用者の多様な利用時間や介護の状態等考慮しつつ、それに対応できるホームヘルパーを決まった時間に派遣しなければならない。多くの事業所では、月単位で割り振りを決めておくようだが、急に変更が出た場合などには電話でマッチングの作業をしており、そのための人件費や事務費用も馬鹿にならない。こうした変更はしばしばあり、その都度、ヘルパーは仕事がなくなる。代わりの仕事がすぐに見つかることは少ない。
 このように考えると、ホームヘルパーの給与をあげるためには、介護保険の単価をあげるか、事業者のコストを下げてヘルパーの給与に回すか、方法は2つである。前者はすぐに回答のでる問題ではないので、ここでは扱わないが、後者の問題を考えてみたい。
 こうした問題を考えるために、キャリア介護研究会が4年前に設置された。メンバーには、「介護福祉士、介護施設運営・建築家、ITアーキテクト、まちづくり会社・起業家育成、NPO代表……」と書かれている(http://career-kaigo.jimdo.com/)。筆者もメンバーの1人である。
 この研究会が試みようとしていることは、活動記録票をICT化することによって、ヘルパーの活動記録をクラウドに蓄積し、経験や能力等のヘルパーのキャリアを可視化することである。また、このクラウドからのデータを利用して、利用者とヘルパーのマッチングをICT化により効率化して、また書類の保管を容易化して、事業者の経費を節減してヘルパーの給与に回せるようにすることである。現在は、システムの一部が稼働しており、実証実験を行っている最中である。これが完成し、ヘルパーと事業者の利用者が増えると、ヘルパーの給与を引き上げる可能性がある。

 

(むとう ひろみ 法政大学公共政策研究科教授)