地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2016年4月のコラム

議員報酬


武藤 博己

 議員報酬とは、一体、どの程度が適切なのであろうか。ある特別区の特別職等報酬審議会にかかわった経験から考えてみたい。この特別区では、特別職と議員の報酬について、3年ごとに見直してきた。これまでの諮問事項は「額の適否」であったが、今回は「額の定め方」も諮問された結果、特別職や議員の報酬をどのように定めたらよいかという難しい問題に取り組むことになった。
 これまでの議論について、網羅的に調べたわけではないが、①議会の役割やそれを担う議員の職責から報酬を考える方法、②議会における公式の活動日数に1日当たりの基準報酬額(首長や三役などの報酬から算出する)を乗じる方法、あるいは③日当制のように会議に出席した日数に1日当たりの日当を乗じる方法、さらには④実費支給だけの名誉職・ボランティアが望ましい、などがある。①がもっとも望ましいと感じるが、議会の役割を類型化することはできるものの、そこから議員の職責を取り出し、それに見合った報酬を考えるというのは、理論的には可能であっても、具体的な報酬額との関連性を見つけ出すことは難しい。
 そこで、もう少し違った基準や考え方はないものかと考えてみた。たどり着いたのは、一般職の公務員の給与から類推する方法である。一般職の公務員は、「その職務と責任に応ずるものでなければならない」(地公法24条)とされており、また「生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない」(同条3項)とされている。すなわち、生計費を考慮したフルタイムを前提とし、他の自治体や国、民間の給与を考慮して、その「職務と責任」から給与が決められている筈である。
 たとえば、特別区の部長級の給与は、その地域における民間企業における同等の「職務と責任」を有する役職者の給与と比較して、毎年の給与調査に基づいて決定されていることから、社会的に許容される給与となっていると考えられる。もちろん公務員給与に対する批判がないわけではない。とはいえ、一定の手続きを踏んで定められた部長級の給与であることから、かなりの程度、しっかりした基準になるのではないかと考えられる。
 では、この部長級と同等の職務と責任を有する議員の役職はなんであろうか。議案の審議と首長部局の統制という観点から考えると、議会の委員会審議が重要となる。そこでは、委員長が議長となるが、答弁側は部長が責任をもち、委員長と部長が相対する立場に立って、審議が進められる。こうした議会活動の内容から考慮すると、部長と同等の役割は、委員長職でないか、という結論になった。すなわち、部長の給与を100とした場合には、委員長職の議員報酬を部長相当の100と位置づけたのである。確かに、この論理には理念と現実の乖離があるものの、地方議会の活性化や市民の議会参加といった観点からは、委員長の職責は部長級と同等であるべきだという議論は、受け入れやすいのではないだろうか。
 一般の議員について、これまでの相対的な報酬水準を考慮して90とした。同様に議長は130、副議長は110、副委員長は92という報酬水準を適切ではないかと判断した。また、特別職についても、区長は部長級の2倍である200、副区長は150、教育長は125という報酬水準が適切ではないかと判断した。もちろん、これらの指数は、部長職との相対比較から考察した望ましい水準という意味であり、現実に与えられている「職務と責任」をどの程度果たしているかという観点からの見直しが継続的に行われなければならない。また、そうした判断は市民が選挙を契機として様々な機会に政治家の活動を多様な側面から判断をすることの結果であり、それが地域の民主主義を支えることになる。
 これまでの給与実態は、区長が206.7、副区長151.2、教育長127.7、議長120.1、副議長105.1、委員長88.3、副委員長84.4、議員80.3であったため、特別職は引き下げ、議員は引き上げとなった。
 今回の検討対象は特別区であったため、こうした論理が適用できると考えたが、都道府県や町村の場合にはさらに考慮すべき事項があろう。また、期末手当や政務活動費などについても、総合的に検討する必要があり、それによって初めて市民の代表である議員の政治活動が継続的に支えられ、地域の民主主義を発展させていくことが可能となる。

 

(むとう ひろみ 法政大学公共政策研究科教授)