地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2015年11月のコラム

地域自治組織の新しい動き

 島根県雲南市は、小学校区程度の地域での住民組織による地域づくりを、2004年の合併(大東町、加茂町、木次町、三刀屋町、吉田村、掛合町)後から続けてきた。この動きを「小規模多機能自治」と呼ぶ(『人と組織と地球のための研究所』の川北秀人代表の命名だそうだが)。現在までに42の地域自治組織が、29か所の「交流センター」(旧公民館)を拠点に整備されてきた。今年の2月17日に、この取り組みに協力し、交流してきた三重県伊賀市(2004年6市町村合併)、名張市(2009年地域づくり組織条例)、兵庫県朝来市(2005年4町合併)と共同した呼びかけで、東京都内で「小規模多機能自治推進ネットワーク会議」を設立している。目的にはこのような取り組みを進める団体や組織、個人の交流とともに、新しい法人格(スーパーコミュニティ法人)の法定化が挙げられている。


 設立総会では、雲南市長の経過報告につづいて、神野直彦地方財政制度審議会会長、小田切徳美明治大学農学部教授が挨拶し、名和田是彦放送大学教授が「コミュニティ法人の歴史と展望」のテーマで講演した。また川北代表も「自治を回復し、まち・むらの力で解決するために」とのテーマで講演をしている。ここには内閣府地方創生推進室次長、総務省、財務省、経産省、文科省、厚労省、農水省からも参加している。参加団体等は、2015年10月には175自治体、9団体、6個人となっている。


 このような自治体内分権の取組を進めたり調査活動をしている自治体は、日本都市センターが2013年度に行った調査では、全国の都市自治体の半数。その契機は、いくつかあるようだ。まず合併に伴い、旧町村にあった自治的なまとまりを、集権化した新市においても一定程度復元しようという住民意識の尊重がある。


 もう一つは、市民と行政との「協働」が契機になっている場合である。市民と行政との協働は、限られた財源のもとで、超高齢化と少子化、人口減少に対処するための方策として、住民の自治的な力を動員することに主眼があるといってもよい。ただし、この「協働」については、1990年代から2000年代の初めでの議論では、「行政とボランティア・NPOとの協働」であったものが、2000年代初頭以降、「町内会・自治会」との協働にシフトしてきているのが特徴である。


 その「町内会・自治会」は日本独特の地域住民組織といえる。現在はこの町内会・自治会が自治体内分権や地域住民自治組織の中核となっている。これに他の民生児童委員協議会、PTA、社会福祉協議会などの団体のほか、NPOなどが参加して「地域自治組織」を構想することが多い。


 私は、このネットワーク会議に参加はしていないが、同じような「地域自治組織」づくりを進めている奈良市、生駒市、堺市などの議論に参加している。奈良市の場合は、2004年7月に「奈良市ボランティア・NPOとの協働の在り方に関する検討委員会」が置かれ、翌年9月に「協働の在り方に関する指針」案を答申した。その後、2009年に「奈良市市民参画及び協働によるまちづくり条例」を策定した。これはいわば「自治基本条例」という性格をもっている。この条例では、まだ自治会やNPOなどによる「地域住民協議会」は条例化されていない。しかし、この条例には5年後に見直すとの規定があり、この条例に基づく「まちづくり審議会」では、今年の10月に、「地域住民協議会」の規定を条例中に新たに設けることを答申した。この間に、自治連合会の検討委員会が動き出して、2014年2月に「地域自治組織の検討に関する中間報告」を出している。2000年代の特徴は、このように自治会とその連合会が主体的に動き出しているところにある。従来の地域への補助金の交付金化がその動因の一つであることも確かであるが。


 このような小学校区単位を基本とする新しい「地域自治組織」を、町内会・自治会を中心につくる動きはなお広がっていく。地域包括ケアの展開に求められる「地域力」もまた、このような地域自治組織との連携が必須となる。また地域自治組織は地域の起業家を支え、支援するものとしても存在感を増すのではないだろうか。サロンやコミュニティ・レストランの場としてもありうる。高齢者施策、障害者施策、子育て施策などの縦割りの壁を超えて、生活支援のネットワークとして様々な試みが進んでいることに注目したい。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)