地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2014年9月のコラム

小さな祭りとコミュニティ(その2)

 4年前、わが町内の地蔵盆をだしにして「小さな祭りとコミュニティ」という短文を書いた(『自治日報』2010年9月)が、今年はまた役員として参加したのでその続きである。
 地蔵盆の一番の特色は、お地蔵さんのご利益をいただきながら、地域の子供たちの安全と成長を、地域住民の全員参加で見守るところにある。まず子供の名簿つくりを各組ごとに行う。中学生になった子や引越した子を除き、新しく誕生した子と転入してきた子らを加える。この名簿はもちろん部外秘である。世帯数が約130世帯の我が町内では、今年の子供は52名だった。4年前は64名だったから、時代の流れがここにも表れている。ただ小学生より就学前の子供のほうが多いので、急に減るということではない。
 全員参加の例としては7月末の竹筒回しがある。直径10センチはある青竹の一節に切り口を開けたものを持って、組長が各戸を回る。コインを入れる人もあり、お札の人もある。竹筒は8月初めの役員会で開けて費用の一部に充てる。当日は、これとは別に「お供え」が来る。金一封もあれば、ジュースやビール、スイカ、梨、ナスやキュウリなど。個人、組ごと、グループごとで、これは名前を張り出す。この野菜などは、参加者がお下がりとしていただいていく。
 当日は、子供用の福引とともに、大人だけの世帯向けにも福引を行う。当日に来られない世帯には、役員が代わりにくじを引いて、各戸に届ける。景品を選び、買い物をし、袋に詰める作業が大変だ。今年の景品は評判がいいので、役員は皆ほっとしている。
 今年は京大のマジックサークルの学生に手品をしてもらったが、この参加者が多かった。京大生にはお弁当と少額の交通費だけなので、ほとんどボランティア。またビンゴ大会にはだれでも参加できる。子供たちのヨーヨー釣りやスーパーボール遊び、それに輪投げのほかに大人用の輪投げもある。
 これらの準備作業や当日の運営には、様々なネットワークが働いている。その基盤は、まず「ママ友」である。小学校のPTA活動、同じく幼稚園や保育園の友達同士の結びつきは強い。その縁を基礎に、お父さんたちも結構知り合いで、それぞれの持ち味も生かして手伝いをする。これに古い役員さんたちが知恵と手を出す。祭壇の組み方、お飾りの姿。お地蔵さんの化粧や花の飾り方。前日から前回や前々回の役員さんたちが15人以上手伝いに来てくれた。当日の朝、お坊さんがこられる前に、近所のお年寄りなどがきれいに化粧されたお地蔵さんを拝みにこられる。ここには「祈り」が生きている。こうして人のつながりが再生され、新しく広がる。
 ところで、小学校区レベルで自治連合会やNPOなどの地域自治組織を新しく統合し、その連携を図る「地域自治協議会」や「まちづくり協議会」、「コミュニティ協議会」を創る動きが広がっている。中核市42市のうち26市において設置され、4市で検討中だという。政令指定都市でも北九州市や熊本市、福岡市にできている。このような「地域自治協議会」をつくるとき、ここで見たような「祭り」の要素が重要だ。その創出、毎年の準備と継承、経験の蓄積によって、そのまちの個性や人のつながりの特性がかたちづくられる。既存の小学校区の自治組織にはそれがある場合が多い。月一回の「ふれあい食事会」など奈良市でユニークな活動をしている「鳥見地区社協」では、初夏と秋に「わくわくフェスタ」を開き、模擬店、バザー、豚汁接待などを開く。大阪市鶴見区の「緑地域活動協議会」の中心は7月の2日間にわたる盆踊り大会(河内音頭)のようだ。
 「祭り」をつくる人のつながりが、コミュニティのつながりをつくり再生産する。これは、もっと大規模だが京都祇園の山鉾巡行や岸和田のだんじり、小倉の祇園太鼓を支えるコミュニティに似ている。これらは明治以降の戦争と侵略、被災の時代を超えてきた経験を持っている。その意味をあらためて考えてみたい。

 

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)