地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2014年4月のコラム

この4月に消費税を考える

菅原 敏夫

 安倍晋三首相に教えられた。消費税の一番肝心な点。参議院予算委員会、今年の3月3日の質疑。
 「内閣総理大臣(安倍晋三君) 政策担当秘書、第一秘書、第二秘書は、これは国が決めておりますので、(質問者、民主党政調会長)櫻井充事務所と同じでございますが、他方、地元の秘書の方々については」、「まあ今固唾をのんでこの番組、私の答えを待っているかもしれませんが」と笑いを誘って、「物価が上がっていくことに対して対応できるように事務所としてもしっかりと引き上げていきたいと、このように思っております。」と述べた。首相の「物価が上がっていくこと」というのは、消費税の増税による物価の上昇を指している。消費税率の引上げによって、物価は上昇する。内閣府の試算によれば、消費税の5%から8%への引上げによって、消費者物価が2%上昇する。
 消費税引上げを原因とする物価上昇についてはどう対処したらよいのだろう。消費税を税務署に納めている人・法人であれば、なにもしなくていい。引上げ分は転嫁すればいいし、転嫁できるように政府が血眼になっている。仕入れ価格原価が変わらないのだったら、消費税率が何十パーセントになろうと関係ない。そうでない人(私も、この欄の読者の大半、生活のための直接消費)は転嫁できない。安倍首相の答弁にあるように、国家公務員、もちろん地方公務員も、その使用者は、転嫁をさせるつもりはないらしい。ただ、「しっかりと引き上げていきたい」と思う善意の使用者に恵まれた者だけが、この物価上昇に対処できるのだ。これは運の問題なので、なすすべなく、「固唾をのんで」国会中継などに見入っているのだ。首相は、国家公務員全体の雇用にも関係していると思うが、地元の自分の事務所の職員しか眼中にない。
 1989年4月1日、3%で始まった多段階・前段階控除・付加価値税型・一般消費税は8%まできた。低税率の時には目立たなかったことが、ここにきて大きな問題として立ちはだかっている。それは、消費税がかかっているものとかかっていないものの差、消費税をかけている国とかけていない国の差が大きくなってきたということに現れている。後者の消費税を持たない国の代表はアメリカである。日・米、欧・米、加・米の消費税(付加価値税)をめぐる通商関係は熾烈で、別に論じなければならないが(それに関する短い書評を『月刊自治研』4月号に書いた。ご笑覧いただければ幸い)、ここでは内国税制に関する限りで述べる。
 消費税がかからないというのには、3つのタイプがある。「非課税」と「免税」と「不課税」だ。消費税は、原則として、国内において「事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け及び役務の提供」ならびに「輸入取引」を課税の対象としている。「非課税」には、土地の取引やお金(支払い手段)の譲渡など「消費」になじまないものと、社会政策上「課税」になじまないものがある。課税になじまないものは、社会保険診療、介護サービス、自治体の手数料対象事業、学校教育など。ところが税率が上がって、「課税」側との差が大きくなると、非課税が不利に働く。仕入れの中に含まれる消費税分を転嫁できないのだ。代表は医療で、診療側の要求は、社会保険診療を「課税」取引とするようにというものである。その上で、軽減税率、できればゼロ税率に、と。社会政策上非課税に、といっても迷惑なだけで、膝を屈してでも課税の仲間に入りたいということになる。介護サービスの中に含まれている前段階の課税取引も、認知症対応型共同生活介護の13.5%から、福祉用具貸与の49.4%まで、平均で22.1%も含まれている。
 免税で問題になるのは、輸出という免税取引のことである。前段階消費税分は還付される。外に対しては非関税障壁、輸出補助金の役割を果たす。これも主要な貿易相手国が還付つき付加価値税を採用していたら、競争上、膝を屈してでも付加価値税課税国の仲間に入らなければならなくなる。アメリカはいまだにがんばっている。
 最後に不課税。安倍首相の指摘に返る。上に見たように、賃金の不課税は理屈もなにもない。たしかに、寄付(消費税不課税)などは、対価でもなく、事業でもないだろう。しかし、「給与・賃金は、雇用契約に基づく労働の対価であり、『事業』として行う資産の譲渡等の対価に当たらない」と国税庁に言われたところで、この文章を理解することは難しいだろう。「『事業』とは、同種の行為を反復、継続、独立して行うこと」と定義される。だとしたら、私たちが毎日反復し継続していることは、事業でなくて何だろう。人格的に使用者に服属しているとでも見えるのだろうか。
 今の形の消費税(付加価値税)は20世紀の発明品だ。GATTの例外と認めさせたことはたいした成功だったが、国内にはひどい影響をもたらした。不課税という名の賃金を道連れにするのでなければ、負担する者はいなくなる。インフレは大衆への課税だと言われるが、消費税はそれをスマートに言い換えたものに過ぎない。

 

すがわら としお 公益財団法人地方自治総合研究所非常任研究員)