地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2011年6月のコラム

震災国会で「地域主権関連3法」が成立

  少し前のことになるが、東日本大震災犠牲者の多くにとって一区切りの49日目を迎えた当日、民主党政権によって掲げられた「地域主権改革」にかんする最初の3法案が、開会中の第177回通常国会で成立した。国会に法案の提出があったのは一昨年の第174回通常国会のことであり、それ以来の継続法案であるから、まぎれもなく、ようやくの成立である。

 全国紙のどれも翌日の朝刊4面あたりで、「地域主権3法」あるいは「地域主権関連3法」の成立を小さく報じていた。限られたスペースであるにせよ、その見出し表現は不正確で、妥当とはいえない。なぜなら、民主党政権がキーワードとした「地域主権」や「地域主権改革」の文言を、内閣の提出法案名と条文からすべて削除するという、かなり思い切った修正をおこなったうえで成立にこぎつけたものであるのに、そのことに十分な配慮をくわえず、「地域主権」の用語をそのまま使うのは、その全面的削除に踏み切った「国権の最高機関」の意思を無視するものでしかないと思われるからである。少なくとも国会では「地域主権」が葬り去られたのである。

 一昨年の初秋、鳩山内閣が成立した翌日のこと、私は自治総研セミナーの講演において「おぞましい地域主権」とするコメントを述べた。そのことを聞いて親身になって心配してくれた友人はすでにこの世にいない。ほかにも、私見を活字化した際に「あんなことを言ったり書いたりしても、なにせ地域主権改革は政権にとって『一丁目一番地』の改革なんだから」と、たてついても無駄であると言わんばかりの忠告をしてくれた親切な(?)人もいる。

 そんなことを思い出すと、法文から「地域主権」の文言が消えたことについて、それなりの感慨めいたものにふけりたくもなる。しかしそれよりも、与野党の修正協議によって上記3法案が成立の運びになったとの情報に接したとき、とっさに感じたのは別のことで、どうして大震災の直後なのに、「国の安全」は地方自治体のあずかり知らぬことと言わんばかりの改正条文を含む「地方自治法の一部改正」が成立することになってしまったのかという点だった。

 成立した3法の中で、「地域主権」の文言と直接関係がないのが「地方自治法の一部改正」であるのだが、その96条2項カッコ書き部分を見られたい。改正前の条文は、地方議会の議決事件から「法定受託事務に係るものを除く」という、とんでもない代物であった。だから、かつて地方制度調査会で私は、カッコ書き部分の削除にこだわったのだった。ところがそれが、「法定受託事務に係るものにあっては、国の安全に関することその他の事由により議会の議決すべきものとすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く」となってしまったのである。

 なにゆえにこんなカッコ書きが必要なのか。福島原発事故が「国の安全」にかかわることは明らかである。沖縄・名護市の基地問題だってそうである。それについて地方議会がみずからの議決事件とすることが、国の政令次第で「適当でないもの」になってしまうというのは、いったいどういうことなのか。それに、地方自治体がみずからの事務について「法令に違反しない限りにおいて条例を定めることができる」との原則的規定が別にあるのに(14条1項)、わざわざ、どうしてこんな醜悪なカッコ書きをつけなければならないのか。疑問を通り越して腹立たしくもなる。

 
それというのも、この法改正は、こともあろうに、未曾有の大震災の勃発を機に、多くの自治体が「国の安全」はみずからの問題でもあるとの認識を強めているさなかでの出来事なのである。

いまむら つなお  山梨学院大学教授)