地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2011年3月のコラム

 

浸透する政策評価つきの総合評価制度

 

 今年の1月5日、片山善博総務大臣が記者会見での質問に答えて、昨年12月28日付けで発出された総務省自治行政局長の助言「指定管理者制度の運用について」に関して述べていることが注目されている。一つは、制度の趣旨と異なって、指定管理の運用が「コストカット」に偏しているのではないか。そのために、本来、指定管理になじまないような施設(たとえば学校図書館)にまでその波が及んでいるように見える。また指定管理の活用も含むアウトソースを進めた結果、官製ワーキングプアを随分生んでしまった。その自覚と反省は必要だろう。以上がその趣旨のようだ。いずれにしてもダンピング防止と行政の品質確保、社会的価値実現の三つを同時に図ることが財政困難の中で問われている。

 ところで、WTOの政府調達協定によって地方政府の工事や事業請負の入札についても、都道府県と指定都市については、「地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令」によって「最低制限価格制度」を採用することは禁止されている。このことも含めて、「自治法施行令第167条の10」などによるダンピング防止のための「低入札価格調査制度」が活用されている。

 それとならんで、政策評価つきの「総合評価一般競争入札制度」の採用が広がってきた。特に都道府県や政令指定都市は、今見たように最低制限価格制度をとれないことを、総合評価制度を導入することで回避しようとする動きが強くなっている。政策評価付き総合評価制度によってダンピングを防止しながら工事の品質及びその事業の実施を通じた社会的価値の実現を図るという政策目的を達しようとするものである。

 大阪府堺市では、本庁舎の清掃事業の請負に一昨年から総合評価一般競争入札方式を導入した。これは大阪府と大阪市では既に2004年頃から導入されていたものだ。また豊中市では2007年度から採用されている。今年はこれを西区役所の清掃事業に拡大して行われた。今回の入札における評価項目は価格評価、技術的評価、公共性(政策)評価、の3項目立てである。評価基準とウェイトは次のようになっている。

 価格評価は1000点満点の内700点。最低入札価格を満点とし、以下は最低入札価格を2位以下の事業者の入札価格で割った数値に700をかけて2位以下の点数を出す。また、契約予定者の入札価格が基準価格を下回っている場合は、調査を実施し適正な履行が確保できるか調査を行うとして、「低入札価格調査制度」も組み込んでいる。

 技術的評価では、①研修体制(計画、実施実績)に20点、②履行体制(作業計画表、作業員配置表、業務実施体制図)に30点、③品質保証への取り組み(ISO9001の取得状況、苦情処理体制)に10点、合計60点が配分される。

 公共性評価では①就職困難者の雇用に関する取り組み(地域就労支援センター、障害者就業・生活支援センター、母子家庭就業・自立支援センターからの紹介者の新規雇用予定数)に70点、②障害者の雇用に関する取り組み(ⅰ知的及び精神障害者の雇用、ⅱジョブコーチ配置など環境整備、ⅲ障害者の雇用率)に90点、③男女共同参画への配慮(セクハラ防止の社内規定の有無と取り組み内容)に40点、④環境問題への取り組み(ⅰISO14000など環境マネジメントシステム導入の状況、ⅱ再生品の利用、ⅲ低公害車の使用)に40点、合計240点である。

 応札企業は予想を大きく超える約40社で、うち市内業者は60%程度、その他は大阪市や近隣市からである。市では各項目を担当する総務課、労働課、男女共同参画担当、環境課などの担当委員がそれぞれ専門の視点から評価し、点数を出す。

 結果は価格評価が700点の最低入札価格の業者(堺市)は総合評価で5位以下になり、価格評価では6位程度の事業者(大阪市)が総合評価でトップとなった。一応、価格のみではなく公共政策評価で高い点を取った事業者が優位に立つことになったと評価できる。

 改善すべき点もある。まず野田市の公契約条例が保障するリビングウェイジ的な労働条件確保の項目をこれからどう入れていくか。現在働いている従業員の雇用を継続することで、労働のスキルや雇用の安定性をどう確保するか。配点がこれでいいか、事業者の負担をどう軽減するか。事業者の力をどうつけていくか、など。

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)