2011年2月のコラム
|
住民自治の強化と議会-地方自治法改正案に思う- |
辻山 幸宣 |
|
いま開かれている第177回通常国会に地方自治法改正案が提出される予定になっている。この改正案は政府の地域主権戦略大綱(2010.6.22閣議決定)に掲げられた「地方政府基本法の制定(自治法の抜本見直し)」のうち、「速やかに制度化を図る」事項のみを切り出して法制化しようというものである。その内容は、①鹿児島県阿久根市における専決処分問題に対応して専決処分および議会招集権についての手直し、②名古屋市における議会解散直接請求に際しての指摘に対応して請求要件の緩和、署名収集期間の延長、③地方議会の会期を通年制にすることを可とする、④重要な公の施設設置についての拘束的住民投票の採用、⑤地方税の賦課徴収等に関する条例も直接請求の対象とする、⑥国等の是正要求等になんらの措置をも取らない場合の国からの違法確認訴訟の道を開くなどが主なものである。 この改正案の背景にある事情は大きく三つ。一つは阿久根市、名古屋市にみられるような長・議会の対立状態、そしてそれを打開するために採られた住民投票(議会解散)という方法への注目である。二つには、新たに就任した片山善博総務大臣の住民自治の強化という年来の考え方である。三つには、国立市、矢祭町(福島県)の住基ネット不接続への是正要求が市町によって放置されている現状である。一と二は近接した問題を提起している。ここでは、この両者について私なりの考え方を述べておきたい。 というのも、ある月刊誌から2月6日投開票のトリプル投票(愛知県知事選挙・名古屋市長選挙・名古屋市議会解散住民投票)の結果が示すものは何かについての執筆依頼をうけ、さまざまに思いをめぐらせていたからである。おそらくこの出来事は、阿久根市の事例とも共通して、戦後地方自治における二元代表制が初めて開花することになる幕開けを意味するのではないか、それにしては両市長の仕掛けは「不気味さを禁じ得ない、それは…」というようなストーリーでいこうかと考えている。 ところで片山総務大臣は就任後初の地方行財政検討会議でつぎのようにその期するところを述べている。「今までいろんな改革でやってきたのは、主として地方自治の分野で団体自治の強化であると思います」。「地方自治というのはもう一方、住民自治の強化というのがあるはずでありまして、それがこれまでの改革には…十分ではないのではないか」。まったく同感ではある。そして重要な政策決定に住民投票を採用すべく、大規模な公の施設の設置に住民投票を要件とするなどの改正を行う。また、「地方自治の原点というのは、実は税を決めること」「ところが税条例については、税負担については一切触らせないというのは、自治の基本を否定しているようなものなんです」と述べ、条例の制定改廃請求の対象から地方税や手数料等を除外している現行法はおかしい、改めて住民による直接請求の対象にするという改正案を用意している。 住民が決定する。住民投票による多数の意思が尊重される。「減税条例に反対する議会はおかしい、報酬半減を認めない議会は不要だ、住民の皆さんの力でこういう議員たちを放逐しましょう」という訴えに、名古屋市民68万人が「そうだ」と応えた。阿久根市でも同様の政治劇が繰り広げられている。この方向は正しいのだろうか。できるだけ多くのことを住民投票で決していく政治、多数の意見で社会をまとめていく、社会統合とはそうしたものだろうかと思い悩んでいるとき、ある1冊の書物を思い出した。今はなき高畠通敏氏の『市民政治再考』(岩波ブックレット№167、2004年)である。そこでは、エドマンド・バークを引きつつ「もし国民代表(代議士)が、選挙のときの言説にいつまでもしばられているとすれば、議会において討議をするということの意味が失われる」「代議士が討議の後に意見を変える自由をもたないなら、選挙が終わったとたんに、すべての法案の行方は決まってしまうことになります」(6頁)と。 |
|
(つじやま たかのぶ 公益財団法人地方自治総合研究所所長) |
|