地方自治総合研究所

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月刊『自治総研』

2010年10月のコラム

 

公立病院改革の視点 その2

 

 

  大阪府の北河内地域(枚方、交野、寝屋川、守口、門真、四条畷、大東)で唯一の市立病院である枚方市民病院。ここで倫理審査会の委員をおおせつかり、一年に数回の会議に出ている。新しい医療技術や手術手法、新薬剤の導入などのときに必要に応じてその妥当性を判定する委員会だ。外部委員の一人として、市民の目線で、インフォームドコンセントが適切か、患者や被験者の権利が侵害されていないか、といった視点から注文をつける。

 許可病床数419床、実働301床、標榜診療科目19のこの市民病院も最近までご多分にもれず赤字で累積欠損金は32億円を超えていた。2004年度に緊急財政対策として公営企業法の財務規定を全部適用した。管理者を置き、病院長を要とした人事の刷新、病院の理念明確化、薬剤購入と在庫管理の一元化など経費の効率化・節減と、地域の診療所(医院)との連携強化など。その成果か2005年度から単年度黒字(純利益)に転換した。経常収支比率は直近の決算である2008年度で103.1だから堂々たる黒字病院である。大阪府内の市立病院16(公立忠岡病院を除く)のうち唯一黒字である。

 もっとも市内には関西医科大学付属病院が2006年1月、13階建て744床の規模で開院したほか、従来から580床の星ヶ丘厚生年金病院、330床の京阪奈病院(国公共済)があり、それぞれの棲み分けができるか、経営的には厳しい。

 ただしこの間、公立病院としての理念を忠実に追求することで、地域での市民病院への信頼は確実なものになっている。その理念の第一は、小児医療の充実で、特に医療圏を中心とする小児救急医療を24時間365日体制で維持することである(医療ニーズ調査分析報告書などから)。小児医療はいわゆる不採算医療で、公立病院が積極的に支えることが期待されている。2010年10月現在、専門医4人、医員と研修医8人、計12人のスタッフが支えている。地域の診療所や病院からの紹介件数は、小児科では圏域の前記4総合病院の中で市民病院がずば抜けて多く、地域医療機関からの支持や信頼が篤い。また市内病院で唯一病児保育を行い、院内学級も持っている。専門外来として発達障害についての診療や支援を積極的に実施している(予約制)。

 地域連携では、現在の森田眞照院長が赴任してから、地域の診療所を回って市民病院との連携を提案したのだが、最初は「剣もほろろ」だったという。2000年に明らかになった元病院長などの薬剤購入を巡る贈収賄事件が響いて、市民病院の信用は地に堕ちていた。その地点からのニーズの堀起こしと信頼関係の構築がようやく実を結び始めている。ホームページにある研修医学生の感想を読むと、もう一つの理念である「温かく思いやりのある医療の提供」をスタッフが着実に実践している様子が伝わってくる。

 昨年、マイナス人事院勧告にしたがって枚方市も給与の引き下げの議論があったが、病院事務局は医療スタッフ確保のために、医療職については現状維持を考えた。人事当局もこれを受ける方向で議論していたところ、医療スタッフサイドから待ったがかかったという。「医療現場はチーム医療だ。給与の取り扱いでそのような差をつけるとチーム医療の根幹が崩れる。対応は一緒に。」という理由からだ。

 現在、老朽化した病院を隣地の国家公務員宿舎跡地を活用して建て替える計画が進んでいる。課題は多いだろうが、医療スタッフが働きやすく、患者には温かく親切な病院として、財政負担が少ない新病院になることを期待している。それに市当局と率直に議論できる関係を維持し、医療職・事務職・技術職員間で専門を超えてフランクな議論ができ、迅速な意思決定ができる組織としてさらに前に進んでもらいたい。また地域の住民組織との交流・研修活動を推進し、地域の医療機関や地域包括支援センターなどの福祉専門職と協働で研究やカンファレンス事業ができる力量をさらに強めることも期待される。

さわい まさる 奈良女子大学名誉教授)